弱いからこそ院内で厄介―緑膿菌は「日和見感染」の代表選手
第103回医師国家試験 C問題 第7問
国試問題にチャレンジ
緑膿菌感染症で正しいのはどれか。
- a.高圧酸素療法が有効である。
- b.間質性肺炎を起こしやすい。
- c.飛沫感染が主である。
- d.日和見感染が多い。
- e.市中肺炎に多い。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、湿った環境に広く生息する弱毒菌です。健常者に重い感染症を起こすことは少ない一方、好中球減少、悪性腫瘍、熱傷、人工呼吸器やカテーテルの留置など防御能が低下した患者に肺炎・尿路感染症・敗血症を起こす、日和見感染・院内感染の代表的な原因菌です。主な伝播経路は手指や器具を介した接触感染で、起こす肺炎は細菌性の肺胞性肺炎であり、市中肺炎の主な原因菌(肺炎球菌・インフルエンザ菌・マイコプラズマ)とは区別されます。治療は感受性に基づく抗緑膿菌薬であり高圧酸素療法の適応ではなく、自然耐性や多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バイオフィルム形成を踏まえた抗菌薬の適正使用と感染対策が臨床上きわめて重要です。
解答・解説
正解はdです
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、土壌・河川水・植物などの自然環境や、病院内では流し台・加湿器・吸引装置・ネブライザーといった湿った場所に広く生息する。病原性(毒力)は弱く、免疫が正常な人に重い感染症を起こすことは少ない。一方、好中球減少、悪性腫瘍、化学療法中、熱傷、糖尿病、長期入院、人工呼吸器管理、尿道カテーテルや中心静脈カテーテル留置などで感染防御能が落ちた患者では、肺炎、尿路感染症、敗血症(菌血症)、創部感染などを起こす。 このように「宿主の防御能が低下したときに、ふだんは病気を起こしにくい弱毒菌が感染症を起こす」ことを日和見感染という。緑膿菌はその代表的な原因菌であり、主に医療関連(院内)感染として問題になる。 本問は、緑膿菌について①宿主(日和見感染・院内感染)、②感染経路(接触感染)、③起こす肺炎の型(細菌性肺炎=肺胞性肺炎)、④治療(抗菌薬であり高圧酸素ではない)を整理できているかを問うている。
選択肢考察
- ×a. 高圧酸素療法が有効である。
誤り。緑膿菌は酸素を利用して増殖する好気性菌であり、組織の酸素分圧を上げても発育を抑える効果は期待できない。治療の中心は抗緑膿菌活性をもつ抗菌薬(ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系など)であり、感受性試験の結果に基づいて選ぶ。高圧酸素療法が用いられるのは、ガス壊疽(クロストリジウムなど嫌気性菌による重症軟部組織感染症)、一酸化炭素中毒、減圧症(潜函病・潜水病)、空気塞栓症、網膜動脈閉塞症、突発性難聴などである。なお、パラコート中毒では酸素投与が肺障害を悪化させるため、高圧酸素療法は禁忌とされる。
- ×b. 間質性肺炎を起こしやすい。
誤り。間質性肺炎は肺胞壁(間質)を炎症の主な場とする病態の総称で、感染性ではウイルス(サイトメガロウイルスなど)、ニューモシスチス、マイコプラズマなどの非定型病原体が原因となりやすい。緑膿菌肺炎は一般細菌による典型的な細菌性肺炎であり、肺胞腔内に好中球を主体とする滲出物がたまる肺胞性(実質性)肺炎の形をとる。画像では浸潤影や気管支肺炎像を示し、膿性痰がみられる。
- ×c. 飛沫感染が主である。
誤り。緑膿菌の伝播は主に接触感染である。医療従事者の手指や、汚染された医療器具・環境(シンク、加湿器、吸引器具など)を介して患者に運ばれ、気道・腸管・皮膚・尿路に定着したのち、防御能が低下したときに発症する。喀痰中の菌が飛沫で周囲へ広がる可能性はあるが頻度は低く、主経路ではない。したがって院内での対策は、手指衛生と接触予防策、器具や水回りの適切な管理が基本となる。
- ○d. 日和見感染が多い。
正しい。緑膿菌は毒力が弱く健常者にはまれにしか感染症を起こさないが、好中球減少、悪性腫瘍、熱傷、ステロイドや免疫抑制薬の使用、長期入院、広域抗菌薬の投与(菌交代)、人工呼吸器や各種カテーテルの留置など、感染防御能が落ちた状態で肺炎・尿路感染症・敗血症などを起こす。まさに日和見感染の典型的な原因菌である。ほかの日和見感染の原因微生物としては、細菌ではMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)・表皮ブドウ球菌、真菌ではカンジダ・アスペルギルス・ニューモシスチス、ウイルスではサイトメガロウイルス・単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス・EBウイルス、原虫ではトキソプラズマなどが挙げられる。
- ×e. 市中肺炎に多い。
誤り。市中肺炎は日常生活を送っている人に起こる肺炎で、宿主の防御能は比較的保たれているため、病原性の強い微生物が原因となりやすい。頻度が高いのは肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)で、ほかにクラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラ、モラクセラなども挙げられる。緑膿菌は院内肺炎、特に人工呼吸器関連肺炎(VAP)の主要な原因菌である。ただし、気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎などの慢性下気道疾患をもつ人では、市中でも緑膿菌が気道に定着・感染していることがある。
緑膿菌の性状
・ブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、極単毛の鞭毛をもち運動性がある。好気性である。 ・ピオシアニン(青緑色)やピオベルジン(黄緑色の蛍光色素)を産生し、膿や培地が緑色調を呈する。独特の甘い(ブドウ様)においがある。 ・バイオフィルムを形成し、カテーテルなどの異物や慢性気道感染で抗菌薬が効きにくくなる。 ・菌体外毒素(エキソトキシンA)、エラスターゼなどの酵素、ムコイド(アルギン酸)産生などの病原因子をもつ。
主な緑膿菌感染症
・院内肺炎、人工呼吸器関連肺炎(VAP) ・カテーテル関連尿路感染症 ・敗血症(特に好中球減少時の発熱性好中球減少症) ・熱傷創の感染 ・びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症における慢性気道感染(ムコイド型緑膿菌) ・角膜炎(コンタクトレンズ使用者)、外耳道炎(糖尿病患者の悪性外耳道炎)
治療と薬剤耐性
・抗緑膿菌活性をもつβ-ラクタム系薬(ピペラシリン、セフタジジム、セフェピム、カルバペネム系など)、アミノグリコシド系薬、ニューキノロン系薬を用いる。 ・もともと多くの抗菌薬に自然耐性を示し、治療中にも耐性を獲得しやすい。 ・カルバペネム系(イミペネム)、アミノグリコシド系(アミカシン)、フルオロキノロン系(シプロフロキサシン)の3系統すべてに耐性を示すものを多剤耐性緑膿菌(MDRP)とよぶ。薬剤耐性緑膿菌感染症は感染症法で5類感染症(基幹定点把握)に指定されている。 ・危険因子は長期入院、広域抗菌薬の投与、尿道カテーテル留置、人工呼吸器管理など医療に関連するものが多い。
日和見感染とは
宿主の感染防御能が低下したときに、健常者では病気を起こしにくい弱毒微生物が感染症を起こすこと。好中球減少では緑膿菌などのグラム陰性桿菌やアスペルギルス、細胞性免疫低下ではニューモシスチス、サイトメガロウイルス、結核菌などが問題となる。
POINT
・緑膿菌はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、弱毒菌であり日和見感染・院内感染の代表的原因菌である。 ・主な伝播経路は接触感染(手指・器具・水回り)である。 ・院内肺炎、特に人工呼吸器関連肺炎の主要な原因菌であり、市中肺炎の主な原因菌は肺炎球菌・インフルエンザ菌・マイコプラズマである。 ・起こす肺炎は細菌性(肺胞性)肺炎であり、間質性肺炎ではない。 ・高圧酸素療法の適応はガス壊疽、一酸化炭素中毒、減圧症、空気塞栓症などであり、パラコート中毒では禁忌である。 ・イミペネム、アミカシン、シプロフロキサシンの3系統に耐性のものが多剤耐性緑膿菌(MDRP)である。
