蛋白尿を伴う40歳女性の高血圧―鍵を握るのは「妊娠のとき」の記憶
第102回医師国家試験 G問題 第46問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。健康診断で血圧高値を指摘され来院した。身長156 cm,体重72 kg。脈拍72/分,整。血圧164/96 mmHg。尿所見:蛋白2+,糖(-),沈渣に赤血球5~10/1視野,白血球1~5/1視野,細菌(-)。 問診で重要なのはどれか。
- a.飲酒歴
- b.妊娠出産歴
- c.海外渡航歴
- d.尿路感染の既往
- e.アレルギーの既往
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
蛋白尿と血尿を伴う高血圧では、本態性高血圧による腎硬化症に加え、慢性糸球体腎炎などによる腎実質性高血圧を考える必要があります。女性の場合、妊娠は循環血漿量と糸球体濾過量の増加によって腎臓に大きな負荷をかけるため、潜在していた腎疾患や高血圧素因が妊娠高血圧症候群として初めて顕在化することが少なくありません。妊婦健診の記録から異常の始まった時期を推定でき、さらに妊娠高血圧症候群の既往は将来の慢性高血圧・慢性腎臓病・心血管疾患の危険因子でもあるため、妊娠出産歴の聴取が最も重要となります。一方、膿尿・細菌尿がなければ尿路感染による腎障害は考えにくく、飲酒歴やアレルギー歴は一般的な確認事項ではあっても本例の原因検索の決め手にはなりません。所見の組み合わせから病態を推定し、それに沿って問診の優先順位を決める姿勢は、あらゆる診療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・40歳女性、健康診断で高血圧を指摘されて受診。 ・身長156 cm、体重72 kgで、BMI(体格指数)は 72÷1.56÷1.56≒29.6 kg/m²。日本肥満学会の基準(25以上で肥満)では肥満1度に当たる。 ・血圧164/96 mmHg。日本高血圧学会の分類(JSH2019)では、収縮期160~179 mmHgまたは拡張期100~109 mmHgがII度高血圧であり、本例は収縮期血圧からII度高血圧に該当する。 ・尿蛋白2+、沈渣で赤血球5~10/1視野(基準はおおむね4以下/1視野)と顕微鏡的血尿がある。白血球1~5/1視野は基準内で、細菌も認めない。
考え方
本例は単なる高血圧ではなく、蛋白尿と血尿という腎障害の所見を伴っている。尿路感染(膿尿・細菌尿)を示唆する所見はない。40歳という比較的若い年齢で腎所見を伴う高血圧をみたときは、本態性高血圧による腎硬化症に加え、慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)に伴う腎実質性高血圧や、妊娠を契機に顕在化した高血圧・腎障害を念頭に置く必要がある。 女性の場合、妊娠は高血圧や腎疾患が最初に表面化する重要な機会である。妊娠中は循環血漿量や糸球体濾過量が大きく増えるため、潜在していた腎疾患や高血圧素因が妊娠高血圧症候群(HDP)の形で現れやすい。また妊娠健診では毎回血圧と尿蛋白が測定されるため、「いつから高血圧・尿所見異常があったのか」を知る手がかりにもなる。さらに、妊娠高血圧症候群(特に妊娠高血圧腎症)の既往は、将来の慢性高血圧・慢性腎臓病・心血管疾患の独立した危険因子であることが知られている。 したがって、この女性の高血圧と腎所見の由来を探るうえで、妊娠出産歴(妊娠時の血圧上昇・蛋白尿の有無、分娩経過など)を聴取することが最も重要である。
選択肢考察
- ×a. 飲酒歴
過度の飲酒は血圧を上昇させる生活習慣要因であり、高血圧患者で一般に確認すべき項目ではある。しかし飲酒によって、40歳の女性に蛋白尿2+と顕微鏡的血尿を伴う腎障害が生じることは考えにくい。本例の病態、特に腎所見を説明する手がかりとしての重要度は低い。
- ○b. 妊娠出産歴
妊娠は循環動態と腎臓への負荷を大きく変化させるため、潜在していた高血圧素因や腎疾患が妊娠高血圧症候群として初めて現れることが多い。妊娠中の血圧上昇や蛋白尿の有無を聞けば、高血圧・腎障害がいつから存在したかを推定でき、慢性糸球体腎炎などの腎実質性高血圧を見分ける手がかりにもなる。また妊娠高血圧症候群の既往は、将来の慢性高血圧・慢性腎臓病・心血管疾患のリスクを高める。蛋白尿と血尿を伴う中年女性の高血圧では、最も優先して聴取すべき項目である。
- ×c. 海外渡航歴
海外渡航歴は、輸入感染症(マラリア、デング熱など)や現地の風土病・生活環境による健康障害を疑うときに重要となる。発熱などの感染症を思わせる所見のない本例の高血圧と腎所見の原因検索では、優先度は低い。
- ×d. 尿路感染の既往
女性は尿路感染症を起こしやすく、腎盂腎炎を繰り返して慢性腎盂腎炎となると高血圧や腎障害の原因になり得る。しかし本例の尿沈渣では白血球が1~5/1視野と基準内で細菌も陰性であり、尿路感染を示唆する所見はない。さらに蛋白尿2+と血尿の組み合わせは、間質の障害である腎盂腎炎よりも糸球体の障害を考えさせる。問診として最も重要とはいえない。
- ×e. アレルギーの既往
アレルギーの既往は、薬を処方する前や造影剤を使う検査の前には必ず確認すべき基本事項である。しかし高血圧と腎所見の原因を探る手がかりにはならず、本問の問いに対する答えとしては適切でない。
高血圧の分類(JSH2019、診察室血圧)
・正常血圧:120/80 mmHg未満 ・正常高値血圧:120~129/80 mmHg未満 ・高値血圧:130~139/80~89 mmHg ・I度高血圧:140~159/90~99 mmHg ・II度高血圧:160~179/100~109 mmHg ・III度高血圧:180/110 mmHg以上 収縮期と拡張期で分類が異なる場合は、高い方の分類に入れる。
妊娠高血圧症候群(HDP)
妊娠時に高血圧(140/90 mmHg以上)を認める場合をいい、日本産科婦人科学会の2018年の定義では、妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠の4病型に分けられる。かつては「妊娠中毒症」と呼ばれ、浮腫も診断要素に含まれていたが、現在は高血圧を基本とした定義に変わっている。HDPの既往がある女性は、出産後に慢性高血圧・慢性腎臓病・脳心血管疾患を発症する危険が高く、長期的な経過観察が勧められる。
若年~中年の高血圧で考える二次性高血圧
・腎実質性高血圧:慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、多発性囊胞腎など。二次性高血圧の中で最も多い。蛋白尿・血尿、腎機能低下が手がかり。 ・腎血管性高血圧:線維筋性異形成(若年女性に多い)、動脈硬化による腎動脈狭窄。腹部血管雑音が手がかり。 ・内分泌性高血圧:原発性アルドステロン症(低K血症)、Cushing症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能異常など。 ・その他:睡眠時無呼吸症候群、薬剤性(NSAIDs、甘草、経口避妊薬、グルココルチコイドなど)。
尿沈渣の目安
赤血球5個以上/1視野で血尿、白血球5個以上/1視野で膿尿と判断することが多い。
POINT
・蛋白尿と血尿を伴う高血圧では、腎実質性高血圧(慢性糸球体腎炎など)を考える。 ・女性の高血圧・腎障害は、妊娠を機に初めて顕在化することが多い。妊娠出産歴(妊娠高血圧症候群の有無)を必ず聴取する。 ・妊娠高血圧症候群の既往は、将来の慢性高血圧・慢性腎臓病・心血管疾患の危険因子である。 ・膿尿・細菌尿がなければ、尿路感染による腎障害は考えにくい。
