見た目の軽さに騙されない―熱傷の重症度は「深さ・広さ・場所」で決まる
第103回医師国家試験 D問題 第5問
国試問題にチャレンジ
専門施設への搬送を考慮すべき熱傷はどれか。2つ選べ。
- a.両手両足(Ⅲ度)
- b.左上腕前面(Ⅱ度)
- c.右下腿後面(Ⅱ度)
- d.胸腹部の前後面(Ⅰ度)
- e.口腔内に煤付着のある顔面(Ⅰ度)
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
熱傷の重症度は、深さ、広さ(%TBSA)、そして気道熱傷や特殊部位などの重症化要因を組み合わせて判定し、Ⅰ度熱傷は面積に数えないのが原則です。Artzの基準では、Ⅱ度30%以上、Ⅲ度10%以上、顔面・手・足のⅢ度、気道熱傷、電撃傷や合併外傷があれば専門施設での治療が必要とされ、両手両足のⅢ度熱傷は部位と面積の両面からこれに当たります。皮膚の熱傷が軽くても、口腔内の煤や鼻毛の焦げ、嗄声があれば気道熱傷を疑い、上気道浮腫が進む前に気道確保を検討して速やかに搬送します。面積の見積もりには9の法則や手掌法、小児では5の法則などを用い、受傷直後のバイタルサインの安定に惑わされないことが重要です。見た目の範囲だけでなく深さと部位、気道の状態を総合して判断する視点は、救急外来での初期対応の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
熱傷の患者をどこで治療するかは、重症度で決まる。重症度は、次の三つを組み合わせて判定する。 (1) 熱傷の深さ(深度) (2) 熱傷の広さ(受傷面積。体表面積に対する割合 %TBSA〔total body surface area〕で表す) (3) 重症化させる要因の有無(気道熱傷、特殊な部位、化学損傷・電撃傷、骨折などの合併外傷、年齢、持病など) 受傷直後は血圧や脈拍などのバイタルサインが保たれていることが多い。見かけが落ち着いていても重症度を低く見積もらないことが大切である。 判定によく用いられるのがArtzの基準である。専門施設(熱傷センターなど)で入院治療すべき「重症熱傷」は、おおむね次のとおりである。 ・Ⅱ度熱傷が30%TBSA以上 ・Ⅲ度熱傷が10%TBSA以上 ・顔面・手・足(会陰部を含める考え方もある)のⅢ度熱傷 ・気道熱傷の合併(疑いを含む) ・骨折や軟部組織の損傷を合併するもの、電撃傷 なお、Ⅰ度熱傷は表皮だけの傷害で全身への影響が小さいため、受傷面積の計算には含めない。 選択肢を「深さ」「広さ」「特殊な部位・気道熱傷」の三つの観点で見直すと、専門施設への搬送が必要なのは、機能に関わる部位のⅢ度熱傷と、気道熱傷が疑われる例の二つである。
選択肢考察
- ○a. 両手両足(Ⅲ度)
Ⅲ度熱傷は皮膚の全層が壊死した状態で、自然に上皮化することは期待できない。デブリードマン(壊死組織の切除)と植皮術が必要である。さらに手足は、関節の拘縮や変形が残ると日常生活の動作に直結する「機能的に重要な部位」である。早い段階から、専門的な外科治療とリハビリテーションを行う必要がある。面積の目安は片手約2.5%、片足約3.5%で、両手両足ではおよそ12%TBSAとなる。この点でも「Ⅲ度10%以上」に当たる。部位と深さの両面から重症熱傷と判断でき、専門施設へ搬送すべきである。
- ×b. 左上腕前面(Ⅱ度)
上腕前面は片側で約2%TBSAにすぎない。Ⅱ度熱傷が狭い範囲にとどまる軽症熱傷であり、軟膏や創傷被覆材による保存的治療で治ることが多い。機能への影響も小さく、一般の医療機関の外来で対応できる。
- ×c. 右下腿後面(Ⅱ度)
片側の下腿後面は約3%TBSAである。狭い範囲のⅡ度熱傷で、特殊な部位にも当たらない。保存的治療が可能な軽症熱傷であり、専門施設への搬送は通常必要ない。ただし深達性Ⅱ度(DDB)で治りにくい場合は、あとから植皮が必要になることもある。
- ×d. 胸腹部の前後面(Ⅰ度)
胸腹部の前後面は体幹全体で、9の法則では約36%にあたる。範囲は広いが、Ⅰ度熱傷は表皮だけの傷害(紅斑と痛み)で、水疱はできない。体液が大量に失われることもなく、数日で瘢痕を残さず治る。Ⅰ度熱傷は受傷面積に数えないため、重症度は軽症であり、専門施設での治療は必要ない。典型例は強い日焼けである。
- ○e. 口腔内に煤付着のある顔面(Ⅰ度)
皮膚の熱傷はⅠ度でも、口の中に煤が付いているのは、熱い煙やガスを吸い込んだことを示す所見である。気道熱傷が強く疑われる。気道熱傷では、数時間のうちに喉頭や声門の周りがむくみ、上気道が急に閉塞することがある。また、煙に含まれる有毒物質で下気道や肺胞も傷害され、呼吸不全を起こしうる。早めの気管挿管の判断、気管支鏡による評価、人工呼吸管理が必要になり得る。このため、呼吸管理ができる熱傷センターや救命救急センターへ速やかに搬送すべきである。閉鎖された空間での火災では、一酸化炭素中毒やシアン中毒の合併にも注意する。
熱傷深度の分類
・Ⅰ度(EB: epidermal burn): 表皮までの傷害。紅斑と痛みがみられ、水疱はできない。数日で瘢痕を残さず治る。 ・浅達性Ⅱ度(SDB: superficial dermal burn): 真皮の浅い層までの傷害。水疱ができ、水疱の底は赤い。強い痛みがある。1〜2週間で治り、瘢痕はほとんど残らない。 ・深達性Ⅱ度(DDB: deep dermal burn): 真皮の深い層までの傷害。水疱の底は白っぽく、痛みは鈍い。治るまで3〜4週間かかり、肥厚性瘢痕を残しやすい。植皮を行うこともある。 ・Ⅲ度(DB: deep burn): 皮膚全層の傷害。皮膚は白色または黒色で革のように硬くなり、痛みはない(神経も壊死するため)。原則として植皮が必要である。
受傷面積の求め方
・9の法則(成人): 頭頸部9%、片方の上肢9%、体幹前面18%、体幹後面18%、片方の下肢18%、陰部1%。 ・5の法則: 小児・乳児で用いる(乳児は頭部の割合が大きいため)。 ・Lund & Browderの法則: 年齢ごとの補正を加えた、より正確な方法である。 ・手掌法: 患者本人の手のひら(指を含む)を約1%として見積もる。狭い範囲や、あちこちに散らばった熱傷で便利である。
重症度の指標
・熱傷指数(BI: burn index)= Ⅲ度の面積(%)+ 1/2 × Ⅱ度の面積(%)。10〜15以上を重症とする。 ・熱傷予後指数(PBI: prognostic burn index)= BI + 年齢。100以上では予後が不良とされる。
気道熱傷を疑う所見
閉鎖空間での受傷、顔面の熱傷、鼻毛が焦げている、口の中や咽頭の煤、嗄声、喘鳴、煤の混じった痰、呼吸困難など。疑った場合は、上気道の浮腫が進む前に気道確保(気管挿管)を検討する。
POINT
・重症度は「深さ」「広さ(%TBSA)」「重症化させる要因」で判定する。Ⅰ度熱傷は面積に数えない。 ・Artzの基準で重症(専門施設での治療が必要)とされるのは、Ⅱ度30%以上、Ⅲ度10%以上、顔面・手・足のⅢ度、気道熱傷、電撃傷、骨折などの合併外傷がある場合である。 ・皮膚の熱傷が軽くても、口腔内や鼻腔の煤、鼻毛の焦げ、嗄声があれば気道熱傷を疑い、早めに気道を確保し専門施設へ搬送する。 ・受傷直後はバイタルサインが安定していても、重症度を低く見積もってはならない。
