StudyMed医師国家試験

手の痛みはどこで反対側へ?―外側脊髄視床路の交叉を臨床症候から読み解く

第101回医師国家試験 B問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第41問

手の痛覚・温度覚線維が交叉するのはどのレベルか。

  1. a.中脳
  2. b.橋上部
  3. c.橋下部
  4. d.延髄
  5. e.脊髄

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は感覚の伝導路、とくに痛覚・温度覚を伝える外側脊髄視床路が「どこで正中を越えるか」を問う問題だ。似た質問をされやすい後索路や錐体路と混同しないことが着眼点になるよ。
医学生医学生
延髄で交叉する経路が多かった気がするので、延髄と答えたくなります。
ドクタードクター
そこがまさに典型的なひっかけだね。延髄で交叉するのは、運動の皮質脊髄路の錐体交叉と、触覚・振動覚・位置覚を伝える後索-内側毛帯系の毛帯交叉なんだ。温痛覚は違う。順にニューロンを追ってみよう。手の皮膚からの温痛覚はどんな線維で伝わるかな。
医学生医学生
細い有髄のAδ線維と無髄のC線維です。生理学の講義で、速い痛みと遅い痛みに対応すると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。その一次ニューロンの細胞体は後根神経節にあって、中枢側の突起は後根から脊髄に入る。入ってすぐLissauer路で1〜2髄節ほど上下したあと、後角で二次ニューロンにシナプスする。
医学生医学生
そして二次ニューロンがすぐに反対側へ渡るんですね。
ドクタードクター
その通り。二次ニューロンの軸索は中心管の前方にある白交連を通って反対側へ交叉し、反対側の側索を外側脊髄視床路として上行する。手を支配するのはおおむねC6〜T1の髄節だから、手の温痛覚線維は頸髄下部から上位胸髄で交叉する。つまり答えは脊髄だ。
医学生医学生
ということは、脳幹に入った時点ではもう反対側にいるわけですね。
ドクタードクター
そう。延髄・橋・中脳では脳幹の外側部をすでに反対側にいる状態で上行しているだけで、どの高さでも交叉はしない。そのあと視床の後外側腹側核、VPL核で三次ニューロンに乗り換え、内包後脚を通って中心後回の一次体性感覚野へ届く。
医学生医学生
中脳でも交叉する線維があったと思うんですが、何でしたっけ。
ドクタードクター
上小脳脚の交叉や、滑車神経の交叉が有名だね。どちらも温痛覚とは関係ない。それと、橋の高さで気をつけたいのは顔の温痛覚だ。三叉神経系の線維は三叉神経脊髄路を下行して脊髄路核で中継され、そこから反対側へ交叉して上行するから、顔の温痛覚は脳幹で交叉する。手とは交叉部位が違うんだ。
医学生医学生
その違いがWallenberg症候群の交代性感覚障害につながるんですね。CBTの勉強で、顔は同側、体は反対側と丸暗記していました。
ドクタードクター
丸暗記を理屈で裏づけられたね。延髄外側が障害されると、交叉前の三叉神経脊髄路・核が障害されて同側の顔面、すでに交叉を終えた外側脊髄視床路が障害されて反対側の頸部以下の温痛覚が落ちる。
医学生医学生
Brown-Séquard症候群も同じ考え方で説明できますか。
ドクタードクター
できるよ。脊髄の片側が障害されると、まだ交叉していない後索と、延髄で交叉を終えて下りてくる錐体路が障害されるから、障害側に運動麻痺と深部感覚障害が出る。一方、温痛覚は脊髄で交叉した後の線維が障害されるから、反対側に障害が出る。
医学生医学生
脊髄空洞症の解離性感覚障害も、白交連がやられるからでしょうか。
ドクタードクター
その通り。中心管付近の空洞が白交連を障害すると、交叉中の温痛覚線維が両側性に障害される。後索は保たれるから触覚や深部感覚は残る。これが解離性感覚障害で、頸髄に好発するため上肢や肩にケープ状、宙づり型の温痛覚障害を示す。
医学生医学生
交叉の場所を1つ覚えるだけで、いくつもの症候群が説明できるんですね。
ドクタードクター
もう一つ発展知識を。外側脊髄視床路の中では、下位の髄節から入った線維ほど外側、上位ほど内側に並ぶ。だから髄外からの圧迫では下肢から、髄内病変では上位から障害が始まりやすく、髄内病変で仙髄領域の感覚が保たれる仙髄回避の理由にもなる。神経診察で感覚障害の分布を丁寧にとることが、病変部位の推定に直結するんだ。

まとめ

手の痛覚・温度覚は、後根から脊髄に入った一次ニューロンがLissauer路を経て後角でシナプスし、二次ニューロンが中心管前方の白交連で反対側へ交叉して外側脊髄視床路を上行するため、交叉部位は脊髄(手ではC6〜T1付近)です。延髄で交叉するのは錐体路(錐体交叉)と後索-内側毛帯系(毛帯交叉)であり、顔面の温痛覚は三叉神経脊髄路核で中継後に脳幹で交叉する点も区別が必要です。この交叉部位の違いによって、脊髄空洞症の宙づり型解離性感覚障害、Brown-Séquard症候群の障害側運動・深部感覚障害と反対側温痛覚障害、Wallenberg症候群の交代性感覚障害が説明できます。伝導路の走行を理解しておくことは、感覚障害の分布から病変部位を推定する神経診察の基盤となります。

解答・解説

正解はeです

体性感覚の上行路のうち、痛覚・温度覚を伝える外側脊髄視床路の走行、特に「どこで正中を越えるか」を問う問題である。

温痛覚の伝導路

1. 一次ニューロン:手の皮膚からの温痛覚は、主に細い有髄のAδ線維と無髄のC線維によって伝えられる。細胞体は後根神経節にあり、中枢側の突起は後根から脊髄に入る。入ってすぐにLissauer路(背外側束)で1〜2髄節ほど上下したのち、後角でシナプスを形成する。 2. 二次ニューロン:細胞体は後角にある。その軸索は脊髄中心管の前方にある白交連(前交連)を通って反対側へ交叉し、反対側の側索(前側索)を外側脊髄視床路として上行する。延髄・橋・中脳では脳幹の外側部を通る。 3. 三次ニューロン:視床の後外側腹側核(VPL核)から内包後脚を経て、大脳皮質の一次体性感覚野(中心後回)へ投射する。 手は第6頸髄〜第1胸髄あたりの髄節に支配されるため、手の温痛覚線維は頸髄下部〜上位胸髄のレベルで交叉することになる。すなわち交叉部位は脊髄であり、脳幹ではない。 脳幹で交叉するのは、触覚・深部感覚(後索-内側毛帯系)の二次ニューロンや、運動を担う皮質脊髄路(錐体路)であり、これらと混同しないことが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  中脳

    手の温痛覚線維は脊髄ですでに交叉を終えているため、中脳に達した時点では反対側の外側部(被蓋の外側)を外側脊髄視床路として上行しているだけで、ここで交叉するわけではない。中脳の交叉として知られるのは、上小脳脚の交叉(小脳から反対側の赤核・視床へ向かう線維)や滑車神経の交叉などである。誤りである。

  2. ×b.  橋上部

    橋上部においても、手の温痛覚線維はすでに反対側にあり、被蓋の外側部を上行している。この高さで交叉する線維ではない。したがって橋上部の片側病変では、反対側の上下肢・体幹の温痛覚が障害される。誤りである。

  3. ×c.  橋下部

    橋下部でも手の温痛覚線維は交叉後の状態で反対側の被蓋外側部を上行している。なお、顔面の温痛覚を伝える三叉神経系の線維は、三叉神経脊髄路核(橋から上位頸髄に及ぶ)で中継されたのち反対側へ交叉して上行するため、脳幹で交叉する。手の温痛覚とは交叉部位が異なる。誤りである。

  4. ×d.  延髄

    延髄で交叉するのは、下行性の運動線維である皮質脊髄路(錐体交叉、延髄下端)と、触覚・振動覚・位置覚を伝える後索-内側毛帯系の二次ニューロン(薄束核・楔状束核から出る内弓状線維が交叉して内側毛帯となる:毛帯交叉)である。手の温痛覚線維は延髄に至る前に脊髄で交叉を済ませており、延髄では外側部を上行している。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)で反対側の頸部以下の温痛覚障害が生じるのはこのためである。誤りである。

  5. ○e.  脊髄

    温痛覚の一次ニューロンは後根から脊髄に入り、Lissauer路を1〜2髄節上下したのち後角で二次ニューロンに接続する。二次ニューロンの軸索は中心管の前方の白交連を通って反対側へ交叉し、反対側の側索を外側脊髄視床路として上行する。手を支配する髄節(C6〜T1程度)に相当する頸髄下部〜上位胸髄で交叉するため、交叉部位は脊髄である。正しい。

主な伝導路と交叉部位の整理

・外側脊髄視床路(温痛覚):脊髄(入力した髄節付近の白交連)で交叉 ・前脊髄視床路(粗大な触圧覚):脊髄で交叉 ・後索-内側毛帯系(精細な触覚、振動覚、位置覚):同側の後索を上行し、延髄の薄束核・楔状束核で中継後、延髄で交叉(毛帯交叉) ・外側皮質脊髄路(随意運動):延髄下端で交叉(錐体交叉) ・三叉神経の温痛覚:同側の三叉神経脊髄路を下行し、脊髄路核で中継後、反対側へ交叉して上行

臨床との関連

・脊髄空洞症:中心管付近の空洞が白交連を障害するため、交叉中の温痛覚線維が両側性に障害され、触覚・深部感覚は保たれる(解離性感覚障害)。頸髄に好発し、手や上肢に宙づり型(ケープ状)の温痛覚障害をきたす。 ・Brown-Séquard症候群(脊髄半側障害):障害側の運動麻痺と深部感覚障害(交叉前の後索・交叉後の錐体路が障害)、反対側の温痛覚障害(交叉後の外側脊髄視床路が障害)をきたす。 ・Wallenberg症候群(延髄外側症候群):障害側の顔面の温痛覚障害(三叉神経脊髄路・核)と、反対側の頸部以下の温痛覚障害(外側脊髄視床路)という交代性の感覚障害を示す。

外側脊髄視床路の層構造

脊髄の外側脊髄視床路では、下位の髄節から入った線維ほど外側に、上位の髄節から入った線維ほど内側に配列する(仙髄が最外側)。このため髄外からの圧迫では下肢から、髄内病変では上位から障害が始まりやすく、髄内病変で仙髄領域の感覚が保たれる所見(仙髄回避)の理由となる。

POINT

・温痛覚(外側脊髄視床路)は脊髄に入った髄節付近の白交連で交叉し、反対側の側索を上行する ・延髄で交叉するのは錐体路(錐体交叉)と後索-内側毛帯系(毛帯交叉) ・交叉部位の違いが、脊髄空洞症の解離性感覚障害、Brown-Séquard症候群、Wallenberg症候群の症状を説明する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。