電話口で見抜く危ないめまい―「飲み込みにくい」「しゃべりにくい」は脳幹からのSOS
第101回医師国家試験 H問題 第23問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。朝からめまいがするので,日頃かかりつけている診療所の医師に電話で相談した。 電話を受けた診療所の医師が,直ちに救急病院受診を指示する根拠となる症状はどれか。2つ選べ。
- a.頭を動かすとめまいが悪化する。
- b.耳がつまった感じがする。
- c.つばを飲み込みにくい。
- d.天井がぐるぐる回る。
- e.しゃべりにくい。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
めまいは内耳・前庭神経の障害による末梢性と、脳幹・小脳の障害による中枢性に大別され、緊急受診が必要なのは椎骨脳底動脈系の脳梗塞・脳出血などの中枢性が疑われる場合です。判断の鍵はめまいの性状ではなく、嚥下障害、構音障害、複視、しびれ、麻痺、強い体幹失調といった「めまい以外の神経症状」の有無であり、めまいに嚥下障害や構音障害を伴えばWallenberg症候群などの脳幹病変を想起します。頭位で悪化する、耳閉感を伴う、回転性であるといった特徴は内耳性めまいでよくみられ、単独では緊急性を示しません。ただし小脳梗塞はめまいとふらつきだけで発症することがあり、起立・歩行困難や血管危険因子があれば慎重な評価が必要です。電話相談のように情報が限られた場面でも、随伴症状を的確に聞き取ることで重大な疾患の見逃しを防げます。
解答・解説
正解はc, eです
問題の状況
48歳女性が朝からのめまいを訴え、かかりつけ医に電話で相談している。診察も検査もできない電話相談の場面で、問診だけから「緊急性の高い原因が隠れているか」を見分ける力が問われている。
めまいの原因の大別
めまいの原因は大きく次の2つに分けられる。 (1) 末梢性めまい(内耳・前庭神経の障害):良性発作性頭位めまい症(BPPV)、Ménière病、前庭神経炎、突発性難聴に伴うめまいなど。症状は強くつらいが、多くは生命に関わらない。 (2) 中枢性めまい(脳幹・小脳の障害):椎骨脳底動脈系の脳梗塞・脳出血、一過性脳虚血発作(TIA)、小脳出血など。放置すれば意識障害、呼吸障害、脳幹圧迫などを起こしうるため、直ちに救急病院で画像検査を含む評価を受ける必要がある。
中枢性を疑うべき症状
中枢性めまいの多くは、めまい以外の神経症状を伴う。特に脳幹には嚥下・構音・発声を担う脳神経の核や経路が集まっているため、延髄外側症候群(Wallenberg症候群)などでは、めまいと同時に嚥下障害(飲み込みにくい)、構音障害(しゃべりにくい)、嗄声、顔面や手足のしびれ、複視、手足の動かしにくさ、ふらつき(立てない・歩けない)などが現れる。 救急受診の目安として電話で確認すべきなのは、こうした「めまい以外の神経症状」があるかどうかである。本問では、嚥下障害を示す「つばを飲み込みにくい」と、構音障害を示す「しゃべりにくい」がこれに当たる。 一方、頭の動きでの悪化、耳閉感、回転性の性状は、いずれも内耳性めまいでよくみられる特徴であり、それ単独では救急受診を指示する根拠にはならない。
選択肢考察
- ×a. 頭を動かすとめまいが悪化する。
頭位や頭の動きによってめまいが誘発・増悪するのは、良性発作性頭位めまい症(BPPV)など内耳性(末梢性)めまいの典型的な特徴である。BPPVは卵形嚢から剥がれた耳石が半規管に入り込むことで起こり、寝返りや起き上がりなど特定の頭位変換で数十秒程度の回転性めまいが生じる。末梢性めまいでは動くと悪化するため安静を好む。生命に関わる病態を示唆する所見ではなく、救急受診の根拠とはならない。
- ×b. 耳がつまった感じがする。
耳閉感(耳がつまった感じ)は、内耳(蝸牛)の障害を示唆する症状である。めまいに耳閉感や難聴・耳鳴を伴う場合、発作を繰り返すならMénière病(内リンパ水腫)、1回きりの発作なら突発性難聴(めまいを伴う型)などを考える。突発性難聴は早期治療が望ましいため耳鼻咽喉科受診を勧めるが、救急病院への緊急受診を指示する根拠ではない。なお、前下小脳動脈(AICA)領域の梗塞では難聴を伴うことがあるが、その場合でも顔面麻痺や小脳症状など他の神経症状の有無が重要となる。
- ○c. つばを飲み込みにくい。
つばを飲み込みにくいのは嚥下障害であり、延髄の疑核から出る舌咽神経(Ⅸ)・迷走神経(Ⅹ)の障害を示す球麻痺症状である。めまいに嚥下障害を伴う場合、椎骨動脈や後下小脳動脈(PICA)の閉塞による延髄外側症候群(Wallenberg症候群)など、脳幹の血管障害が強く疑われる。脳梗塞であれば発症早期の血栓溶解療法や血栓回収療法の適応を判断する時間的な制約もあり、さらに誤嚥性肺炎や呼吸障害の危険もあるため、直ちに救急病院を受診させる根拠となる。
- ×d. 天井がぐるぐる回る。
天井がぐるぐる回るのは回転性めまい(vertigo)である。回転性めまいは内耳性(末梢性)めまいで典型的にみられるが、小脳や脳幹の障害でも生じうるため、この性状だけで末梢性か中枢性かを区別することはできない。つまり、めまいの性状自体は緊急性の判断材料として不十分であり、救急受診の判断は、嚥下障害・構音障害・複視・麻痺・しびれ・起立や歩行ができないほどの失調などの随伴症状の有無で行う。
- ○e. しゃべりにくい。
しゃべりにくいのは構音障害(呂律が回らない)であり、延髄の障害による球麻痺や、小脳の障害による失調性構音障害(断綴性言語)などで生じる。いずれも内耳の障害では起こらない中枢神経症状である。めまいに構音障害を伴う場合は椎骨脳底動脈系の脳梗塞・脳出血(小脳出血を含む)を疑い、直ちに救急病院を受診させて頭部CT・MRIなどの評価を受けさせる必要がある。
末梢性めまいと中枢性めまいの比較
・めまいの性状:末梢性は回転性が多い。中枢性は浮動性(ふらふら感)が多いが、回転性もありうる。 ・蝸牛症状(難聴・耳鳴・耳閉感):末梢性で伴うことがある。中枢性では通常伴わない(AICA梗塞は例外)。 ・脳神経・神経症状(嚥下障害、構音障害、複視、顔面のしびれ、麻痺、Horner症候群など):末梢性では伴わない。中枢性では伴うことが多い。 ・眼振:末梢性は一方向性の水平回旋混合性眼振で、固視により抑制される。中枢性は注視方向で向きが変わる眼振、垂直性眼振、純回旋性眼振などがみられ、固視で抑制されにくい。 ・体幹失調:末梢性では歩行可能なことが多い。中枢性(特に小脳障害)では起立・歩行ができないほどの強い失調がある。 ・経過:末梢性は数日〜数週で代償され改善する。中枢性は進行・悪化することがある。
延髄外側症候群(Wallenberg症候群)
椎骨動脈またはPICAの閉塞により延髄外側が障害される。 ・病変と同側:回転性めまい・眼振(前庭神経核)、嚥下障害・嗄声・構音障害(疑核:Ⅸ・Ⅹ)、顔面の温痛覚障害(三叉神経脊髄路核)、Horner症候群(下行性交感神経路)、小脳性運動失調(下小脳脚) ・病変と反対側:頸部以下の体幹・四肢の温痛覚障害(外側脊髄視床路) ・錐体路は延髄腹側を通るため、片麻痺は通常みられない。
注意点
小脳梗塞では、構音障害などを伴わず、めまいとふらつきだけで発症することがある。このため、起立・歩行が困難なほどのふらつき、突然の強い後頭部痛、高血圧・糖尿病・心房細動などの血管危険因子を有する高齢者などでは、中枢性を念頭に慎重に評価する。
POINT
・めまいで緊急受診を要するのは中枢性(脳幹・小脳の血管障害など)が疑われる場合。 ・判断の鍵はめまい以外の神経症状(嚥下障害、構音障害、複視、しびれ、麻痺、強い体幹失調)の有無。 ・頭位で悪化する、耳閉感・難聴を伴う、回転性であるといった特徴は内耳性めまいに多く、単独では緊急性を示さない。 ・めまい+嚥下障害・構音障害 → Wallenberg症候群(椎骨動脈/PICA閉塞)を想起。
