「動かせるのに動かせない」足首―自動と他動の差が指し示す総腓骨神経麻痺
第102回医師国家試験 G問題 第7問
国試問題にチャレンジ
足関節の可動域を測定して次の結果を得た。 背屈 底屈 自動運動 不能 45° 他動運動 20° 45° 考えられるのはどれか。
- a.足関節拘縮
- b.脛骨神経麻痺
- c.総腓骨神経麻痺
- d.アキレス腱断裂
- e.足関節靱帯損傷
対話形式の解説
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ドクターまとめ
関節可動域測定では自動運動と他動運動の差が重要で、両方が制限されれば拘縮や関節内病変など関節側の問題、他動は正常で自動のみ不能なら筋・腱・神経など運動を起こす側の障害を考えます。足関節背屈を担う前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋は総腓骨神経の枝である深腓骨神経支配であり、背屈だけが自動で不能で底屈が正常なら総腓骨神経麻痺が最も考えられます。脛骨神経麻痺やアキレス腱断裂では障害されるのは底屈であり、拘縮では他動でも制限されます。総腓骨神経は腓骨頭周囲で圧迫を受けやすく、ギプスや長時間臥床で生じて下垂足・鶏歩をきたすため予防が重要で、L5神経根障害との鑑別も押さえておく必要があります。可動域の数字を「関節の問題か、動かす側の問題か」に翻訳する考え方は、整形外科やリハビリテーションの診察全般に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
結果の整理
足関節の参考可動域(日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会の基準)は、背屈0~20°、底屈0~45°である。本問の結果は次のように読める。 ・底屈:自動・他動ともに45°で正常。→ 底屈を担う筋とその支配神経は保たれている。 ・背屈:他動では20°まで正常に動くが、自動(患者自身の力)では全く背屈できない。
考え方
可動域の測定では、自動運動と他動運動の差に注目する。 ・他動運動も制限される場合:関節そのもの(関節包・靱帯・骨など)や軟部組織に問題がある(拘縮、強直、疼痛など)。 ・他動運動は正常なのに自動運動だけができない場合:関節は動く状態にあり、その運動を起こす筋・腱・支配神経のいずれかに問題がある(筋力低下、腱断裂、末梢神経麻痺など)。 本問は後者であり、「背屈を行う筋群」が働いていないと考えられる。足関節の背屈筋は下腿前面の前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋などで、いずれも深腓骨神経(総腓骨神経の枝)に支配される。一方、底屈は保たれているため、底屈筋を支配する脛骨神経は障害されていない。よって総腓骨神経麻痺が最も考えられる。
選択肢考察
- ×a. 足関節拘縮
拘縮とは、関節包・靱帯・筋・皮膚などの軟部組織が短縮したり癒着したりして、関節の動く範囲が狭くなった状態である。関節そのものが動かなくなるため、自動運動だけでなく他動運動でも可動域が制限される。本問では他動背屈が20°と正常範囲まで可能であり、拘縮では説明できない。
- ×b. 脛骨神経麻痺
脛骨神経は下腿後面の筋(腓腹筋・ヒラメ筋からなる下腿三頭筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋)や足底の筋を支配する。麻痺すると足関節の自動底屈や足趾の屈曲が障害され、つま先立ちができなくなり、踵足(かかと歩き)の傾向となる。本問では自動底屈が45°と正常であり、脛骨神経は保たれている。
- ○c. 総腓骨神経麻痺
総腓骨神経は坐骨神経から膝窩部で分かれ、腓骨頭の後方から外側を回って前方に出て、深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれる。深腓骨神経は下腿前面の前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋を支配して足関節の背屈と足趾の伸展を担い、浅腓骨神経は長・短腓骨筋を支配して足の外返し(外反)を担う。総腓骨神経が麻痺すると背屈筋群が働かなくなり、自動背屈が不能となって下垂足(drop foot)を呈する。関節自体には異常がないため他動背屈は正常に保たれ、本問の結果と一致する。
- ×d. アキレス腱断裂
アキレス腱断裂では下腿三頭筋の力が踵骨に伝わらなくなり、底屈力が著しく低下してつま先立ち(特に片脚)ができなくなる。ただし、後脛骨筋・長趾屈筋・長母趾屈筋・腓骨筋といった他の底屈に働く筋によって、弱いながらも自動底屈は可能であることが多い。いずれにしても障害されるのは底屈であり、背屈が不能になることはない。診断には、腹臥位で下腿三頭筋をつかんでも足関節が底屈しないことを確かめるThompsonテスト(squeeze test)が有用である。本問は底屈が正常、背屈が不能であり合致しない。
- ×e. 足関節靱帯損傷
足関節靱帯損傷は多くが内返し(内反)強制による捻挫で、外側の前距腓靱帯や踵腓靱帯が損傷されやすい。腫脹・圧痛がみられ、疼痛のために可動域が制限されることはあるが、筋や神経は障害されないため、他動では十分動くのに自動背屈だけが全く不能になるという所見は説明できない。
自動運動と他動運動の差の読み方
・自動↓・他動↓:拘縮、強直、関節内病変、強い疼痛など関節側の問題 ・自動↓・他動正常:筋力低下、腱断裂、末梢神経麻痺など運動を起こす側の問題
下腿の筋区画と支配神経
・前方区画(深腓骨神経):前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋、第三腓骨筋 → 足関節背屈、足趾伸展 ・外側区画(浅腓骨神経):長腓骨筋、短腓骨筋 → 足の外返し(外反)、底屈の補助 ・後方区画(脛骨神経):下腿三頭筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋 → 足関節底屈、内返し、足趾屈曲
総腓骨神経麻痺
総腓骨神経は腓骨頭・腓骨頸部の周囲で皮下の浅い位置を走り、骨に接しているため圧迫を受けやすい。原因としては、ギプスや装具による圧迫、長時間の臥床や手術中の体位、足を組む姿勢、腓骨頭周囲の骨折、ガングリオンなどがある。 ・運動症状:足関節背屈・足趾伸展・足の外返しの障害 → 下垂足。歩行時につま先が引っかからないよう膝を高く上げる鶏歩(steppage gait)となる。 ・感覚障害:下腿外側から足背(浅腓骨神経領域)、第1・第2趾間の足背(深腓骨神経領域)。 ・腓骨頭部でTinel徴候がみられることがある。 ・下垂足はL5神経根障害(腰椎椎間板ヘルニアなど)でも起こるため鑑別を要する。L5神経根障害では中殿筋(股関節外転)や後脛骨筋(内返し)の筋力低下も伴いうる点が、総腓骨神経麻痺との区別に役立つ。
足関節の参考可動域
背屈0~20°、底屈0~45°。
POINT
・他動は正常で自動のみ不能 → 関節ではなく筋・腱・神経の障害を考える。 ・足関節背屈筋(前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋)は深腓骨神経(総腓骨神経の枝)支配。 ・総腓骨神経麻痺 → 下垂足、鶏歩。腓骨頭部での圧迫が原因として多い。 ・脛骨神経麻痺・アキレス腱断裂では底屈が障害される。 ・足関節の参考可動域:背屈20°、底屈45°。
