StudyMed医師国家試験

オタワで生まれた「健康づくり」―ヘルスプロモーションと国際文書の整理術

第104回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第104回 B問題 第13問

第1回健康増進(ヘルスプロモーション)国際会議で採択されたのはどれか。

  1. a.WHO憲章
  2. b.オタワ憲章
  3. c.リスボン宣言
  4. d.ヘルシンキ宣言
  5. e.アルマ・アタ宣言

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の国際文書の問題だ。ヘルスプロモーションという考え方がどの会議で、どんな文書として生まれたのかを問うている。選択肢に並ぶ文書はどれも頻出だから、「誰が・いつ・何のために」採択したかを対にして整理するのが着眼点だよ。
医学生医学生
社会医学の講義で年号を一気に詰め込まれて、正直どれがどれだか混ざっています。
ドクタードクター
よくある悩みだね。まず大きく2つに分けよう。WHOが関わった会議の成果と、世界医師会が採択した医の倫理に関する宣言だ。これだけでずいぶん見通しがよくなる。
医学生医学生
リスボン宣言とヘルシンキ宣言は世界医師会でしたよね。CBTの医療倫理の範囲で出てきました。
ドクタードクター
その通り。ヘルシンキ宣言は1964年、人間を対象とする医学研究の倫理原則で、インフォームド・コンセントや倫理審査委員会による審査を定めている。リスボン宣言は1981年の患者の権利に関する宣言で、良質な医療を受ける権利、自己決定の権利、情報を得る権利などを掲げた。どちらも医師の側の倫理規範で、健康づくりの会議とは別系統なんだ。
医学生医学生
ではWHO系の3つが候補ですね。WHO憲章は健康の定義が書いてあるものでしたっけ。
ドクタードクター
そう。1946年に採択され1948年に発効してWHOが設立された。前文の「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」という定義が有名だね。ただ、これは組織の設立文書であって、ヘルスプロモーション会議の成果ではない。
医学生医学生
アルマ・アタ宣言も健康づくりっぽい響きなので迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいポイントだ。アルマ・アタ宣言は1978年、WHOとユニセフ共催のプライマリ・ヘルス・ケアに関する国際会議で採択された。「2000年までにすべての人々に健康を」を目標に、身近で基本的な保健医療を住民参加のもとで公平に届けることを重視した。主に開発途上国の保健医療体制づくりを念頭に置いたものなんだ。
医学生医学生
ということは、正解はオタワ憲章ですね。
ドクタードクター
正解。1986年、カナダのオタワで開かれた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された。ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義したのが核心だよ。
医学生医学生
アルマ・アタとの違いがまだ少しあいまいです。どちらも住民が主体という感じがします。
ドクタードクター
いい疑問だね。アルマ・アタは基本的な保健医療サービスを公平に届ける仕組みづくりが中心。一方オタワ憲章は、先進国で生活習慣病が大きな課題になる中で、個人の生活習慣の改善だけでなく、それを可能にする環境や政策づくりまでを含めて健康を実現しようとした。健康を医療者の指導だけで得られるものとは考えず、社会全体で支えるという発想なんだ。
医学生医学生
地域医療実習で保健所を見学したとき、減塩や禁煙の取り組みを個人指導だけでなく、お店や職場と一緒に進めていると聞きました。あれがまさにその発想ですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。オタワ憲章は5つの活動領域を掲げている。健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換だ。さらに基本戦略として、唱道(advocate)、能力の付与(enable)、調停(mediate)の3つがある。
医学生医学生
健康のための前提条件というのもありましたよね。
ドクタードクター
平和、住居、教育、食料、収入、安定した生態系、持続可能な資源、社会的公正と公平だね。健康が医療だけでは決まらないことを示している。日本の「健康日本21」をはじめとする国民健康づくり運動も、個人の取り組みと社会環境の整備を両輪とするこの理念に基づいているんだ。
医学生医学生
年代順に並べると、WHO憲章、ヘルシンキ、アルマ・アタ、リスボン、オタワ、という流れで覚えられそうです。
ドクタードクター
いい整理だ。余力があれば、医師の倫理規範を示したジュネーブ宣言(1948年、世界医師会)や、グローバル化した世界での健康の決定要因に取り組んだバンコク憲章(2005年、第6回ヘルスプロモーション国際会議)も押さえておくと、関連問題にも対応できるよ。

まとめ

ヘルスプロモーションは、1986年にカナダで開催された第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択されたオタワ憲章により提唱され、「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されました。健康的な公共政策や支援的環境づくりなど5つの活動領域を掲げ、個人の努力と社会環境の整備を両輪とする点が特徴で、「健康日本21」などわが国の健康づくり運動の理念にもなっています。WHO憲章(1946年)は健康の定義、アルマ・アタ宣言(1978年)はプライマリ・ヘルス・ケア、世界医師会のヘルシンキ宣言(1964年)は医学研究の倫理、リスボン宣言(1981年)は患者の権利と、採択主体と目的を対にして整理するのが確実です。こうした国際文書の位置づけを理解しておくことは、地域保健や臨床倫理の考え方を体系的に身につける土台になります。

解答・解説

正解はbです

本問は、保健・医療に関する代表的な国際的文書について、採択された会議・年・内容を区別できるかを問う問題である。 ヘルスプロモーション(健康増進)とは、1986年にカナダのオタワで開催された世界保健機関(WHO: World Health Organization)主催の第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された「オタワ憲章」によって提唱された考え方である。オタワ憲章では、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義した。健康を、病気の治療や医療専門職による指導だけで得られるものではなく、個人の生活技術と、それを支える社会環境・政策の両面から実現していくものと捉えた点が特徴である。 選択肢はいずれも公衆衛生・医の倫理の分野で頻出の文書であり、「どの組織・会議が、いつ、何のために採択したか」を対にして整理しておくと解きやすい。WHOが主催した会議の成果にはWHO憲章・アルマ・アタ宣言・オタワ憲章があり、世界医師会(WMA: World Medical Association)が採択したものにはリスボン宣言・ヘルシンキ宣言がある。

選択肢考察

  1. ×a.  WHO憲章

    WHO憲章は、1946年にニューヨークで開かれた国際保健会議で採択され、1948年に発効してWHOが正式に設立された。前文に「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」という健康の定義が記されていることで知られる。ヘルスプロモーション会議の成果ではない。

  2. ○b.  オタワ憲章

    オタワ憲章は、1986年にカナダのオタワで開催された第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された。ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義し、健康のための前提条件(平和、住居、教育、食料、収入、安定した生態系、持続可能な資源、社会的公正と公平)を示した。さらに5つの活動領域として、健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換を掲げた。これが本問の正解である。

  3. ×c.  リスボン宣言

    リスボン宣言は、1981年にポルトガルのリスボンで開催された世界医師会総会で採択された「患者の権利に関する宣言」である。良質な医療を受ける権利、医師や医療機関を選択する権利、自己決定の権利、情報を得る権利、守秘義務に関する権利などを定めている。その後も改訂が重ねられている。ヘルスプロモーションとは関係がない。

  4. ×d.  ヘルシンキ宣言

    ヘルシンキ宣言は、1964年にフィンランドのヘルシンキで開催された世界医師会総会で採択された「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」である。研究参加者のインフォームド・コンセント、研究計画の倫理審査委員会による審査、研究参加者の利益を科学や社会の利益より優先することなどを定めている。現在まで繰り返し改訂されている。ヘルスプロモーションとは関係がない。

  5. ×e.  アルマ・アタ宣言

    アルマ・アタ宣言は、1978年に当時のソ連、カザフ共和国のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマティ)で開催された、WHOとユニセフ(UNICEF: 国連児童基金)共催のプライマリ・ヘルス・ケアに関する国際会議で採択された。「西暦2000年までにすべての人々に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げ、その達成手段としてプライマリ・ヘルス・ケアを位置づけた。特に開発途上国を念頭に置いた宣言であり、ヘルスプロモーション会議の成果ではない。

保健・医療に関する主な国際文書

・ジュネーブ宣言(1948年、世界医師会): ヒポクラテスの誓いを現代化した医師の倫理規範 ・WHO憲章(1946年採択、1948年発効): 健康の定義、WHO設立 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会): 人間を対象とする医学研究の倫理 ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHO・ユニセフ): プライマリ・ヘルス・ケア、Health for All ・リスボン宣言(1981年、世界医師会): 患者の権利 ・オタワ憲章(1986年、第1回ヘルスプロモーション国際会議): ヘルスプロモーション ・バンコク憲章(2005年、第6回ヘルスプロモーション国際会議): グローバル化した世界における健康の決定要因への対応

プライマリ・ヘルス・ケアとヘルスプロモーションの違い

アルマ・アタ宣言のプライマリ・ヘルス・ケアは、住民にとって身近で基本的な保健医療サービスを、住民参加のもとで公平に提供することを重視し、主に開発途上国の保健医療体制の整備を念頭に置いた。これに対しオタワ憲章のヘルスプロモーションは、先進国を中心に生活習慣病が大きな課題となるなかで、個人の生活習慣の改善だけでなく、それを可能にする環境・政策づくりまでを含めた健康づくりを提唱した。

オタワ憲章の3つの基本戦略

・唱道(advocate): 健康のために政治・経済・社会的な条件を整えるよう働きかける ・能力の付与(enable): 人々が健康の潜在能力を十分に発揮できるようにする ・調停(mediate): 健康のために社会のさまざまな分野の利害を調整する

わが国との関連

「健康日本21」をはじめとするわが国の国民健康づくり運動は、個人の取り組みと社会環境の整備を両輪とするヘルスプロモーションの理念に基づいている。

POINT

・第1回ヘルスプロモーション国際会議(1986年、カナダ・オタワ)→ オタワ憲章 ・ヘルスプロモーションの定義: 人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス ・アルマ・アタ宣言(1978年)→ プライマリ・ヘルス・ケア ・WHO憲章(1946年)→ 健康の定義 ・世界医師会の宣言: ヘルシンキ宣言(1964年、医学研究の倫理)、リスボン宣言(1981年、患者の権利)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。