間質性肺炎に「ヒューヒュー」はない―症候の発生機序から組合せの誤りを見抜く
第103回医師国家試験 H問題 第3問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。
- a.嗄声 ―― 反回神経麻痺
- b.喀血 ―― 肺アスペルギルス症
- c.喘鳴 ―― 間質性肺炎
- d.呼吸困難 ―― 低酸素血症
- e.顔面浮腫 ―― 上大静脈閉塞
対話形式の解説
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ドクターまとめ
喘鳴は狭窄した気道を空気が通過する際に生じる連続性の音であり、気管支喘息やCOPD、心臓喘息、気道の腫瘍・異物などでみられます。一方、間質性肺炎は肺胞壁の炎症・線維化による拘束性障害が主体で、聴診では喘鳴ではなく両側下背部の吸気終末の捻髪音(fine crackles)が特徴となるため、この組合せが誤りです。ほかに、左が大動脈弓を回る反回神経の麻痺による嗄声、空洞内の菌球から生じるアスペルギローマの喀血、PaO2低下による呼吸困難、縦隔腫瘍による上大静脈症候群での顔面浮腫は、いずれも正しい組合せです。症候をその発生機序から理解しておくと、暗記に頼らず組合せの正誤を判断でき、実際の診療で病変部位を推定する力にもつながります。
解答・解説
正解はcです
本問は、呼吸器領域の代表的な症候と、その原因となる病態・疾患との対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、症候の発生機序と疾患の病態が結びつかない組合せを選ぶ。
考え方
各症候について、どのような機序で生じるかを確認すると判断しやすい。 ・嗄声(声がかすれる):声帯の振動の異常で生じる。声帯の器質的病変のほか、声帯を動かす神経(反回神経)の麻痺でも起こる。 ・喀血:気道や肺からの出血を咳とともに喀出するもので、気道・肺の血管が破綻する病変で起こる。 ・喘鳴:狭くなった気道を空気が通過する際に生じる連続性の音で、気道の狭窄が前提となる。 ・呼吸困難:呼吸に伴う苦しさの自覚で、低酸素血症、高二酸化炭素血症、呼吸仕事量の増大などで生じる。 ・顔面浮腫:頭頸部からの静脈還流が妨げられると生じる。 間質性肺炎は、肺胞の壁(間質)に炎症や線維化が起こる疾患であり、気道の狭窄を主体とする病態ではない。聴診では吸気終末の捻髪音(fine crackles)が特徴で、喘鳴は通常みられない。したがって誤っている組合せはcである。
選択肢考察
- ×a. 嗄声 ―― 反回神経麻痺
反回神経は迷走神経の枝で、輪状甲状筋を除くほぼすべての内喉頭筋を支配し、声帯の開閉を担う。反回神経が麻痺すると、患側の声帯が動かなくなり、発声時に声門が十分に閉じないため、息が漏れるようなかすれ声(気息性嗄声)となる。左反回神経は大動脈弓の下を回って上行するため走行が長く、肺癌(特に左上葉や縦隔リンパ節転移)、胸部大動脈瘤、食道癌、縦隔腫瘍などで障害されやすい。甲状腺癌や甲状腺手術、頸部手術も原因となる。組合せは正しい。
- ×b. 喀血 ―― 肺アスペルギルス症
肺アスペルギルス症は、真菌であるアスペルギルス属による肺感染症である。結核後の空洞や気管支拡張などの既存の空洞内に菌が増殖して菌球(アスペルギローマ)を形成する単純性肺アスペルギローマや、慢性進行性肺アスペルギルス症では、空洞壁の血管が炎症で破綻して血痰や喀血をきたしやすく、大量喀血に至ることもある。好中球減少患者などに起こる侵襲性肺アスペルギルス症でも、菌が血管に侵入するため喀血を生じうる。組合せは正しい。
- ○c. 喘鳴 ―― 間質性肺炎
喘鳴(wheezes)は、気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気道異物や腫瘍による気道狭窄、心不全による気管支壁の浮腫(心臓喘息)など、気道が狭くなる病態で生じる連続性の音である。これに対し間質性肺炎は、肺胞壁を中心とした間質に炎症や線維化が起こる疾患で、肺が硬く膨らみにくくなる拘束性換気障害を示し、気道の狭窄は主体ではない。そのため喘鳴は通常聴取されず、両側下背部を中心に吸気終末の捻髪音(fine crackles、「パチパチ」という高調な断続音)が聴かれるのが特徴である。ほかに乾性咳嗽、労作時呼吸困難、ばち指がみられる。組合せは誤っている。
- ×d. 呼吸困難 ―― 低酸素血症
呼吸困難は、呼吸に際して感じる息苦しさや努力感などの主観的な不快感である。動脈血酸素分圧(PaO2)が低下すると、頸動脈小体などの末梢化学受容器が刺激されて換気が促進され、呼吸困難として自覚される。一般にPaO2が60Torr以下(SpO2でおよそ90%以下)の状態を呼吸不全と定義する。ただし呼吸困難は主観的な症状であり、低酸素血症の程度と必ずしも一致しない点、また高二酸化炭素血症や呼吸筋の負荷増大、貧血、心不全、心因性要因などでも生じる点に注意する。組合せは正しい。
- ×e. 顔面浮腫 ―― 上大静脈閉塞
上大静脈は頭頸部と上肢からの静脈血を右心房へ戻す血管である。これが腫瘍などで圧迫・閉塞すると静脈還流が障害され、顔面・頸部・上肢の浮腫、頸静脈怒張、前胸部の皮静脈の怒張(側副血行路)、頭痛などが生じる。これを上大静脈症候群といい、原因の多くは肺癌(特に小細胞癌)や悪性リンパ腫などの縦隔の悪性腫瘍である。臥位や前屈位で症状が悪化しやすい。組合せは正しい。
喀血・血痰の主な原因
・腫瘍性:肺癌(特に中枢の気管支に発生しやすい扁平上皮癌)、気管支カルチノイド ・感染症・炎症性:気管支拡張症、肺結核、肺アスペルギルス症、非結核性抗酸菌症、肺炎、肺化膿症 ・肺血管性・全身疾患:肺塞栓症(肺梗塞)、肺動静脈奇形、抗GBM病(旧称Goodpasture症候群)、多発血管炎性肉芽腫症(旧称Wegener肉芽腫症)などの血管炎 ・心疾患:僧帽弁狭窄症、左心不全による肺うっ血
喘鳴をきたす主な病態
気管支喘息、COPD、心臓喘息(左心不全)、気道異物、気管・気管支の腫瘍、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)など。胸郭外の上気道狭窄(喉頭蓋炎、クループ、喉頭浮腫など)では吸気性の喘鳴(stridor)が生じる。
間質性肺炎の主な所見
・症状:乾性咳嗽、労作時呼吸困難 ・身体所見:両側下背部の捻髪音(fine crackles)、ばち指 ・呼吸機能:拘束性換気障害(%肺活量の低下)、肺拡散能(DLCO)の低下 ・血液検査:KL-6、SP-D、SP-Aの上昇 ・画像:両側下肺野優位の網状影、すりガラス影、進行例では蜂巣肺
反回神経麻痺の主な原因
肺癌、胸部大動脈瘤、食道癌、甲状腺癌、縦隔腫瘍、甲状腺・頸部・心臓大血管の手術など。左側は大動脈弓を回るため、右側より障害されやすい。
POINT
・喘鳴は気道狭窄の所見であり、間質性肺炎では喘鳴ではなく吸気終末の捻髪音(fine crackles)を聴取する。 ・反回神経麻痺では嗄声をきたし、左側は大動脈弓を回るため肺癌・大動脈瘤などで障害されやすい。 ・肺アスペルギローマは空洞内の菌球で、喀血の原因となる。 ・上大静脈症候群では顔面・上肢の浮腫、頸静脈や前胸部皮静脈の怒張をきたし、原因は肺癌(小細胞癌)や悪性リンパ腫が多い。 ・呼吸不全の定義はPaO2 60Torr以下である。
