CTが「正常」でも安心できない―脳梗塞の時計を画像から読む
第102回医師国家試験 I問題 第14問
国試問題にチャレンジ
右片麻痺を発症した5名の患者の頭部単純CT(①~⑤)を別に示す。発症後24時間以内に撮影されたCTはどれか。2つ選べ。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
脳梗塞の頭部単純CTは時間とともに変化し、超急性期(発症数時間以内)はほぼ正常、数時間〜24時間程度では淡い低吸収域・脳溝消失・レンズ核や島皮質の不明瞭化といったearly CT signが現れます。1日以降は境界明瞭な低吸収域となり、2〜5日で浮腫がピークに達して正中偏位や脳ヘルニア、再開通による出血性梗塞がみられることがあり、1か月以降は髄液に近い低吸収域と同側脳室・脳溝の拡大(萎縮)を示します。したがって発症24時間以内と判断できるのは、正常に見えるCTとearly CT signのみのCTです。超急性期のCTは主に出血の除外が目的で、梗塞の早期検出にはMRI拡散強調画像が優れます。rt-PA静注療法(発症4.5時間以内)や血栓回収療法の判断にも直結するため、CT所見から発症時期を推定する力は脳卒中診療の基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
右片麻痺をきたした患者の頭部単純CTを並べ、脳梗塞の病期(発症からの時間経過)による画像の変化を読み取らせる問題である。右片麻痺の責任病巣は左大脳半球であり、①②④⑤はいずれも左中大脳動脈(MCA)領域の脳梗塞の所見、③は明らかな異常のないCTである。
脳梗塞のCT所見の経時的変化
・超急性期(発症後数時間以内):単純CTではほとんど異常が見えないことが多い。ときに閉塞した中大脳動脈が血栓により高吸収に見える(hyperdense MCA sign)。 ・急性期早期(数時間〜24時間程度):early CT sign(早期虚血変化)が出現する。レンズ核の輪郭の不明瞭化、島皮質の不明瞭化(島リボンの消失)、皮髄境界の不明瞭化、脳溝の消失、淡い低吸収域などである。 ・急性期〜亜急性期(1日〜数日):境界がはっきりした低吸収域となり、細胞性浮腫・血管性浮腫による脳腫脹が進む。発症後2〜5日ごろに浮腫はピークとなり、正中偏位(midline shift)や脳ヘルニアをきたしうる。再開通に伴う出血性梗塞もこの時期に起こりやすい。 ・亜急性期(2〜3週):浮腫が引き、低吸収域が一時的に目立たなくなることがある(fogging effect)。 ・慢性期(1か月以降):脳脊髄液とほぼ同じ濃度の境界明瞭な低吸収域となり、組織の萎縮により同側の脳室・脳溝が拡大する(ex vacuo変化)。
本問の考え方
各画像について「低吸収域の濃さと境界」「脳腫脹(脳溝消失・脳室圧排・正中偏位)の程度」「萎縮の有無」「出血の有無」を確認し、上記の時間軸に当てはめる。発症後24時間以内と判断できるのは、ほぼ正常に見える③(超急性期)と、early CT signのみを示す④である。
選択肢考察
- ×a. ①
左MCA領域に広く低吸収域が見られ、その内部に脳回に沿った等〜やや高吸収の部分が混在している。左側脳室は圧排されており、脳腫脹が強い。低吸収域が明瞭になり、しかも脳回に沿った高吸収(閉塞血管の再開通による出血性梗塞を疑う所見)を伴っていることから、発症から少なくとも24時間以上経過した急性期〜亜急性期の像と考えられる。24時間以内の画像ではない。
- ×b. ②
左MCA領域の皮質から穿通枝領域(基底核)までを含む広範で濃い低吸収域が認められる。著しい脳腫脹により正中構造は右方へ大きく偏位し、脳ヘルニアをきたしている。このような著明な浮腫は発症2〜5日ごろにピークを迎えるため、発症から数日経過した像と判断する。24時間以内の画像ではない。なお、この規模の悪性MCA梗塞(malignant MCA infarction)では減圧開頭術が考慮される。
- ○c. ③
明らかな低吸収域、脳溝の左右差、脳室の圧排などはなく、ほぼ正常の頭部CTである。右片麻痺があるにもかかわらずCTが正常であるのは、脳梗塞の超急性期(おおむね発症後数時間以内)で、まだ単純CTで捉えられるほどの組織変化が起きていない段階と考えられる。したがって発症後24時間以内に撮影されたものと判断できる。この段階ではCTは主に脳出血を否定する目的で用い、梗塞巣の検出にはMRI拡散強調画像(DWI)が有用である。
- ○d. ④
左MCA領域に境界の不鮮明な淡い低吸収域があり、左側の脳溝が右に比べて目立たなくなっている(脳溝の消失)。皮髄境界やレンズ核・島皮質の輪郭も不明瞭になっている。これらはearly CT sign(早期虚血変化)と呼ばれ、脳梗塞急性期、発症後数時間から24時間程度の時期にみられる所見である。明らかな脳ヘルニアや出血、萎縮は伴っていない。
- ×e. ⑤
左MCA領域に脳脊髄液に近い濃さの、境界明瞭な強い低吸収域が広がっている。正中偏位などの圧排所見はなく、むしろ左側脳室が軽度に拡大し、左の脳溝も開大している。これは梗塞巣が壊死・吸収されて組織が萎縮したことによる変化(ex vacuo変化)であり、発症から1か月以上たった慢性期(陳旧性)脳梗塞の像である。
early CT sign(早期虚血変化)
1. レンズ核の輪郭の不明瞭化 2. 島皮質の不明瞭化(島リボンの消失、loss of insular ribbon) 3. 皮髄境界の不明瞭化・淡い低吸収域 4. 脳溝の消失(脳腫脹による) これらは細胞性浮腫による組織の水分量増加を反映する。関連所見として、閉塞血管内の血栓が高吸収に見えるhyperdense MCA signがある。
血栓溶解療法(rt-PA、アルテプラーゼ静注療法)との関係
日本では2005年に発症3時間以内の虚血性脳血管障害に対してrt-PA静注療法が承認され、2012年に適応が発症4.5時間以内に拡大された。治療前には頭部CTまたはMRIで頭蓋内出血を除外することが必須である。early CT signが広範囲(目安としてMCA領域の1/3を超える、ASPECTSが低値)にみられる場合は、すでに不可逆的な梗塞が完成しつつあり、再灌流により出血性梗塞を起こす危険が高いため、適応は慎重に判断する。ASPECTS(Alberta Stroke Program Early CT Score)はMCA領域を10区画に分け、早期虚血変化のある区画を10点から減点して評価する方法である。さらに主幹動脈閉塞例では、血栓回収療法(機械的血栓除去術)が発症後一定時間内(原則6時間以内、画像条件を満たせば24時間以内まで)に考慮される。
CTとMRIの使い分け
MRI拡散強調画像(DWI)は発症後1時間程度から梗塞巣を高信号として描出でき、超急性期の検出感度はCTより高い。一方、CTは短時間で撮影でき、出血の除外に優れるため、救急の初期評価で広く用いられる。
POINT
・脳梗塞の超急性期(数時間以内)は単純CTでほぼ正常に見えることが多い。 ・発症数時間〜24時間程度ではearly CT sign(レンズ核・島皮質の不明瞭化、皮髄境界の不明瞭化、脳溝消失、淡い低吸収域)が出る。 ・1日以降は境界明瞭な低吸収域となり、2〜5日で浮腫がピーク(正中偏位・脳ヘルニア)、出血性梗塞もこの時期に注意。 ・慢性期は髄液に近い濃い低吸収域と、同側脳室・脳溝の拡大(萎縮)。 ・rt-PA静注療法は発症4.5時間以内、治療前に画像で出血を除外し、広範な早期虚血変化の有無を確認する。
