脳死なのに足が動く?―「脳」と「脊髄」を分けて考える法的脳死判定
第102回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
脳死判定の必須項目でないのはどれか。
- a.深昏睡
- b.平坦脳波
- c.脳幹反射の消失
- d.脊髄反射の消失
- e.自発呼吸の消失
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
日本の法的脳死は「脳幹を含む全脳の機能の不可逆的停止」と定義され、必須項目は深昏睡、瞳孔の固定・散大(両側4mm以上)、7種の脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失の5つです。脊髄は脳に含まれないため脊髄反射の消失は必須項目ではなく、深部腱反射やLazarus徴候などが残っても脳死判定は妨げられません。一方、除脳硬直やけいれんは脳由来の運動なので、みられれば脳死とは判定できません。無呼吸テストは最後に行い、判定は一定の間隔(6歳以上で6時間以上、6歳未満で24時間以上)をあけて2回実施し、薬物中毒や低体温などは除外されます。定義から判定項目を導けるようにしておくことは、ご家族への説明を含め、救急・集中治療の現場で役立ちます。
解答・解説
正解はdです
本問は、わが国の法的脳死判定における必須項目を問う一般問題である。 脳死とは「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」(全脳死)と定義される。したがって判定では、大脳の機能停止(深昏睡・平坦脳波)と脳幹の機能停止(瞳孔固定・散大、脳幹反射の消失、自発呼吸の消失)を確認する。 法的脳死判定の必須項目は次の5つである。 (1) 深昏睡 (2) 瞳孔の固定と瞳孔径の左右とも4mm以上 (3) 脳幹反射の消失 (4) 平坦脳波(脳波の電気的無活動) (5) 自発呼吸の消失(無呼吸テスト) これらを、一定の時間(6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上)をあけて2回行い、2回とも満たすことを確認する。 一方、脊髄は「脳」ではないため、脊髄機能の停止は脳死の定義に含まれない。脳死状態でも脊髄の反射弓は保たれていることがあり、脊髄反射が出現しても脳死判定は妨げられない。この点を理解していれば、必須項目でないものは容易に選べる。
選択肢考察
- ×a. 深昏睡
必須項目である。大脳・脳幹の機能停止を示す所見で、Japan Coma Scale(JCS)でⅢ-300、Glasgow Coma Scale(GCS)で3点(E1V1M1)、すなわち痛み刺激に対して全く反応しない状態を確認する。顔面への疼痛刺激(眼窩上切痕部の圧迫など)に対して、脳神経支配領域の反応がないことが求められる。
- ×b. 平坦脳波
必須項目である。大脳皮質の電気活動が消失していることを示すもので、正式には「脳波の電気的無活動(electrocerebral inactivity:ECI)」と呼ばれる。規定の条件(高感度記録、電極間距離、一定時間以上の記録、呼名・疼痛刺激の付加など)のもとで記録し、脳由来の電位が検出されないことを確認する。
- ×c. 脳幹反射の消失
必須項目である。脳幹の機能停止を示すもので、対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射(人形の目現象)、前庭反射(カロリックテスト)、咽頭反射、咳反射の7つがすべて消失していることを確認する。なお、瞳孔の固定・瞳孔径4mm以上も独立した必須項目である。
- ○d. 脊髄反射の消失
脳死は全脳(大脳・小脳・脳幹)の機能停止であり、脊髄は判定の対象外である。そのため脊髄反射の消失は必須項目ではない。脳死状態でも脊髄を介する反射は残存しうる。例えば深部腱反射、腹壁反射、足底反射、さらには上肢が胸の前で交差するように動くLazarus徴候などの自動運動が観察されることがあるが、これらがあっても脳死判定は否定されない。ただし除脳硬直・除皮質硬直やけいれんは脳幹・大脳由来の運動であり、これらがみられる場合は脳死とは判定できない。
- ×e. 自発呼吸の消失
必須項目である。呼吸中枢は延髄にあるため、その機能停止を確認する。無呼吸テストは、100%酸素で換気したうえで人工呼吸器を外し、酸素投与を続けながら動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が60mmHg以上に上昇しても自発呼吸が出現しないことを確かめる。患者への負担が大きいため、他の必須項目をすべて確認したあと最後に行う。
法的脳死判定の前提条件
・器質的脳障害により深昏睡・無呼吸をきたしていること ・原疾患が確実に診断されていること ・あらゆる適切な治療を行っても回復の可能性が全くないと判断されること
除外例
・生後12週未満(在胎週数40週未満で出生した場合は出産予定日から起算) ・急性薬物中毒 ・低体温(深部温が6歳以上で32℃未満、6歳未満で35℃未満) ・代謝・内分泌障害 ・知的障害者等で臓器提供の意思表示に関して有効な意思表示が困難な者(臓器提供を前提とする場合) ・被虐待児、またはその疑いのある18歳未満の児童(臓器提供を前提とする場合)
判定の手順と注意点
・必須項目5つを順に確認し、無呼吸テストは最後に行う。 ・第1回判定後、6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上経過してから第2回判定を行い、2回目の判定終了時刻を死亡時刻とする。 ・判定は脳死判定に十分な経験をもつ、臓器移植に関わらない医師2名以上で行う。 ・収縮期血圧が保たれていること(成人で90mmHg以上など年齢別の基準)も判定時の条件となる。
脳死と植物状態の違い
植物状態は大脳機能が高度に障害されているが脳幹機能は保たれた状態であり、自発呼吸があることが多く、回復の可能性もある。脳死は脳幹を含めた全脳の不可逆的停止であり、自発呼吸はない。
POINT
・法的脳死判定の必須5項目:深昏睡、瞳孔固定・散大(両側4mm以上)、脳幹反射(7種)の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失。 ・脊髄反射は残ってもよい(Lazarus徴候など)。除脳硬直・けいれんがあれば脳死ではない。 ・無呼吸テストは最後に行い、PaCO2 60mmHg以上で自発呼吸がないことを確認する。 ・2回の判定間隔は6歳以上で6時間以上、6歳未満で24時間以上。
