SLEなのにⅢ型じゃない?―「この貧血」を問われたら赤血球の上で何が起きているかを考える
第102回医師国家試験 G問題 第44問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。38℃台の発熱を主訴に来院した。1か月前から感冒様症状とともに発熱が持続している。四肢に紫斑を認める。眼瞼結膜に貧血を認める。血液所見:赤血球175万,Hb 5.6 g/dL,網赤血球5%,白血球1,500,血小板4万。血液生化学所見:総蛋白7.0 g/dL,ハプトグロビン≦10 mg/dL(基準19~170),クレアチニン0.9 mg/dL,AST 30 IU/L,ALT 40 IU/L,LD 500 IU/L(基準176~353)。免疫学所見:抗核抗体360倍(基準20以下),抗DNA抗体56 IU/mL(基準10以下),直接Coombs試験陽性,間接Coombs試験陽性,抗血小板抗体陽性,CH 50<10 IU/mL(基準30~40)。 この貧血のアレルギー反応の型(Gell & Coombs分類)はどれか。
- a.Ⅰ型
- b.Ⅱ型
- c.Ⅲ型
- d.Ⅳ型
- e.抗レセプター抗体型〈Ⅴ型〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
網赤血球増加、ハプトグロビン低下、LD上昇は溶血を示し、直接Coombs試験陽性があれば自己免疫性溶血性貧血と診断できます。抗血小板抗体による血小板減少を合併すればEvans症候群であり、若年女性で抗核抗体・抗DNA抗体陽性、低補体を伴う場合はSLEに続発したものを考えます。SLEの臓器障害は免疫複合体によるⅢ型が主体ですが、赤血球や血小板に自己抗体が直接結合して破壊される溶血性貧血・血小板減少はⅡ型(細胞傷害型)アレルギーです。Ⅰ型(IgE・即時型)、Ⅲ型(免疫複合体)、Ⅳ型(感作T細胞・遅延型)、Ⅴ型(受容体機能の刺激・阻害)との違いを、代表疾患とセットで整理しておきましょう。「疾患全体」ではなく「その病態」の機序を問われているかを読み分ける姿勢は、試験だけでなく臨床推論でも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・23歳女性。1か月続く38℃台の発熱。四肢の紫斑と眼瞼結膜の貧血。 ・血算:Hb 5.6 g/dLの高度貧血、白血球1,500、血小板4万と3系統すべてが減少している(汎血球減少)。一方で網赤血球は5%と増加しており、骨髄では赤血球を盛んに作っている。 ・溶血の指標:ハプトグロビン≦10 mg/dLと著減、LD 500 IU/Lと上昇。AST・ALTは正常で肝障害によるLD上昇やハプトグロビン産生低下は考えにくい。 ・自己抗体・補体:抗核抗体360倍、抗DNA抗体陽性、直接・間接Coombs試験ともに陽性、抗血小板抗体陽性、CH50(血清補体価)<10 IU/mLと著明な低補体血症。
診断へのプロセス
① 網赤血球増加を伴う貧血+ハプトグロビン低下+LD上昇 → 赤血球が壊されている(溶血性貧血)。 ② 直接Coombs試験陽性 → 赤血球表面に自己抗体(または補体)が結合しており、溶血の原因は自己免疫性(自己免疫性溶血性貧血:AIHA)。間接Coombs試験陽性は血清中にも遊離した抗赤血球抗体が存在することを示す。 ③ 抗血小板抗体陽性の血小板減少 → 免疫性血小板減少症(ITP)の合併。AIHAとITPが同時あるいは相次いで起こった状態をEvans症候群と呼ぶ。 ④ 若年女性、持続する発熱、白血球減少、抗核抗体・抗DNA抗体陽性、低補体血症 → 背景に全身性エリテマトーデス(SLE)があると考えられる。つまりSLEに続発したEvans症候群(続発性AIHA+ITP)である。
設問の考え方
問われているのは「SLEという病気全体」の機序ではなく、「この貧血」の機序である。SLEの腎炎や血管炎などの臓器障害は主に免疫複合体の沈着によるⅢ型アレルギーで起こるが、AIHAは赤血球膜上の抗原に自己抗体(主にIgG)が直接結合し、その赤血球が補体や貪食細胞によって破壊される反応であり、Gell & Coombs分類のⅡ型(細胞傷害型)アレルギーに相当する。同様に、抗血小板抗体による血小板減少もⅡ型である。
選択肢考察
- ×a. Ⅰ型
Ⅰ型(即時型、アナフィラキシー型)は、肥満細胞や好塩基球の表面に結合したIgEに抗原が結合し、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されて数分以内に起こる反応である。代表疾患はアナフィラキシー、気管支喘息(アトピー型)、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹など。赤血球が抗体で破壊される本例の貧血の機序とは異なる。
- ○b. Ⅱ型
Ⅱ型(細胞傷害型)は、細胞表面や組織の抗原にIgGやIgMの抗体が直接結合し、補体の活性化による細胞膜の破壊(膜侵襲複合体の形成)や、抗体・補体を目印にしたマクロファージの貪食(オプソニン化)、NK細胞などによる抗体依存性細胞傷害(ADCC)で標的細胞が障害される反応である。本例では直接Coombs試験陽性で赤血球表面に自己抗体が結合していることが示されており、赤血球がこの機序で破壊される自己免疫性溶血性貧血はⅡ型の代表例である。抗血小板抗体による血小板減少(ITP)も同じくⅡ型であり、正解である。
- ×c. Ⅲ型
Ⅲ型(免疫複合体型)は、抗原と抗体が結合した免疫複合体が血管壁や糸球体などに沈着し、補体を活性化して好中球を呼び寄せ、組織を障害する反応である。代表疾患はSLE(ループス腎炎など)、血清病、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、過敏性肺炎(Ⅲ型とⅣ型が関与)など。本例の低補体血症はSLEの活動性を反映し、SLE自体の臓器障害はⅢ型が主体だが、問われている「貧血」は赤血球に抗体が直接結合して起こるためⅢ型ではない。
- ×d. Ⅳ型
Ⅳ型(遅延型、細胞性免疫型)は、抗体ではなく感作されたT細胞が抗原を認識し、サイトカインを放出してマクロファージなどを活性化することで、抗原曝露から24〜72時間後に組織障害が起こる反応である。代表例はツベルクリン反応、接触皮膚炎、サルコイドーシスや結核などの肉芽腫形成、移植片拒絶など。自己抗体によって起こる本例の貧血とは機序が異なる。
- ×e. 抗レセプター抗体型〈Ⅴ型〉
Ⅴ型(刺激型)は、Ⅱ型の亜型として扱われることもあり、細胞表面の受容体(レセプター)に対する自己抗体が細胞を破壊せず、受容体の機能を異常に亢進または阻害する反応である。代表例は、TSH受容体を刺激する抗体によるBasedow病(機能亢進)、アセチルコリン受容体に対する抗体による重症筋無力症(機能阻害)である。本例では抗体により赤血球そのものが破壊されており、受容体機能の変化ではないため該当しない。
Gell & Coombs分類の整理
・Ⅰ型(即時型):IgE・肥満細胞。アナフィラキシー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、花粉症。皮膚テストは即時型反応(15〜20分)。 ・Ⅱ型(細胞傷害型):IgG・IgM、補体、貪食細胞。自己免疫性溶血性貧血、ITP、血液型不適合輸血、Rh不適合妊娠(新生児溶血性疾患)、Goodpasture症候群(抗糸球体基底膜抗体病)、薬剤性溶血性貧血の一部。 ・Ⅲ型(免疫複合体型):免疫複合体の沈着、補体、好中球。SLE、血清病、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、IgA血管炎、Arthus反応、過敏性肺炎(Ⅲ型+Ⅳ型)。 ・Ⅳ型(遅延型):感作T細胞。ツベルクリン反応、接触皮膚炎、サルコイドーシス、移植片拒絶反応。 ・Ⅴ型(刺激型・抗レセプター抗体型):受容体に対する自己抗体。Basedow病、重症筋無力症。
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
・温式AIHA:体温付近で赤血球に結合する主にIgG型の自己抗体による。抗体が結合した赤血球は、主に脾臓のマクロファージにFc受容体を介して捕捉・破壊される(血管外溶血)。原発性のほか、SLEなどの膠原病、慢性リンパ性白血病・悪性リンパ腫などに続発する。検査では網赤血球増加、間接ビリルビン上昇、LD上昇、ハプトグロビン低下、直接Coombs試験陽性、末梢血に球状赤血球がみられる。治療の第一選択は副腎皮質ステロイドである。 ・冷式AIHA:低温で結合する抗体による。寒冷凝集素症(IgM、補体介在)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(Donath-Landsteiner抗体、IgG)がある。
Evans症候群
AIHAとITPが同時または相次いで発症した状態である。自己免疫性好中球減少症を伴うこともある。特発性のもののほか、SLEなどの膠原病、リンパ増殖性疾患、原発性免疫不全症に続発することがあり、背景疾患の検索が重要である。
SLEと本例
SLEの血液学的異常として、溶血性貧血、白血球減少(特にリンパ球減少)、血小板減少がある。SLEの分類基準(2019年のEULAR/ACR基準)では、抗核抗体陽性を入口条件とし、発熱、白血球減少、血小板減少、自己免疫性溶血、抗dsDNA抗体、低補体(C3・C4の低下)などの項目の点数を合計して判定する。本例は発熱、自己免疫性溶血、抗DNA抗体陽性の点数だけでも基準を満たし、SLEと分類できる状態である。CH50の著減は、免疫複合体による補体の消費を反映し、SLEの疾患活動性が高いことを示唆する。
POINT
・網赤血球増加+ハプトグロビン低下+LD上昇+直接Coombs試験陽性 → 自己免疫性溶血性貧血。 ・AIHA+ITP(抗血小板抗体陽性)=Evans症候群。若年女性で抗核抗体・抗DNA抗体陽性、低補体があればSLEに続発したものを考える。 ・AIHA・ITP・不適合輸血・Goodpasture症候群はⅡ型(細胞傷害型)アレルギー。 ・SLE自体の臓器障害(ループス腎炎など)はⅢ型(免疫複合体型)が主体だが、SLEに伴う溶血性貧血・血小板減少はⅡ型である。「何の」機序を問われているかを読み分ける。
