細胞診はゴールではない―子宮頸部の異常は「狙って採る」組織診で確かめる
第103回医師国家試験 D問題 第24問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。未経妊。子宮頸癌検診で細胞診の異常を指摘され来院した。内診で肉眼的には子宮腟部に腫瘍形成を認めない。子宮頸部細胞診(Papanicolaou染色)標本を別に示す。 次に行うのはどれか。

- a.骨盤部CT
- b.骨盤部MRI
- c.血中SCC値測定
- d.子宮頸部円錐切除
- e.コルポスコピィ下狙い組織診
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮頸部細胞診はスクリーニング検査であり、異型細胞を認めても上皮内病変か浸潤癌かは判定できないため、確定診断には組織診が必要です。原則は「細胞診→コルポスコピー→狙い組織診」で、酢酸加工後の白色上皮・モザイク・赤点斑・異型血管など最も異常の強い部位から生検し、CINの程度や浸潤の有無を確定します。骨盤部CT・MRIは浸潤癌確定後の進展度評価、SCCは進行癌の治療効果判定や再発監視に用いるもので、診断の入口ではありません。円錐切除はCIN 3の治療や診断を兼ねますが、頸管無力症や早産のリスクがあるため、特に若年女性では組織診の結果を踏まえて適応を判断します。HPV持続感染からCINを経て浸潤癌に至る流れと、検査の順番・役割を押さえることが、検診後の適切な精査と妊孕性に配慮した診療につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・28歳、未経妊の若年女性である。妊娠・出産の希望が今後ありうるため、子宮を温存できるかどうかが治療選択で重要になる。 ・子宮頸癌検診で細胞診の異常を指摘された。 ・内診では子宮腟部に肉眼的な腫瘍(隆起・潰瘍などの腫瘤形成)を認めない。 ・細胞診標本(Papanicolaou染色)では、核が腫大し核/細胞質比(N/C比)の高い異型細胞が集まっている。扁平上皮系の高度な異常(高度異形成〜上皮内癌を疑う所見)と読める。
診断へのプロセス
細胞診はあくまで「剥がれ落ちた細胞」をみるスクリーニング検査であり、病変が上皮内にとどまっているのか、間質に浸潤しているのかは判定できない。したがって細胞診の異常だけで確定診断や治療方針を決めることはできず、必ず組織学的な確認が必要である。 肉眼的に腫瘍を形成していないことから、進行した浸潤癌の可能性は低く、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN:cervical intraepithelial neoplasia)、とくに高度病変(CIN 2〜3、高度異形成〜上皮内癌)や微小浸潤癌といった早期病変が想定される。
設問の考え方
子宮頸部の異常の診断は「細胞診 → コルポスコピー(腟拡大鏡診)→ 組織診」という段階を踏むのが原則である。コルポスコピーで子宮頸部を拡大観察し、酢酸加工で白く変化する領域(白色上皮)や、モザイク・赤点斑・異型血管といった異常所見の最も強い部位を狙って生検することで、効率よく正確な組織診断が得られる。 画像検査(CT・MRI)や腫瘍マーカーは、組織学的に浸潤癌と診断された後の進展度評価や経過観察に用いるものであり、診断の入口として行う検査ではない。また円錐切除は、組織診で高度病変が確認された後に、診断兼治療として行う手技である。よって、次に行うべき検査はコルポスコピー下の狙い組織診である。
選択肢考察
- ×a. 骨盤部CT
CTは、組織診で浸潤癌と確定した後に、リンパ節転移や遠隔転移など病変の広がりを評価するために行う検査である。本例は肉眼的な腫瘍形成がなく、上皮内病変や早期病変が想定される段階であり、CTでとらえられる病変ではない。まだ組織診断すら得られていない時点で行う意義は乏しい。
- ×b. 骨盤部MRI
MRIは軟部組織のコントラストに優れ、浸潤癌の腫瘍径、間質浸潤の深さ、傍組織や腟への進展などの局所評価に有用である。しかし上皮内にとどまる病変は描出が困難であり、あくまで組織学的に浸潤癌と診断された後の進展度評価に用いる。診断確定前の最初の検査としては不適切である。
- ×c. 血中SCC値測定
SCC(squamous cell carcinoma antigen、扁平上皮癌関連抗原)は扁平上皮癌の腫瘍マーカーだが、上皮内病変や早期癌では上昇しないことが多い。逆に皮膚疾患(乾癬、湿疹など)や腎機能障害などでも上昇し得るため特異度も十分でない。腫瘍マーカーは主に進行癌の治療効果判定や再発の監視に用いるもので、値が高くても低くても癌の有無は確定できない。
- ×d. 子宮頸部円錐切除
円錐切除は子宮頸部を円錐状に切り取る手術で、CIN 3(上皮内癌を含む)などの治療、および微小浸潤の有無を確かめる診断を兼ねて行われる。しかし侵襲を伴い、後の妊娠で頸管無力症や早産のリスクを高めることがある。本例は未経妊の若年女性でもあり、まず低侵襲な狙い組織診で病変の程度を確認し、円錐切除が必要かどうかはその結果で判断するのが適切な順序である。
- ○e. コルポスコピィ下狙い組織診
細胞診で異常が指摘された場合、次に行うのはコルポスコピーによる観察と、その所見に基づく狙い組織診(生検)である。酢酸加工後に白色上皮・モザイク・赤点斑・異型血管などを示す最も異常の強い部位を選んで採取することで、病変の組織型と程度(CINの程度、浸潤の有無)を確定できる。外来で行える低侵襲な検査であり、以後の治療方針(経過観察、円錐切除、根治手術など)の決定に不可欠である。
子宮頸癌とHPV
子宮頸癌の大部分は高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV、とくに16型・18型)の持続感染が原因となる。感染した上皮はCIN 1(軽度異形成)→ CIN 2(中等度異形成)→ CIN 3(高度異形成・上皮内癌)と段階的に進み、やがて浸潤癌となる。好発部位は扁平上皮と円柱上皮の境界である扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯である。CIN 1の多くは自然に消退するため、程度に応じた管理が行われる。
診断の流れ
1. 細胞診(スクリーニング):現在はベセスダシステムで報告される(NILM:異常なし、ASC-US:意義不明な異型扁平上皮細胞、ASC-H:HSILを除外できない異型扁平上皮細胞、LSIL:軽度扁平上皮内病変、HSIL:高度扁平上皮内病変、SCC:扁平上皮癌 など)。ASC-USでは原則HPV検査を行い、陽性ならコルポスコピーへ進む。ASC-H・LSIL・HSIL・SCCなどでは直ちにコルポスコピーを行う。 2. コルポスコピー+狙い組織診:病変の組織学的診断を確定する。 3. 必要に応じて円錐切除:CIN 3の治療、組織診で浸潤が否定できない場合の診断、コルポスコピーで病変全体が観察できない場合(SCJが頸管内に入り込んでいる場合など)に行う。 4. 浸潤癌と診断されたら、進行期決定と治療計画のためにMRI・CTなどの画像検査を行う。
治療の概略
・CIN 1:多くは経過観察。 ・CIN 2:経過観察または治療(レーザー蒸散、円錐切除など)を選択。 ・CIN 3:円錐切除(妊孕性温存を希望しない場合は子宮全摘も選択肢)。 ・浸潤癌:進行期に応じて手術(広汎子宮全摘術など)や放射線治療(同時化学放射線療法)を行う。
POINT
・細胞診はスクリーニングであり、確定診断は組織診で行う。 ・細胞診異常 → コルポスコピー下狙い組織診 → (必要時)円錐切除、という順序を押さえる。 ・CT・MRI・腫瘍マーカー(SCC)は、浸潤癌と確定した後の進展度評価や経過観察に用いる。 ・円錐切除は診断と治療を兼ねるが侵襲があり、妊娠への影響(頸管無力症・早産)も考慮する。
