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CTが「正常」でも安心できない―脳梗塞の時計を画像から読む

第102回医師国家試験 I問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第14問

右片麻痺を発症した5名の患者の頭部単純CT(①~⑤)を別に示す。発症後24時間以内に撮影されたCTはどれか。2つ選べ。

第102回 I問題 第14問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、右片麻痺の患者さん5人の頭部単純CTを並べて、脳梗塞が発症からどれくらい経っているかを読み取る問題だ。ポイントは、低吸収域の濃さと境界、脳の腫れ具合、そして萎縮の有無。この3つを時間軸に当てはめていこう。まず、右片麻痺ならどこに病変があるはずかな。
医学生医学生
錐体路は延髄で交叉するので、責任病巣は左の大脳半球ですね。
ドクタードクター
その通り。実際、5枚のうち4枚は左中大脳動脈領域、つまり左MCA領域に梗塞の所見がある。では、残る1枚はほとんど異常がないように見えるけれど、これはどう解釈する?
医学生医学生
麻痺があるのにCTが正常なら、脳梗塞ではなく別の病気を考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴なんだ。脳梗塞の超急性期、おおむね発症から数時間以内は、単純CTではまだ組織の変化がほとんど映らない。だから「麻痺があるのにCTが正常」というのは、むしろ発症してまもない脳梗塞の典型的な姿なんだよ。
医学生医学生
救急科の実習で、脳卒中疑いの患者さんがまずCTに行って、指導医が「出血がないから梗塞かも」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。超急性期のCTは梗塞を見つけるためではなく、主に脳出血を否定するために撮るんだ。梗塞そのものを早く捉えたいならMRIの拡散強調画像が強い。つまり、ほぼ正常に見えるCTは発症24時間以内と判断できる。これが正解の1つ目だ。
医学生医学生
もう1つは、左側がうっすら暗くて、脳溝が右より見えにくくなっている画像ですか。
ドクタードクター
いい目をしているね。境界のはっきりしない淡い低吸収域、脳溝の消失、皮髄境界やレンズ核・島皮質の輪郭の不明瞭化。これらをまとめてearly CT sign、早期虚血変化と呼ぶ。細胞性浮腫で組織の水分が少し増えたことを反映していて、発症数時間から24時間程度に見られる所見だ。これが2つ目の正解になる。
医学生医学生
逆に、低吸収域がくっきりしていたら、もう時間が経っているということですね。
ドクタードクター
そう。では残りを見ていこう。左MCA領域が広く濃い低吸収になって、正中構造が右へ大きく押し出されている画像はどう考える?
医学生医学生
脳がすごく腫れているので…むしろ発症直後でしょうか。
ドクタードクター
直感的にはそう思いがちだけど、脳浮腫のピークは発症2〜5日ごろなんだ。ここまで著明な腫脹と脳ヘルニアがあり、低吸収域もはっきりしているなら、発症から数日経過した像と考える。この規模の悪性MCA梗塞では減圧開頭術が検討されるよ。
医学生医学生
低吸収域の中に、脳回に沿って白っぽく見える部分が混じっている画像もありました。
ドクタードクター
それは閉塞血管が再開通して起こる出血性梗塞を疑う所見だね。出血性梗塞は1日以降の急性期から亜急性期に起こりやすく、低吸収域も明瞭で脳室の圧排もある。だから24時間以内ではない。最後の1枚はどうかな。
医学生医学生
髄液と同じくらい真っ黒で境界がくっきりしていて、左の脳室がむしろ広がっています。
ドクタードクター
その通り。梗塞巣が壊死・吸収されて組織が縮んだ結果、同側の脳室や脳溝が拡大している。ex vacuo変化と呼ばれる、1か月以上経った慢性期の像だ。腫れて押す時期から、縮んで引っ張られる時期へ、という流れで覚えるといい。
医学生医学生
正常、early CT sign、明瞭な低吸収と浮腫、出血性梗塞、萎縮、という順番で時計が進むんですね。
ドクタードクター
よくまとまった。もう1つ、2〜3週ごろに浮腫が引いて低吸収域が一時的に目立たなくなるfogging effectもあるので、正常に見える=超急性期と短絡しないよう、臨床経過と合わせて判断しよう。
医学生医学生
この時間の読み取りは、治療にも関わってきますよね。CBTの勉強でrt-PAは時間制限があると習いました。
ドクタードクター
大事な点だね。アルテプラーゼ静注療法は発症4.5時間以内が適応で、治療前に画像で頭蓋内出血を除外することが必須だ。さらに、early CT signがMCA領域の広範囲に及ぶ場合は、梗塞がすでに完成しつつあって再灌流で出血するリスクが高いから、適応は慎重に判断する。その評価にMCA領域を10区画に分けて減点するASPECTSが使われる。主幹動脈閉塞なら、画像の条件次第で血栓回収療法も考慮される。
医学生医学生
CTの「何もない」と「わずかな変化」を見分けられるかで、治療の選択が変わるということですね。
ドクタードクター
その通り。救急外来では時間との勝負だから、わずかな左右差に気づける目を今のうちに養っておこう。

まとめ

脳梗塞の頭部単純CTは時間とともに変化し、超急性期(発症数時間以内)はほぼ正常、数時間〜24時間程度では淡い低吸収域・脳溝消失・レンズ核や島皮質の不明瞭化といったearly CT signが現れます。1日以降は境界明瞭な低吸収域となり、2〜5日で浮腫がピークに達して正中偏位や脳ヘルニア、再開通による出血性梗塞がみられることがあり、1か月以降は髄液に近い低吸収域と同側脳室・脳溝の拡大(萎縮)を示します。したがって発症24時間以内と判断できるのは、正常に見えるCTとearly CT signのみのCTです。超急性期のCTは主に出血の除外が目的で、梗塞の早期検出にはMRI拡散強調画像が優れます。rt-PA静注療法(発症4.5時間以内)や血栓回収療法の判断にも直結するため、CT所見から発症時期を推定する力は脳卒中診療の基本となります。

解答・解説

正解はc, dです

右片麻痺をきたした患者の頭部単純CTを並べ、脳梗塞の病期(発症からの時間経過)による画像の変化を読み取らせる問題である。右片麻痺の責任病巣は左大脳半球であり、①②④⑤はいずれも左中大脳動脈(MCA)領域の脳梗塞の所見、③は明らかな異常のないCTである。

脳梗塞のCT所見の経時的変化

・超急性期(発症後数時間以内):単純CTではほとんど異常が見えないことが多い。ときに閉塞した中大脳動脈が血栓により高吸収に見える(hyperdense MCA sign)。 ・急性期早期(数時間〜24時間程度):early CT sign(早期虚血変化)が出現する。レンズ核の輪郭の不明瞭化、島皮質の不明瞭化(島リボンの消失)、皮髄境界の不明瞭化、脳溝の消失、淡い低吸収域などである。 ・急性期〜亜急性期(1日〜数日):境界がはっきりした低吸収域となり、細胞性浮腫・血管性浮腫による脳腫脹が進む。発症後2〜5日ごろに浮腫はピークとなり、正中偏位(midline shift)や脳ヘルニアをきたしうる。再開通に伴う出血性梗塞もこの時期に起こりやすい。 ・亜急性期(2〜3週):浮腫が引き、低吸収域が一時的に目立たなくなることがある(fogging effect)。 ・慢性期(1か月以降):脳脊髄液とほぼ同じ濃度の境界明瞭な低吸収域となり、組織の萎縮により同側の脳室・脳溝が拡大する(ex vacuo変化)。

本問の考え方

各画像について「低吸収域の濃さと境界」「脳腫脹(脳溝消失・脳室圧排・正中偏位)の程度」「萎縮の有無」「出血の有無」を確認し、上記の時間軸に当てはめる。発症後24時間以内と判断できるのは、ほぼ正常に見える③(超急性期)と、early CT signのみを示す④である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    左MCA領域に広く低吸収域が見られ、その内部に脳回に沿った等〜やや高吸収の部分が混在している。左側脳室は圧排されており、脳腫脹が強い。低吸収域が明瞭になり、しかも脳回に沿った高吸収(閉塞血管の再開通による出血性梗塞を疑う所見)を伴っていることから、発症から少なくとも24時間以上経過した急性期〜亜急性期の像と考えられる。24時間以内の画像ではない。

  2. ×b.  ②

    左MCA領域の皮質から穿通枝領域(基底核)までを含む広範で濃い低吸収域が認められる。著しい脳腫脹により正中構造は右方へ大きく偏位し、脳ヘルニアをきたしている。このような著明な浮腫は発症2〜5日ごろにピークを迎えるため、発症から数日経過した像と判断する。24時間以内の画像ではない。なお、この規模の悪性MCA梗塞(malignant MCA infarction)では減圧開頭術が考慮される。

  3. ○c.  ③

    明らかな低吸収域、脳溝の左右差、脳室の圧排などはなく、ほぼ正常の頭部CTである。右片麻痺があるにもかかわらずCTが正常であるのは、脳梗塞の超急性期(おおむね発症後数時間以内)で、まだ単純CTで捉えられるほどの組織変化が起きていない段階と考えられる。したがって発症後24時間以内に撮影されたものと判断できる。この段階ではCTは主に脳出血を否定する目的で用い、梗塞巣の検出にはMRI拡散強調画像(DWI)が有用である。

  4. ○d.  ④

    左MCA領域に境界の不鮮明な淡い低吸収域があり、左側の脳溝が右に比べて目立たなくなっている(脳溝の消失)。皮髄境界やレンズ核・島皮質の輪郭も不明瞭になっている。これらはearly CT sign(早期虚血変化)と呼ばれ、脳梗塞急性期、発症後数時間から24時間程度の時期にみられる所見である。明らかな脳ヘルニアや出血、萎縮は伴っていない。

  5. ×e.  ⑤

    左MCA領域に脳脊髄液に近い濃さの、境界明瞭な強い低吸収域が広がっている。正中偏位などの圧排所見はなく、むしろ左側脳室が軽度に拡大し、左の脳溝も開大している。これは梗塞巣が壊死・吸収されて組織が萎縮したことによる変化(ex vacuo変化)であり、発症から1か月以上たった慢性期(陳旧性)脳梗塞の像である。

early CT sign(早期虚血変化)

1. レンズ核の輪郭の不明瞭化 2. 島皮質の不明瞭化(島リボンの消失、loss of insular ribbon) 3. 皮髄境界の不明瞭化・淡い低吸収域 4. 脳溝の消失(脳腫脹による) これらは細胞性浮腫による組織の水分量増加を反映する。関連所見として、閉塞血管内の血栓が高吸収に見えるhyperdense MCA signがある。

血栓溶解療法(rt-PA、アルテプラーゼ静注療法)との関係

日本では2005年に発症3時間以内の虚血性脳血管障害に対してrt-PA静注療法が承認され、2012年に適応が発症4.5時間以内に拡大された。治療前には頭部CTまたはMRIで頭蓋内出血を除外することが必須である。early CT signが広範囲(目安としてMCA領域の1/3を超える、ASPECTSが低値)にみられる場合は、すでに不可逆的な梗塞が完成しつつあり、再灌流により出血性梗塞を起こす危険が高いため、適応は慎重に判断する。ASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)はMCA領域を10区画に分け、早期虚血変化のある区画を10点から減点して評価する方法である。さらに主幹動脈閉塞例では、血栓回収療法(機械的血栓除去術)が発症後一定時間内(原則6時間以内、画像条件を満たせば24時間以内まで)に考慮される。

CTとMRIの使い分け

MRI拡散強調画像(DWI)は発症後1時間程度から梗塞巣を高信号として描出でき、超急性期の検出感度はCTより高い。一方、CTは短時間で撮影でき、出血の除外に優れるため、救急の初期評価で広く用いられる。

POINT

・脳梗塞の超急性期(数時間以内)は単純CTでほぼ正常に見えることが多い。 ・発症数時間〜24時間程度ではearly CT sign(レンズ核・島皮質の不明瞭化、皮髄境界の不明瞭化、脳溝消失、淡い低吸収域)が出る。 ・1日以降は境界明瞭な低吸収域となり、2〜5日で浮腫がピーク(正中偏位・脳ヘルニア)、出血性梗塞もこの時期に注意。 ・慢性期は髄液に近い濃い低吸収域と、同側脳室・脳溝の拡大(萎縮)。 ・rt-PA静注療法は発症4.5時間以内、治療前に画像で出血を除外し、広範な早期虚血変化の有無を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。