のどの溶連菌が数週間後に心臓と腎臓を襲う―リウマチ熱と急性糸球体腎炎
第103回医師国家試験 B問題 第8問
国試問題にチャレンジ
A群レンサ球菌感染に続発するのはどれか。2つ選べ。
- a.川崎病
- b.リウマチ熱
- c.急性糸球体腎炎
- d.若年性特発性関節炎〈JIA〉
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
A群レンサ球菌は咽頭炎や膿痂疹などの急性感染に加え、感染の1〜数週後に免疫学的機序で起こる非化膿性続発症として、リウマチ熱と急性糸球体腎炎(PSAGN)を引き起こします。リウマチ熱は咽頭感染後のみに起こり、M蛋白などとの分子相同性により心炎・移動性多関節炎・舞踏病などを生じ、リウマチ性弁膜症が長期予後を左右します。PSAGNは咽頭・皮膚感染いずれの後にも起こる免疫複合体腎炎で、急性期にC3が低下し6〜8週程度で正常化する点が、低補体が持続するSLEとの鑑別に役立ちます。川崎病や若年性特発性関節炎は症状が一部重なりますが、溶連菌感染に続発する疾患ではありません。溶連菌咽頭炎を十分な期間治療する意義がリウマチ熱予防にあることを理解しておくと、日常診療での抗菌薬指導にも生かせます。
解答・解説
正解はb, cです
A群レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌、Streptococcus pyogenes。いわゆる溶連菌)は、咽頭炎・扁桃炎・猩紅熱・膿痂疹などの急性感染を起こすだけでなく、感染がおさまった後、一定の潜伏期間を経て免疫学的な機序による合併症を起こすことがある。これを「非化膿性続発症」と呼び、代表がリウマチ熱と溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN: poststreptococcal acute glomerulonephritis)の2つである。 これらは菌が直接臓器に侵入して起こるのではなく、菌に対してできた抗体や免疫複合体が自己の組織を傷害することで生じる。そのため、先行感染から発症までに1〜数週間の間隔があり、発症時には咽頭培養で菌が検出されないことも多い。診断には、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)やASK(抗ストレプトキナーゼ抗体)の上昇など、最近の溶連菌感染を示す血清学的証拠が役立つ。 本問では、選択肢の中から「溶連菌感染に続発する疾患」としてこの2疾患を選べばよい。川崎病、若年性特発性関節炎、SLEはいずれも小児期にみられる炎症性疾患・膠原病で、発熱や関節症状など臨床像の一部が重なるため紛らわしいが、A群レンサ球菌感染を原因とする疾患ではない。
選択肢考察
- ×a. 川崎病
川崎病は主に4歳以下の乳幼児にみられる、原因不明の全身性の中小血管炎である。5日以上続く発熱、両側眼球結膜充血(眼脂を伴わない)、口唇の紅潮やいちご舌、不定形発疹、四肢末端の変化(急性期の硬性浮腫、回復期の膜様落屑)、非化膿性の頸部リンパ節腫脹を主要症状とする。いちご舌は溶連菌感染症(猩紅熱)でもみられるため鑑別に挙がるが、両者は別の疾患である。原因として溶連菌を含む感染因子の関与が探られた時期もあったが、特定の病原体は証明されておらず、溶連菌感染に続発する疾患とは位置づけられていない。誤り。
- ○b. リウマチ熱
リウマチ熱は、A群レンサ球菌による咽頭炎・扁桃炎の後、およそ2〜3週間を経て発症する全身性の炎症性疾患である。菌体成分(M蛋白など)と心筋・心臓弁・関節・脳(大脳基底核)の組織成分との分子相同性(molecular mimicry)により、菌に対してできた抗体やT細胞が自己組織を攻撃すると考えられている。先行感染は咽頭感染に限られ、皮膚感染(膿痂疹)の後には起こらないとされる。診断には改訂Jones基準が用いられ、前提として先行する溶連菌感染の証拠(ASOなど抗溶連菌抗体の上昇、咽頭培養や迅速抗原検査の陽性)が求められる。主症状は心炎、移動性多関節炎、舞踏病(Sydenham舞踏病)、輪状紅斑、皮下結節である。心炎の後遺症であるリウマチ性心臓弁膜症(特に僧帽弁狭窄症)が長期予後を左右する。正しい。
- ○c. 急性糸球体腎炎
急性糸球体腎炎の多くはA群レンサ球菌感染後に起こり、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)と呼ばれる。咽頭感染の後では約1〜2週間(平均10日前後)、皮膚感染の後では約3〜6週間の潜伏期を経て、血尿(肉眼的血尿を含む)、蛋白尿、浮腫、高血圧、乏尿で発症する。腎炎惹起性の菌体抗原と抗体からなる免疫複合体が糸球体に沈着し、補体が活性化されるIII型アレルギーが主な機序である。このため急性期には血清補体価(CH50)やC3が低下し、通常は発症後6〜8週程度で正常化する。腎生検では管内増殖性糸球体腎炎の像を示し、電子顕微鏡で上皮下のこぶ状沈着物(hump)が特徴である。ブドウ球菌やウイルスなど他の感染後にも同様の腎炎は起こりうるが、頻度としては溶連菌によるものが圧倒的に多い。小児例の大部分は自然に回復する。正しい。
- ×d. 若年性特発性関節炎〈JIA〉
若年性特発性関節炎は、16歳未満で発症し6週間以上持続する原因不明の慢性関節炎の総称で、小児のリウマチ性疾患の中で最も多い。以前は若年性関節リウマチ(JRA)と呼ばれていた。弛張熱・リウマトイド疹・肝脾腫を伴う全身型、少関節炎、多関節炎などの病型がある。関節炎と発熱という点でリウマチ熱と紛らわしいが、リウマチ熱の関節炎が数日単位で移動し後遺症を残さないのに対し、JIAは同じ関節に持続する。A群レンサ球菌感染との因果関係は認められていない。誤り。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
SLEは抗核抗体、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体などの自己抗体と免疫複合体により多臓器が障害される自己免疫疾患で、若年女性に多く、小児期に発症する例も少なくない。ループス腎炎として糸球体腎炎を起こし、低補体血症を伴う点ではPSAGNと共通するが、SLEの低補体は持続し、抗核抗体陽性や多臓器症状を伴う点で区別される。発症には遺伝的素因・性ホルモン・紫外線・ウイルス感染などの関与が推測されているが原因は不明で、A群レンサ球菌感染に続発する疾患ではない。誤り。
A群レンサ球菌が起こす病態の整理
1. 化膿性(菌の直接侵入): 咽頭炎・扁桃炎、扁桃周囲膿瘍、膿痂疹(とびひ)、蜂窩織炎、丹毒、中耳炎など 2. 毒素による病態: 猩紅熱(発赤毒素)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群。スーパー抗原が関与)、壊死性筋膜炎 3. 非化膿性続発症(免疫学的機序): リウマチ熱、急性糸球体腎炎(PSAGN)。このほか溶連菌感染後反応性関節炎、IgA血管炎の誘因となることもある
リウマチ熱とPSAGNの比較
・先行感染: リウマチ熱は咽頭感染のみ。PSAGNは咽頭感染・皮膚感染のいずれの後にも起こる ・潜伏期: リウマチ熱は約2〜3週。PSAGNは咽頭感染後約1〜2週、皮膚感染後約3〜6週 ・機序: リウマチ熱は分子相同性による交差反応(主にII型アレルギーと細胞性免疫)。PSAGNは免疫複合体沈着(III型アレルギー) ・予防: 溶連菌咽頭炎を十分な期間(ペニシリン系で10日間)治療するとリウマチ熱の発症は予防できる。一方、PSAGNは抗菌薬治療で十分には予防できないとされる ・再発: リウマチ熱は溶連菌の再感染で再発しやすく、ペニシリンによる長期の二次予防が行われる。PSAGNは再発がまれである
検査のポイント
ASOは咽頭感染後に上昇しやすいが、皮膚感染後には上昇しにくい。皮膚感染後のPSAGNでは抗DNase B抗体などが参考になる。
POINT
・A群レンサ球菌感染の非化膿性続発症はリウマチ熱と急性糸球体腎炎(PSAGN)の2つ ・いずれも先行感染から1〜数週の潜伏期を経て免疫学的機序で発症する ・リウマチ熱は咽頭感染後のみ、PSAGNは咽頭・皮膚感染いずれの後にも起こる ・PSAGNは免疫複合体腎炎で、急性期に低補体(C3低下)を示し、6〜8週程度で正常化する ・川崎病(いちご舌)、JIA、SLEは溶連菌感染との因果関係はない
