StudyMed医師国家試験

肝硬変フォローの二本柱―「癌」と「静脈瘤」を先回りして見つける

第104回医師国家試験 B問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第38問

肝硬変患者に定期的に行うのはどれか。2つ選べ。

  1. a.腹部ダイナミックCT
  2. b.上部消化管内視鏡検査
  3. c.下部消化管内視鏡検査
  4. d.磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉
  5. e.ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝硬変の患者さんを外来で長く診ていくときに、何を目的にどの検査を定期的に行うかを問う問題だ。考え方のコツは、検査の名前から入るのではなく「肝硬変の命に関わる合併症は何か」から逆算すること。思いつく合併症を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
腹水、肝性脳症、食道静脈瘤、肝細胞癌……あと特発性細菌性腹膜炎や肝腎症候群もありました。
ドクタードクター
よく挙がったね。その中で、症状が出る前に見つけておけば予後を大きく変えられるものが、定期検査の主なターゲットになる。代表は肝細胞癌と食道・胃静脈瘤の2つだ。
医学生医学生
肝細胞癌は、病理実習で肝硬変の結節だらけの肝臓の中に癌ができている標本を見ました。肝硬変が癌の発生母地なんですね。
ドクタードクター
その通り。とくにB型・C型肝炎ウイルスによる肝硬変は発癌リスクが非常に高い。小さいうちに見つければ切除やラジオ波焼灼療法などの根治的治療が狙えるから、画像で定期的に拾い上げることが大切なんだ。そこで役立つのが腹部ダイナミックCTだ。
医学生医学生
ダイナミックCTは、造影剤を入れてから時相を分けて撮るCTでしたよね。
ドクタードクター
そう。造影剤を急速に静注して、動脈相、門脈相、平衡相と撮り分ける。典型的な肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるので、動脈相で周りより強く染まり、その後の相では周囲より黒く抜ける。これを早期濃染とwashoutと呼ぶ。このパターンで再生結節などと見分けやすくなるんだ。
医学生医学生
でも定期検査なら、毎回CTだと被曝が気になります。消化器内科を回ったときは、外来でエコーをよくやっていました。
ドクタードクター
いい指摘だね。実際、定期フォローの基本は簡便な腹部超音波検査と腫瘍マーカーで、AFP、AFP-L3分画、PIVKA-IIを測る。そのうえで、ウイルス性肝硬変のような超高危険群では、一定の間隔でダイナミックCTや肝細胞相をもつ造影MRIを組み合わせるのが標準的な考え方だ。次に、静脈瘤のほうはどうだろう。
医学生医学生
門脈圧が上がって、側副血行路として食道や胃の粘膜下の静脈が太くなるんですよね。破れると大量に吐血します。
ドクタードクター
そう、破裂すれば死亡率も高い。だから出血する前に上部消化管内視鏡検査で、静脈瘤の有無、大きさ、発赤所見を評価する。太い静脈瘤や発赤所見陽性は出血リスクが高く、内視鏡的静脈瘤結紮術や硬化療法で予防的に治療する。いま静脈瘤がなくても、病態が進めば新しく出てくるから、間隔をあけて繰り返し見ていくんだ。
医学生医学生
門脈圧亢進症なら直腸の静脈もうっ血しますよね。下部消化管内視鏡も定期的にやるべきではないでしょうか。
ドクタードクター
理屈としては鋭いね。確かに直腸静脈瘤や痔核ができることはある。ただ頻度は食道・胃静脈瘤よりずっと低く、臨床的な重要性も小さい。肝硬変だからという理由で定期的に行う検査ではなく、大腸癌検診や下血の精査など別の理由があるときに行うものだ。
医学生医学生
MRCPは肝臓に関係しそうな名前なので、ちょっと迷いました。
ドクタードクター
MRCPはMRIのT2強調像を使って、造影剤なしで胆管と膵管を描く検査だ。総胆管結石や胆管癌、原発性硬化性胆管炎などの評価には優れているけれど、肝細胞癌や静脈瘤の監視には向かない。肝臓の「どこ」を見る検査かを意識すると区別しやすいね。
医学生医学生
PETは癌全般に強いイメージがあるので、肝細胞癌のスクリーニングにも良さそうに思えます。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいポイントだ。FDG-PETは糖代謝の活発な腫瘍を描き出す検査で、病期診断や転移・再発の検索が主な用途だ。高分化型の肝細胞癌はFDGをあまり取り込まないことが多く、早期の肝細胞癌の検出能はダイナミックCTやMRIより明らかに劣る。費用や被曝の面からも定期スクリーニングには向かない。
医学生医学生
つまり、肝細胞癌にはダイナミックCT、静脈瘤には上部内視鏡、という合併症と検査の組み合わせで考えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での補足をしておこう。静脈瘤の出血予防には、内視鏡治療のほかに非選択的β遮断薬で門脈圧を下げる方法もある。また定期フォローでは、腹水の増加や肝性脳症の徴候、門脈血栓症などにも目を配り、肝予備能の変化を見ながら検査の間隔を調整していく。
医学生医学生
検査をただ並べるのではなく、「何を見逃したくないか」から組み立てるんですね。
ドクタードクター
そう。それがフォローアップ計画の基本で、ほかの慢性疾患にも通じる考え方だよ。

まとめ

肝硬変の定期フォローの目的は、生命予後を左右する肝細胞癌と食道・胃静脈瘤を症状が出る前に見つけることです。肝細胞癌には超音波検査と腫瘍マーカー(AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II)を基本に、高リスク例では動脈相の早期濃染と後期相のwashoutを評価できるダイナミックCTや造影MRIを組み合わせます。静脈瘤には上部消化管内視鏡検査を行い、大きさや発赤所見から出血リスクを判定して内視鏡的結紮術などで予防的に治療します。下部消化管内視鏡、MRCP、FDG-PETは主要合併症の監視には適さず、定期検査には含まれません。「どの合併症を見逃したくないか」から検査を逆算する考え方は、慢性疾患のフォローアップ計画全般に役立ちます。

解答・解説

正解はa, bです

肝硬変の経過観察では、生命予後を左右する合併症を早く見つけることが目的になる。代表的な合併症は次の二つである。 1. 肝細胞癌:肝硬変は肝細胞癌の最大の発生母地である。とくにB型・C型肝炎ウイルスによる肝硬変は発癌リスクが非常に高い。小さいうちに見つければ、切除やラジオ波焼灼療法(RFA)などの根治的治療ができる。 2. 食道・胃静脈瘤:門脈圧亢進症によって側副血行路が発達し、食道や胃の粘膜下の静脈が太くなる。破裂すると大量に吐血し、死亡率も高い。出血する前に見つけて予防的治療を行うことが重要である。 したがって、肝細胞癌を拾い上げる画像検査(超音波検査に加えて腹部ダイナミックCT・MRI)と、静脈瘤を評価する上部消化管内視鏡検査を定期的に行う。そのほかの選択肢は、肝硬変に特有の重大な合併症を監視する目的には合わない。

選択肢考察

  1. ○a.  腹部ダイナミックCT

    肝細胞癌のスクリーニングと質的診断に使う。ダイナミックCTでは、造影剤を急速に静注したあと、動脈相・門脈相・平衡相(後期相)と時相を分けて撮影する。典型的な肝細胞癌は主に肝動脈から血流を受けるため、動脈相で周囲より強く濃染する(早期濃染)。門脈相から平衡相では周囲の肝実質より低吸収になる(washout)。このパターンから、再生結節などと区別しやすい。定期フォローでは簡便な腹部超音波検査を主とし、発癌リスクの高い患者では一定の間隔でダイナミックCTやMRIを組み合わせるのが標準的である。

  2. ○b.  上部消化管内視鏡検査

    食道・胃静脈瘤の有無、形態(大きさ)、発赤所見(red color sign)を評価するために定期的に行う。発赤所見や大きい静脈瘤は出血リスクが高い。その場合は、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や内視鏡的硬化療法(EIS)で予防的に治療する。門脈圧亢進症性胃症の評価にも役立つ。静脈瘤がないと確認されても、病態の進行で新たに出現しうるため、間隔をあけて繰り返し検査する。

  3. ×c.  下部消化管内視鏡検査

    門脈圧亢進症では直腸静脈叢もうっ血し、直腸静脈瘤や痔核が生じることがある。しかし頻度は食道・胃静脈瘤よりずっと低く、臨床的な重要性も小さい。肝硬変であることを理由に定期的に行う検査ではない。大腸癌検診や下血の精査など、別の適応があれば行う。

  4. ×d.  磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉

    MRCPは、MRIのT2強調像を利用して、造影剤を使わずに胆管と膵管を描出する検査である。総胆管結石、胆管癌、膵管の拡張・狭窄、原発性硬化性胆管炎などの評価に使う。肝硬変の主な合併症である肝細胞癌や静脈瘤を監視する目的には合わず、定期検査には含まれない。

  5. ×e.  ポジトロンエミッション断層撮影〈PET〉

    FDG-PETは、ブドウ糖の類似物質(FDG)を多く取り込む、糖代謝の活発な腫瘍を描出する検査である。主に悪性腫瘍の病期診断、遠隔転移の検索、再発の検出に使う。高分化型の肝細胞癌はFDGの取り込みが少ないことが多く、早期の肝細胞癌の検出能はダイナミックCTやMRIより明らかに劣る。費用や被曝の点からも、定期的なスクリーニングには向かない。

肝硬変の主な合併症

・肝細胞癌 ・食道・胃静脈瘤(破裂による消化管出血) ・腹水、特発性細菌性腹膜炎 ・肝性脳症 ・肝腎症候群 ・門脈血栓症

肝細胞癌のサーベイランス(日本の考え方)

・高危険群:慢性B型肝炎、慢性C型肝炎、ウイルス以外の原因による肝硬変。6か月ごとの腹部超音波検査と腫瘍マーカー測定が基本となる。 ・超高危険群:B型・C型肝炎ウイルスによる肝硬変。3〜4か月ごとの超音波検査と腫瘍マーカーに加え、6〜12か月ごとのダイナミックCTまたはEOB・プリモビスト造影MRI(肝細胞相をもつ造影MRI)の併用が推奨される。 ・腫瘍マーカー:AFP、AFP-L3分画、PIVKA-II(DCP)。

静脈瘤の評価

・内視鏡所見の記載では、占居部位、形態(F1〜F3)、基本色調、発赤所見(RC sign)などを評価する。F2以上や発赤所見陽性は出血リスクが高く、予防的治療の対象になる。 ・非選択的β遮断薬による門脈圧の低下も、出血予防の選択肢である。

POINT

・肝硬変の定期フォローの二本柱は「肝細胞癌の早期発見」と「食道・胃静脈瘤の評価」である。 ・肝細胞癌には超音波検査とダイナミックCT・MRI(動脈相で早期濃染し、後期相でwashout)、および腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)を用いる。 ・静脈瘤には上部消化管内視鏡検査を用い、F因子や発赤所見で出血リスクを判定する。 ・FDG-PETは高分化型の肝細胞癌の検出に弱く、スクリーニングには向かない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。