生まれつきの赤いあざにレーザーを―照射前に守るべきは「目」
第102回医師国家試験 G問題 第59問
国試問題にチャレンジ
18歳の女子。出生時から顔面に紅色皮疹があり,治療を希望して来院した。顔面の写真を別に示す。 治療の際,注意すべきことはどれか。

- a.発癌
- b.不妊
- c.眼障害
- d.骨髄抑制
- e.聴力障害
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
出生時から存在し、自然消退しない平坦で境界明瞭な顔面の紅斑は、毛細血管奇形(単純性血管腫、ポートワイン母斑)と考えます。治療の第一選択はヘモグロビンに選択的に吸収される光を用いるパルス色素レーザーで、レーザー光は網膜や角膜を損傷しうるため、眼の周囲に照射する際はアイシールドや防護眼鏡による眼の保護が必須です。発癌・不妊・骨髄抑制は放射線や抗癌薬、聴力障害はアミノグリコシド系抗菌薬などの副作用であり、レーザー治療とは関係しません。三叉神経第1枝領域の病変ではSturge-Weber症候群(脳軟膜血管腫、緑内障)も念頭に置き、眼科的評価を行うことが重要です。皮疹の発症時期・形態・分布から診断し、選んだ治療に固有のリスクまで考える姿勢は、皮膚科に限らず臨床全般に通じます。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・18歳女性。出生時から顔面に紅色の皮疹があり、自然に消えずに残っている。 ・写真では、顔面の片側(写真の向かって左、患者の右側)に、前額部から眼瞼周囲・頬部・上口唇にかけて広がる境界明瞭な紅斑がみられる。盛り上がり(腫瘤)ははっきりせず、平坦な赤色斑である。分布はおおむね三叉神経第1枝・第2枝の支配領域に一致し、正中を越えていない。
診断
生まれつき存在し、自然消退せず、平坦で境界明瞭な赤ぶどう酒色の紅斑であることから、毛細血管奇形(従来の名称は単純性血管腫、別名ポートワイン母斑)と診断できる。顔面、特に三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形では、同側の脳軟膜血管腫(てんかん・片麻痺・知的障害の原因となる)や眼の異常(緑内障など)を伴うSturge-Weber症候群を考える必要がある。本問では神経症状や眼症状の記載はないため、症候群かどうかはこの情報だけでは確定できないが、鑑別として念頭に置くべきである。
設問の考え方
毛細血管奇形の治療の第一選択は、血管内のヘモグロビンに選択的に吸収される波長の光を使う色素レーザー(パルス色素レーザー)照射である。レーザー光は網膜や角膜を傷つけるため、眼の周囲に照射する本症例では眼の保護が最も重要な注意点となる。他の選択肢は、放射線療法・抗癌薬・アミノグリコシド系抗菌薬など、毛細血管奇形の治療では用いない治療法に伴う合併症である。
選択肢考察
- ×a. 発癌
治療に伴う発癌は、放射線照射やアルキル化薬などの抗癌薬、免疫抑制薬の長期使用などで問題となる。毛細血管奇形に対する色素レーザーは、ヘモグロビンに吸収される可視光を利用した治療であり、電離放射線のように遺伝子を傷つけて癌を生じる作用はない。かつては血管腫に放射線療法が行われた時代もあったが、現在は行われない。
- ×b. 不妊
不妊は、シクロホスファミドなどの抗癌薬、性腺への放射線照射、ホルモン療法などで問題となる副作用である。顔面の皮膚に限局して行うレーザー治療で性腺機能が障害されることはない。
- ○c. 眼障害
毛細血管奇形の第一選択である色素レーザー治療では、レーザー光が眼に入ると網膜や角膜に熱による損傷を起こし、視力障害をきたしうる。本症例の病変は眼瞼周囲に及んでいるため、照射中は患者の眼をアイシールド(眼球を覆う保護具)やゴーグルで確実に保護し、術者・助手も波長に合った防護眼鏡を装着する必要がある。なお、三叉神経第1枝領域の病変ではSturge-Weber症候群に伴う緑内障などの眼合併症が起こることがあるため、眼科的評価を行っておくことも大切である。
- ×d. 骨髄抑制
骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)は、抗癌薬、広い範囲への放射線照射、免疫抑制薬などで起こる。皮膚表面の血管だけを標的とするレーザー治療では、全身の造血に影響はない。
- ×e. 聴力障害
治療に伴う聴力障害は、ストレプトマイシン・カナマイシン・ゲンタマイシンなどのアミノグリコシド系抗菌薬や、シスプラチンなどの抗癌薬、ループ利尿薬の大量投与などで生じる。顔面へのレーザー照射が内耳を傷つけることはない。
血管腫・血管奇形の整理
現在は、ISSVA(国際血管腫・血管奇形学会)分類に基づき、血管内皮細胞が増殖する「血管性腫瘍」と、血管の形成異常である「血管奇形」を区別する。 ・毛細血管奇形(単純性血管腫、ポートワイン母斑):出生時からある平坦な紅斑。自然消退せず、成長に比例して拡大し、成人以降に色が濃くなったり盛り上がったりすることがある。治療は色素レーザー。 ・乳児血管腫(苺状血管腫):生後まもなく出現し、急速に大きくなる鮮紅色の隆起性病変。多くは数年で自然に退縮する。機能障害の恐れがある場合などはプロプラノロール内服やレーザー治療を行う。 ・サーモンパッチ(正中部母斑):額の中央・眉間・上眼瞼などに生じる淡い紅斑。多くは自然消退する。うなじに生じるものはウンナ母斑と呼ばれ、残りやすい。
毛細血管奇形を伴う主な症候群
・Sturge-Weber症候群:顔面(特に三叉神経第1枝領域)の毛細血管奇形、同側の脳軟膜血管腫(てんかん、片麻痺、知的障害、頭部画像で脳回に沿った石灰化)、眼症状(緑内障、脈絡膜血管腫)を特徴とする。 ・Klippel-Trenaunay症候群:四肢の毛細血管奇形、静脈瘤、患肢の骨・軟部組織の肥大を特徴とする。
レーザー治療の原理と安全対策
色素レーザーの光はヘモグロビンに選択的に吸収され、周囲の組織を大きく傷つけずに異常な毛細血管だけを熱で破壊する(選択的光熱融解)。レーザー光は眼の組織を容易に傷つけるため、使用する波長に合った防護眼鏡の装着と、眼の近くに照射する際の患者の眼球保護が必須である。
POINT
・出生時からある、平坦で自然消退しない顔面の赤色斑は毛細血管奇形(単純性血管腫)である。 ・治療の第一選択は色素レーザーであり、眼の周囲への照射では眼障害を防ぐための眼の保護が必須である。 ・三叉神経第1枝領域の毛細血管奇形では、Sturge-Weber症候群(脳軟膜血管腫によるてんかん、緑内障)を必ず考える。 ・発癌・不妊・骨髄抑制は放射線や抗癌薬、聴力障害はアミノグリコシド系抗菌薬などに関連する副作用である。
