腹水の「色」は病態の履歴書―乳び性腹水と肝硬変の落とし穴
第101回医師国家試験 B問題 第95問
国試問題にチャレンジ
腹水の性状と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.血性 ―― 癌性腹膜炎
- b.乳び性 ―― 肝硬変
- c.膿性 ―― 細菌性腹膜炎
- d.粘液性 ―― 腹膜中皮腫
- e.胆汁性 ―― 急性胆囊炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹水はまず漏出性と滲出性に分け、さらに外観から血性・膿性・乳び性・胆汁性・粘液性などに分類すると、原因疾患をかなり絞り込めます。肝硬変の腹水は門脈圧亢進と低アルブミン血症による漏出性で淡黄色透明が典型であり、乳び性腹水はリンパ管の閉塞や損傷(悪性リンパ腫、手術、外傷、結核など)で生じトリグリセリドが高値となるため、両者の組合せは特徴的とはいえません。血性は癌性腹膜炎、膿性は細菌性腹膜炎、粘液性は腹膜中皮腫(ヒアルロン酸産生)や腹膜偽粘液腫、胆汁性は胆囊穿孔などと対応づけ、「何が腹腔に漏れたか」という機序から理解すると覚えやすくなります。臨床ではSAAGや細胞数、細胞診、培養を組み合わせて評価することで、診断と治療方針の決定に直結させることができます。
解答・解説
正解はbです
腹水の見方
腹水が貯留した患者では、腹腔穿刺で得た腹水の外観(肉眼的性状)と検査所見から原因を推定する。まず大きく漏出性と滲出性に分ける。 ・漏出性腹水:血管内外の圧や浸透圧のバランスが崩れて水分が漏れ出したもの。淡黄色透明(漿液性)で、蛋白濃度・比重が低い。門脈圧亢進と低アルブミン血症をきたす肝硬変、うっ血性心不全、ネフローゼ症候群などが原因となる。 ・滲出性腹水:腹膜の炎症や腫瘍により血管透過性が亢進して生じる。蛋白濃度・比重が高く、細胞成分に富む。癌性腹膜炎、細菌性腹膜炎、結核性腹膜炎、膵炎などが原因となる。 さらに外観から、血性(腫瘍、外傷、出血性膵炎など)、膿性(細菌感染)、乳び性(リンパ流の障害)、胆汁性(胆道系の破綻)、粘液性(粘液を産生する腫瘍)などに分類でき、それぞれ背景疾患がほぼ決まっている。
設問へのアプローチ
本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。各性状が生じる機序を考え、疾患との対応がその機序に合致するかを確認する。肝硬変の腹水は門脈圧亢進と低アルブミン血症による漏出性腹水であり、典型的な外観は淡黄色透明の漿液性である。乳び性腹水はリンパ管の損傷や閉塞によって生じるものであり、肝硬変の代表的な腹水性状とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 血性 ―― 癌性腹膜炎
組合せは正しい。癌性腹膜炎では腹膜に播種した腫瘍からの出血や血管透過性の亢進によって、滲出性で血性の腹水がしばしばみられる。胃癌・膵癌・卵巣癌・大腸癌などが原因として多い。腹水細胞診で悪性細胞を証明すれば診断が確定する。血性腹水はこのほか外傷、出血性膵炎、肝細胞癌の破裂、子宮外妊娠破裂などでも認める。
- ○b. 乳び性 ―― 肝硬変
誤った組合せであり、これが正解である。肝硬変の腹水は、門脈圧亢進と低アルブミン血症(膠質浸透圧の低下)、腎でのナトリウム貯留などによって生じる漏出性腹水であり、典型的には淡黄色透明の漿液性である。一方、乳び性腹水は、脂肪を含むリンパ液(乳び)が腹腔内に漏れ出したもので、乳白色に濁り、トリグリセリド濃度が高い(一般に200mg/dL以上)。原因は悪性リンパ腫などの腫瘍によるリンパ管の閉塞、腹部手術や外傷によるリンパ管損傷、結核、フィラリア症などである。肝硬変でもまれに乳び性腹水を伴うことはあるが、肝硬変に特徴的な腹水性状ではない。
- ×c. 膿性 ―― 細菌性腹膜炎
組合せは正しい。細菌性腹膜炎では、腹腔内に侵入した細菌に対して多数の好中球が集まるため、腹水は混濁し、膿性となる。消化管穿孔による二次性腹膜炎では悪臭を伴うことが多い。なお肝硬変に合併する特発性細菌性腹膜炎(SBP)は、腹水中の好中球数250/μL以上で診断される。
- ×d. 粘液性 ―― 腹膜中皮腫
組合せは正しい。腹膜中皮腫はアスベスト(石綿)曝露と関連する腹膜の悪性腫瘍である。中皮腫細胞は粘液多糖類であるヒアルロン酸を産生するため、腹水は粘稠な粘液性となり、腹水中のヒアルロン酸濃度が上昇する。なお、粘液性腹水は虫垂や卵巣の粘液性腫瘍に由来する腹膜偽粘液腫でもみられる。
- ×e. 胆汁性 ―― 急性胆囊炎
組合せは正しい。急性胆囊炎が進行して胆囊壁が壊死し穿孔すると、胆汁が腹腔内に漏れ出して胆汁性腹膜炎を起こし、黄褐色〜緑色の胆汁性腹水がみられる。腹水中のビリルビン濃度は血清より高くなる。胆汁性腹水はこのほか、胆道手術後の胆汁漏や外傷による胆道損傷でも生じる。
漏出性腹水と滲出性腹水の比較
・外観:漏出性は淡黄色透明、滲出性は混濁・血性・膿性など ・比重:漏出性は1.015未満、滲出性は1.018以上が目安 ・蛋白濃度:漏出性は2.5g/dL未満、滲出性は4g/dL以上が目安 ・細胞数:漏出性は少なく、滲出性は多い ・近年は血清−腹水アルブミン濃度差(SAAG)も用いられ、1.1g/dL以上なら門脈圧亢進に伴う腹水(肝硬変、心不全など)、1.1g/dL未満なら門脈圧亢進によらない腹水(癌性腹膜炎、結核性腹膜炎、ネフローゼ症候群など)と考える。
腹水の外観と代表的な原因
・漿液性(淡黄色透明):肝硬変、心不全、ネフローゼ症候群 ・血性:癌性腹膜炎、外傷、出血性膵炎、肝細胞癌破裂、子宮外妊娠破裂 ・膿性:細菌性腹膜炎(消化管穿孔など) ・乳び性:悪性リンパ腫などによるリンパ管閉塞、リンパ管損傷(手術・外傷)、結核、フィラリア症 ・胆汁性:胆囊穿孔、胆道損傷、術後胆汁漏 ・粘液性:腹膜中皮腫、腹膜偽粘液腫
POINT
・肝硬変の腹水は門脈圧亢進と低アルブミン血症による漏出性で、淡黄色透明(漿液性)が典型である。 ・乳び性腹水はリンパ管の閉塞・損傷(悪性リンパ腫、手術、外傷など)で生じ、トリグリセリドが高値となる。 ・血性は癌性腹膜炎、膿性は細菌性腹膜炎、粘液性は腹膜中皮腫(ヒアルロン酸)、胆汁性は胆囊穿孔と対応づけて覚える。
