手の痛みはどこで反対側へ?―外側脊髄視床路の交叉を臨床症候から読み解く
第101回医師国家試験 B問題 第41問
国試問題にチャレンジ
手の痛覚・温度覚線維が交叉するのはどのレベルか。
- a.中脳
- b.橋上部
- c.橋下部
- d.延髄
- e.脊髄
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
手の痛覚・温度覚は、後根から脊髄に入った一次ニューロンがLissauer路を経て後角でシナプスし、二次ニューロンが中心管前方の白交連で反対側へ交叉して外側脊髄視床路を上行するため、交叉部位は脊髄(手ではC6〜T1付近)です。延髄で交叉するのは錐体路(錐体交叉)と後索-内側毛帯系(毛帯交叉)であり、顔面の温痛覚は三叉神経脊髄路核で中継後に脳幹で交叉する点も区別が必要です。この交叉部位の違いによって、脊髄空洞症の宙づり型解離性感覚障害、Brown-Séquard症候群の障害側運動・深部感覚障害と反対側温痛覚障害、Wallenberg症候群の交代性感覚障害が説明できます。伝導路の走行を理解しておくことは、感覚障害の分布から病変部位を推定する神経診察の基盤となります。
解答・解説
正解はeです
体性感覚の上行路のうち、痛覚・温度覚を伝える外側脊髄視床路の走行、特に「どこで正中を越えるか」を問う問題である。
温痛覚の伝導路
1. 一次ニューロン:手の皮膚からの温痛覚は、主に細い有髄のAδ線維と無髄のC線維によって伝えられる。細胞体は後根神経節にあり、中枢側の突起は後根から脊髄に入る。入ってすぐにLissauer路(背外側束)で1〜2髄節ほど上下したのち、後角でシナプスを形成する。 2. 二次ニューロン:細胞体は後角にある。その軸索は脊髄中心管の前方にある白交連(前交連)を通って反対側へ交叉し、反対側の側索(前側索)を外側脊髄視床路として上行する。延髄・橋・中脳では脳幹の外側部を通る。 3. 三次ニューロン:視床の後外側腹側核(VPL核)から内包後脚を経て、大脳皮質の一次体性感覚野(中心後回)へ投射する。 手は第6頸髄〜第1胸髄あたりの髄節に支配されるため、手の温痛覚線維は頸髄下部〜上位胸髄のレベルで交叉することになる。すなわち交叉部位は脊髄であり、脳幹ではない。 脳幹で交叉するのは、触覚・深部感覚(後索-内側毛帯系)の二次ニューロンや、運動を担う皮質脊髄路(錐体路)であり、これらと混同しないことが重要である。
選択肢考察
- ×a. 中脳
手の温痛覚線維は脊髄ですでに交叉を終えているため、中脳に達した時点では反対側の外側部(被蓋の外側)を外側脊髄視床路として上行しているだけで、ここで交叉するわけではない。中脳の交叉として知られるのは、上小脳脚の交叉(小脳から反対側の赤核・視床へ向かう線維)や滑車神経の交叉などである。誤りである。
- ×b. 橋上部
橋上部においても、手の温痛覚線維はすでに反対側にあり、被蓋の外側部を上行している。この高さで交叉する線維ではない。したがって橋上部の片側病変では、反対側の上下肢・体幹の温痛覚が障害される。誤りである。
- ×c. 橋下部
橋下部でも手の温痛覚線維は交叉後の状態で反対側の被蓋外側部を上行している。なお、顔面の温痛覚を伝える三叉神経系の線維は、三叉神経脊髄路核(橋から上位頸髄に及ぶ)で中継されたのち反対側へ交叉して上行するため、脳幹で交叉する。手の温痛覚とは交叉部位が異なる。誤りである。
- ×d. 延髄
延髄で交叉するのは、下行性の運動線維である皮質脊髄路(錐体交叉、延髄下端)と、触覚・振動覚・位置覚を伝える後索-内側毛帯系の二次ニューロン(薄束核・楔状束核から出る内弓状線維が交叉して内側毛帯となる:毛帯交叉)である。手の温痛覚線維は延髄に至る前に脊髄で交叉を済ませており、延髄では外側部を上行している。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)で反対側の頸部以下の温痛覚障害が生じるのはこのためである。誤りである。
- ○e. 脊髄
温痛覚の一次ニューロンは後根から脊髄に入り、Lissauer路を1〜2髄節上下したのち後角で二次ニューロンに接続する。二次ニューロンの軸索は中心管の前方の白交連を通って反対側へ交叉し、反対側の側索を外側脊髄視床路として上行する。手を支配する髄節(C6〜T1程度)に相当する頸髄下部〜上位胸髄で交叉するため、交叉部位は脊髄である。正しい。
主な伝導路と交叉部位の整理
・外側脊髄視床路(温痛覚):脊髄(入力した髄節付近の白交連)で交叉 ・前脊髄視床路(粗大な触圧覚):脊髄で交叉 ・後索-内側毛帯系(精細な触覚、振動覚、位置覚):同側の後索を上行し、延髄の薄束核・楔状束核で中継後、延髄で交叉(毛帯交叉) ・外側皮質脊髄路(随意運動):延髄下端で交叉(錐体交叉) ・三叉神経の温痛覚:同側の三叉神経脊髄路を下行し、脊髄路核で中継後、反対側へ交叉して上行
臨床との関連
・脊髄空洞症:中心管付近の空洞が白交連を障害するため、交叉中の温痛覚線維が両側性に障害され、触覚・深部感覚は保たれる(解離性感覚障害)。頸髄に好発し、手や上肢に宙づり型(ケープ状)の温痛覚障害をきたす。 ・Brown-Séquard症候群(脊髄半側障害):障害側の運動麻痺と深部感覚障害(交叉前の後索・交叉後の錐体路が障害)、反対側の温痛覚障害(交叉後の外側脊髄視床路が障害)をきたす。 ・Wallenberg症候群(延髄外側症候群):障害側の顔面の温痛覚障害(三叉神経脊髄路・核)と、反対側の頸部以下の温痛覚障害(外側脊髄視床路)という交代性の感覚障害を示す。
外側脊髄視床路の層構造
脊髄の外側脊髄視床路では、下位の髄節から入った線維ほど外側に、上位の髄節から入った線維ほど内側に配列する(仙髄が最外側)。このため髄外からの圧迫では下肢から、髄内病変では上位から障害が始まりやすく、髄内病変で仙髄領域の感覚が保たれる所見(仙髄回避)の理由となる。
POINT
・温痛覚(外側脊髄視床路)は脊髄に入った髄節付近の白交連で交叉し、反対側の側索を上行する ・延髄で交叉するのは錐体路(錐体交叉)と後索-内側毛帯系(毛帯交叉) ・交叉部位の違いが、脊髄空洞症の解離性感覚障害、Brown-Séquard症候群、Wallenberg症候群の症状を説明する
