StudyMed医師国家試験

生まれつきの赤いあざにレーザーを―照射前に守るべきは「目」

第102回医師国家試験 G問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第59問

18歳の女子。出生時から顔面に紅色皮疹があり,治療を希望して来院した。顔面の写真を別に示す。  治療の際,注意すべきことはどれか。

第102回 G問題 第59問の問題画像
  1. a.発癌
  2. b.不妊
  3. c.眼障害
  4. d.骨髄抑制
  5. e.聴力障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、出生時からある顔の赤いあざを診断し、その治療で何に気をつけるかを考える問題だ。ポイントは「いつからあるか」「盛り上がりはあるか」「どこに分布しているか」の3つ。そこから治療法を思い浮かべられれば、注意点は自然に見えてくるよ。
医学生医学生
生まれたときからあって、18歳になっても消えていない赤い斑なので、苺状血管腫ではなさそうですね。
ドクタードクター
いい出だしだ。乳児血管腫、いわゆる苺状血管腫は生後まもなく出てきて急に盛り上がり、多くは数年で自然に退縮する。写真の病変は平坦で境界明瞭な赤ぶどう酒色の紅斑で、自然に消えずに残っている。これは毛細血管奇形、従来の名前でいう単純性血管腫、別名ポートワイン母斑だね。
医学生医学生
皮膚科の講義で、今はISSVA分類で「腫瘍」と「奇形」を分けると習いました。単純性血管腫は名前に「腫」がついているのに奇形のほうなんですね。
ドクタードクター
そこは混乱しやすいところだね。血管内皮細胞が増殖するのが血管性腫瘍、血管のつくりの異常が血管奇形。毛細血管奇形は奇形だから自然には消えず、体の成長に合わせて広がり、成人以降に色が濃くなったり盛り上がったりすることもある。では、この病変の分布で気になることはあるかな。
医学生医学生
顔の片側で、おでこからまぶた、頬にかけて広がっています……三叉神経の第1枝と第2枝の領域ですか。
ドクタードクター
そう。特に第1枝領域の毛細血管奇形では、同側の脳軟膜血管腫や緑内障を伴うSturge-Weber症候群を必ず念頭に置く。ただ、今回は神経症状や眼症状の記載がないので、症候群と確定はできない。鑑別として意識しておく、という位置づけだね。では本題、治療法は何だろう。
医学生医学生
色素レーザーだったと思います。でも注意点の選択肢に発癌や骨髄抑制があって、放射線を使うのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
かつては血管腫に放射線を当てた時代もあったけれど、現在は行わない。第一選択はパルス色素レーザーで、血管内のヘモグロビンに選択的に吸収される波長の光を使い、周囲をあまり傷つけずに異常な毛細血管だけを熱で壊す。選択的光熱融解と呼ばれる原理だ。
医学生医学生
光がヘモグロビンに吸収されるなら、網膜みたいに血管や色素の多い組織にも当たったら危ないですよね。
ドクタードクター
まさにそこが正解の理由だ。レーザー光が眼に入ると網膜や角膜に熱損傷を起こし、視力障害につながりうる。この患者さんは病変がまぶたの周りまで及んでいるから、照射中はアイシールドなどで眼球を確実に保護し、術者や介助者も波長に合った防護眼鏡をつける。注意すべきは眼障害だね。
医学生医学生
残りの選択肢は、どれも別の治療の副作用という整理でいいですか。
ドクタードクター
その通り。発癌は放射線やアルキル化薬、不妊はシクロホスファミドなどの抗癌薬や性腺への照射、骨髄抑制は抗癌薬や広範囲の放射線で問題になる。聴力障害はアミノグリコシド系抗菌薬やシスプラチン、ループ利尿薬の大量投与が代表だ。顔面の皮膚の血管だけを狙うレーザーでは、どれも起こらない。
医学生医学生
薬理の講義で覚えた副作用の一覧が、ここで「どの治療か」を逆算するヒントになるんですね。
ドクタードクター
いい気づきだ。選択肢がどの治療の副作用かを考えると、出題者が想定する治療法が浮かび上がる。最後に臨床の注意点もまとめよう。毛細血管奇形のレーザー治療は1回で終わらず、何回も照射を重ねることが多い。年齢が若く病変が薄いうちのほうが反応しやすいとされ、早めに始めることもある。
医学生医学生
眼のそばの病変なら、照射の前に眼科にも診てもらったほうがいいでしょうか。
ドクタードクター
そう考えておくといい。三叉神経第1枝領域の病変ではSturge-Weber症候群に伴う緑内障が隠れていることがあるから、眼圧や眼底の評価は大切だ。けいれんや片麻痺などがあれば頭部画像で脳回に沿った石灰化を確認する。ちなみに四肢の毛細血管奇形に静脈瘤と患肢の肥大を伴えばKlippel-Trenaunay症候群で、これもセットで覚えておこう。
医学生医学生
同じ「赤いあざ」でも、時期・形・分布で疾患も治療も合併症も変わるんですね。
ドクタードクター
その通り。そして治療を選んだら、その治療自体のリスクまで考える。レーザーなら目を守る、という当たり前の安全対策が、実際の現場でも一番大事なんだ。

まとめ

出生時から存在し、自然消退しない平坦で境界明瞭な顔面の紅斑は、毛細血管奇形(単純性血管腫、ポートワイン母斑)と考えます。治療の第一選択はヘモグロビンに選択的に吸収される光を用いるパルス色素レーザーで、レーザー光は網膜や角膜を損傷しうるため、眼の周囲に照射する際はアイシールドや防護眼鏡による眼の保護が必須です。発癌・不妊・骨髄抑制は放射線や抗癌薬、聴力障害はアミノグリコシド系抗菌薬などの副作用であり、レーザー治療とは関係しません。三叉神経第1枝領域の病変ではSturge-Weber症候群(脳軟膜血管腫、緑内障)も念頭に置き、眼科的評価を行うことが重要です。皮疹の発症時期・形態・分布から診断し、選んだ治療に固有のリスクまで考える姿勢は、皮膚科に限らず臨床全般に通じます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・18歳女性。出生時から顔面に紅色の皮疹があり、自然に消えずに残っている。 ・写真では、顔面の片側(写真の向かって左、患者の右側)に、前額部から眼瞼周囲・頬部・上口唇にかけて広がる境界明瞭な紅斑がみられる。盛り上がり(腫瘤)ははっきりせず、平坦な赤色斑である。分布はおおむね三叉神経第1枝・第2枝の支配領域に一致し、正中を越えていない。

診断

生まれつき存在し、自然消退せず、平坦で境界明瞭な赤ぶどう酒色の紅斑であることから、毛細血管奇形(従来の名称は単純性血管腫、別名ポートワイン母斑)と診断できる。顔面、特に三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形では、同側の脳軟膜血管腫(てんかん・片麻痺・知的障害の原因となる)や眼の異常(緑内障など)を伴うSturge-Weber症候群を考える必要がある。本問では神経症状や眼症状の記載はないため、症候群かどうかはこの情報だけでは確定できないが、鑑別として念頭に置くべきである。

設問の考え方

毛細血管奇形の治療の第一選択は、血管内のヘモグロビンに選択的に吸収される波長の光を使う色素レーザー(パルス色素レーザー)照射である。レーザー光は網膜や角膜を傷つけるため、眼の周囲に照射する本症例では眼の保護が最も重要な注意点となる。他の選択肢は、放射線療法・抗癌薬・アミノグリコシド系抗菌薬など、毛細血管奇形の治療では用いない治療法に伴う合併症である。

選択肢考察

  1. ×a.  発癌

    治療に伴う発癌は、放射線照射やアルキル化薬などの抗癌薬、免疫抑制薬の長期使用などで問題となる。毛細血管奇形に対する色素レーザーは、ヘモグロビンに吸収される可視光を利用した治療であり、電離放射線のように遺伝子を傷つけて癌を生じる作用はない。かつては血管腫に放射線療法が行われた時代もあったが、現在は行われない。

  2. ×b.  不妊

    不妊は、シクロホスファミドなどの抗癌薬、性腺への放射線照射、ホルモン療法などで問題となる副作用である。顔面の皮膚に限局して行うレーザー治療で性腺機能が障害されることはない。

  3. ○c.  眼障害

    毛細血管奇形の第一選択である色素レーザー治療では、レーザー光が眼に入ると網膜や角膜に熱による損傷を起こし、視力障害をきたしうる。本症例の病変は眼瞼周囲に及んでいるため、照射中は患者の眼をアイシールド(眼球を覆う保護具)やゴーグルで確実に保護し、術者・助手も波長に合った防護眼鏡を装着する必要がある。なお、三叉神経第1枝領域の病変ではSturge-Weber症候群に伴う緑内障などの眼合併症が起こることがあるため、眼科的評価を行っておくことも大切である。

  4. ×d.  骨髄抑制

    骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)は、抗癌薬、広い範囲への放射線照射、免疫抑制薬などで起こる。皮膚表面の血管だけを標的とするレーザー治療では、全身の造血に影響はない。

  5. ×e.  聴力障害

    治療に伴う聴力障害は、ストレプトマイシン・カナマイシン・ゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬や、シスプラチンなどの抗癌薬、ループ利尿薬の大量投与などで生じる。顔面へのレーザー照射が内耳を傷つけることはない。

血管腫・血管奇形の整理

現在は、ISSVA(国際血管腫・血管奇形学会)分類に基づき、血管内皮細胞が増殖する「血管性腫瘍」と、血管の形成異常である「血管奇形」を区別する。 ・毛細血管奇形(単純性血管腫、ポートワイン母斑):出生時からある平坦な紅斑。自然消退せず、成長に比例して拡大し、成人以降に色が濃くなったり盛り上がったりすることがある。治療は色素レーザー。 ・乳児血管腫(苺状血管腫):生後まもなく出現し、急速に大きくなる鮮紅色の隆起性病変。多くは数年で自然に退縮する。機能障害の恐れがある場合などはプロプラノロール内服やレーザー治療を行う。 ・サーモンパッチ(正中部母斑):額の中央・眉間・上眼瞼などに生じる淡い紅斑。多くは自然消退する。うなじに生じるものはウンナ母斑と呼ばれ、残りやすい。

毛細血管奇形を伴う主な症候群

・Sturge-Weber症候群:顔面(特に三叉神経第1枝領域)の毛細血管奇形、同側の脳軟膜血管腫(てんかん、片麻痺、知的障害、頭部画像で脳回に沿った石灰化)、眼症状(緑内障、脈絡膜血管腫)を特徴とする。 ・Klippel-Trenaunay症候群:四肢の毛細血管奇形、静脈瘤、患肢の骨・軟部組織の肥大を特徴とする。

レーザー治療の原理と安全対策

色素レーザーの光はヘモグロビンに選択的に吸収され、周囲の組織を大きく傷つけずに異常な毛細血管だけを熱で破壊する(選択的光熱融解)。レーザー光は眼の組織を容易に傷つけるため、使用する波長に合った防護眼鏡の装着と、眼の近くに照射する際の患者の眼球保護が必須である。

POINT

・出生時からある、平坦で自然消退しない顔面の赤色斑は毛細血管奇形(単純性血管腫)である。 ・治療の第一選択は色素レーザーであり、眼の周囲への照射では眼障害を防ぐための眼の保護が必須である。 ・三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形では、Sturge-Weber症候群(脳軟膜血管腫によるてんかん、緑内障)を必ず考える。 ・発癌・不妊・骨髄抑制は放射線や抗癌薬、聴力障害はアミノグリコシド系抗菌薬などに関連する副作用である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。