心筋梗塞後に聞こえた新しい雑音―「穴」か「弁」かを見抜く聴診のチカラ
第101回医師国家試験 F問題 第28問
国試問題にチャレンジ
急性心筋梗塞の患者に新たに収縮期心雑音が出現した。 考えられる合併症はどれか。
- a.心室瘤
- b.心内膜炎
- c.心室中隔穿孔
- d.左室自由壁破裂
- e.大動脈弁閉鎖不全症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性心筋梗塞の経過中に新たな全収縮期雑音が出現したら、壊死組織がもろくなる発症後数日に起こる機械的合併症として、心室中隔穿孔と乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全を疑います。心室中隔穿孔では胸骨左縁下部の粗い全収縮期雑音とスリルを認め、心エコーで短絡血流を、右心カテーテルで右室レベルの酸素飽和度ステップアップを確認し、循環補助のうえ外科的修復を行います。左室自由壁破裂は心タンポナーデとPEAをきたし雑音は生じず、心室瘤は慢性期の合併症、心筋梗塞に合併するのは心内膜炎ではなく心膜炎、大動脈弁閉鎖不全症の主な雑音は拡張期雑音です。合併症を時期と所見で整理し、毎日の聴診で新たな雑音に気づくことが、梗塞後患者の救命に直結します。
解答・解説
正解はcです
急性心筋梗塞後に新たな収縮期雑音が出たら
急性心筋梗塞の経過中に新しく収縮期雑音が聴こえるようになった場合、まず疑うのは梗塞による組織の壊死・断裂によって生じた「機械的合併症」である。代表は次の二つである。 1. 心室中隔穿孔:壊死した心室中隔に穴が開き、左室から右室へ血液が流れる(左右短絡)。 2. 乳頭筋断裂・乳頭筋機能不全:僧帽弁を支える乳頭筋が壊死・断裂し、急性の僧帽弁閉鎖不全が起こる。 いずれも収縮期に高圧の左室から低圧側(右室または左房)へ血液が逆流・短絡するため、全収縮期雑音を生じる。発症時期はどちらも梗塞発症後数日(おおむね3〜5日、多くは1週間以内)が多く、梗塞で壊死した心筋が最も軟らかくなる時期に一致する。急速に心不全・肺水腫・心原性ショックへ進むため、緊急の診断と治療が必要である。
選択肢の見方
選択肢のうち、新たな収縮期雑音の原因となる機械的合併症は心室中隔穿孔である。乳頭筋断裂は選択肢に含まれていない。ほかの選択肢は、雑音を生じない合併症、心筋梗塞とは直接関係の薄い疾患、あるいは拡張期雑音を生じる弁膜症であり、「雑音の時相」と「梗塞との関連」の両面から除外できる。
鑑別の手がかり
心室中隔穿孔と乳頭筋断裂はどちらも全収縮期雑音をきたすため、聴診だけでは区別が難しいことがある。心エコーで中隔の欠損孔と短絡血流、あるいは僧帽弁の逸脱と逆流を確認する。右心カテーテル(Swan-Ganzカテーテル)で右房から右室・肺動脈にかけて血液の酸素飽和度が急に上がる(酸素飽和度のステップアップ)所見があれば、左右短絡すなわち心室中隔穿孔を示す。
選択肢考察
- ×a. 心室瘤
梗塞部の心筋が線維性瘢痕に置き換わって薄くなり、収縮期に外側へ膨らむ(奇異性運動)状態である。前壁から心尖部にかけての広範な梗塞で、主に慢性期に形成される。心電図で梗塞後もST上昇が持続すること、瘤内の壁在血栓による塞栓症、心室性不整脈、心不全が問題となる。心不全を伴えばIII音・IV音を聴取することはあるが、新たな全収縮期雑音をきたす典型的な合併症ではない。
- ×b. 心内膜炎
心内膜炎の大部分は感染性心内膜炎であり、弁膜症や先天性心疾患などの基礎疾患に菌血症が加わって生じる。弁破壊による逆流性雑音が出ることはあるが、急性心筋梗塞の合併症としてはまれである。心筋梗塞に合併するのは心膜炎(心外膜炎)であり、発症数日以内の梗塞後心膜炎や、数週後に起こる自己免疫機序のDressler症候群がある。心膜炎で聴取されるのは心膜摩擦音(こすれるような音)であり、弁や短絡による収縮期雑音とは異なる。
- ○c. 心室中隔穿孔
壊死した心室中隔が断裂して穴が開き、収縮期に左室から右室へ血液が流れ込むため、胸骨左縁下部を中心に粗い全収縮期雑音が新たに出現し、振戦(スリル)を触れることも多い。前壁梗塞では心尖部寄りの中隔に、下壁梗塞では心基部寄りの中隔に生じやすい。発症後数日(おおむね3〜5日)に起こることが多く、肺血流の急増による肺うっ血・肺水腫と、体循環への拍出低下による心原性ショックをきたす。心エコーのカラードプラで短絡血流を確認し、右心カテーテルでは右室レベルでの酸素飽和度のステップアップがみられる。治療は大動脈内バルーンパンピング(IABP)などで循環を支えつつ、外科的修復を行う。再灌流療法の普及により頻度は減ったが、発症すれば死亡率の高い合併症である。
- ×d. 左室自由壁破裂
左室の外側の壁(自由壁)が破れて心膜腔内に出血し、心タンポナーデを起こす合併症である。発症後1週間以内、特に数日以内に多く、高齢者、女性、初回梗塞、高血圧の持続などが危険因子とされる。急激な血圧低下とショックに陥り、心電図波形はあるのに脈が触れない無脈性電気活動(PEA)となることが多い。血液は心膜腔にたまるだけで心腔間の短絡や弁逆流は生じないため、収縮期雑音は出現しない。緩やかに出血する亜急性型では心膜穿刺と緊急手術で救命できることがある。
- ×e. 大動脈弁閉鎖不全症
拡張期に大動脈から左室へ血液が逆流する弁膜症であり、特徴的な雑音は胸骨左縁(第3肋間付近、Erb領域)で聴取される拡張期灌水様雑音である。逆流により一回拍出量が増えるため、付随して機能的な駆出性収縮期雑音を伴うことはあるが、主病変の雑音は拡張期である。また大動脈弁は心筋梗塞によって壊死する構造ではないため、急性心筋梗塞の合併症として起こることはまれである。心筋梗塞後に新たに生じる弁膜症は、乳頭筋の断裂・機能不全による僧帽弁閉鎖不全症であり、こちらは全収縮期雑音を呈する。
急性心筋梗塞の主な合併症と時期
・不整脈:発症直後〜24時間以内に多い。心室細動は発症早期の死因として最も重要。下壁梗塞では房室ブロックや洞徐脈が起こりやすい。 ・ポンプ失調(心不全・心原性ショック):広範な梗塞で起こる。重症度はKillip分類(身体所見)やForrester分類(肺動脈楔入圧と心係数)で評価する。 ・機械的合併症:多くは発症後数日〜1週間以内。 - 左室自由壁破裂:心タンポナーデ、PEA。雑音なし。 - 心室中隔穿孔:新たな全収縮期雑音(胸骨左縁下部)、スリル、右室での酸素飽和度ステップアップ。 - 乳頭筋断裂:急性僧帽弁閉鎖不全による全収縮期雑音(心尖部)と急激な肺水腫。後内側乳頭筋は血流を1本の冠動脈から受けることが多いため、下壁梗塞で断裂しやすい。 ・梗塞後心膜炎:数日以内。心膜摩擦音、胸痛。 ・Dressler症候群:数週後。自己免疫機序による心膜炎・胸膜炎。 ・心室瘤、壁在血栓:慢性期。持続するST上昇、塞栓症、不整脈、心不全。
心雑音の時相の整理
・全収縮期雑音:僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全、心室中隔欠損(穿孔)。 ・駆出性収縮期雑音:大動脈弁狭窄、肺動脈弁狭窄、閉塞性肥大型心筋症、血流増加による機能性雑音。 ・拡張期雑音:大動脈弁閉鎖不全、肺動脈弁閉鎖不全(拡張早期)、僧帽弁狭窄(拡張中期ランブル)。
POINT
・急性心筋梗塞後に新たな収縮期雑音が出たら、心室中隔穿孔と乳頭筋断裂(急性僧帽弁閉鎖不全)を疑う。 ・いずれも発症後数日に多く、肺水腫・心原性ショックに進む。診断は心エコー、心室中隔穿孔では右心カテーテルで酸素飽和度のステップアップ。 ・左室自由壁破裂は心タンポナーデ・PEAで、雑音はない。 ・心室瘤は慢性期の合併症で、ST上昇の持続・血栓塞栓が特徴。 ・心筋梗塞に合併するのは心膜炎(心膜摩擦音)であり、心内膜炎ではない。 ・大動脈弁閉鎖不全症の主な雑音は拡張期雑音である。
