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「待てる病気」と「待てない病気」―卵管妊娠破裂が緊急手術になる理由

第101回医師国家試験 B問題 第103問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第103問

緊急手術を要する疾患はどれか。

  1. a.付属器炎
  2. b.卵胞囊胞
  3. c.子宮内膜症
  4. d.子宮腺筋症
  5. e.卵管妊娠破裂

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、婦人科疾患のなかから緊急手術が必要なものを選ぶ問題だ。婦人科の病気は手術が必要でも日程を決めて行う待機手術が多い。だから着眼点は「放っておくと時間単位で何が失われるか」。血液なのか、臓器の血流なのか、感染のコントロールなのか、という視点で選択肢を眺めてみよう。
医学生医学生
正直、子宮内膜症も手術することがあるので迷いました。でも「緊急」となると、命に関わるものですよね。
ドクタードクター
そう、手術をするかどうかと、今すぐ手術が必要かどうかは別の話なんだ。結論から言うと、正解は卵管妊娠破裂。卵管に着床した受精卵の絨毛が卵管壁に入り込み、やがて壁を破ると、腹腔内に急速かつ大量の出血が起こる。放置すれば出血性ショックで命を落としかねない。
医学生医学生
臨床実習で産婦人科を回ったとき、救急外来から「妊娠反応陽性で腹痛、血圧低下」という連絡が来て、そのまま手術室に向かった症例がありました。
ドクタードクター
まさに典型だね。急激な下腹部痛、腹膜刺激症状、頻脈や血圧低下が出てくる。輸液や輸血で循環を支えながら、腹腔鏡下または開腹で卵管切除などを行い、ただちに止血する。では、ほかの選択肢がなぜ緊急手術にならないか確認しよう。付属器炎はどうかな。
医学生医学生
卵管や卵巣の感染症なので、抗菌薬で治療するのが基本だと思います。クラミジアや淋菌が原因になると講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。腸内細菌や嫌気性菌も関わるので、それらを想定した抗菌薬の全身投与でまず保存的に治療する。ただし、卵管卵巣膿瘍をつくって抗菌薬が効かない場合や、膿瘍が破裂して汎発性腹膜炎になった場合は、ドレナージや手術が必要になる。ここは例外として押さえておこう。
医学生医学生
卵胞囊胞は、排卵されなかった卵胞に液がたまったものなので、自然に消えることが多いんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。腫瘍ではない機能性の囊胞で、多くは数か月以内に消退するから、無症状なら経過観察でいい。茎捻転や破裂を起こせば手術になることもあるけれど、囊胞そのものは緊急手術の対象ではないんだ。
医学生医学生
子宮内膜症と子宮腺筋症は、どちらも月経痛がつらい病気というイメージです。
ドクタードクター
どちらも子宮内膜に似た組織が本来の場所以外で増える病気で、内膜症は卵巣やダグラス窩、腹膜などの子宮外、腺筋症は子宮筋層内に病変ができる。治療の中心は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、ジエノゲスト、GnRHアゴニスト・アンタゴニストなどの薬物療法だ。チョコレート囊胞が大きい場合や、薬が効かず挙児希望もない腺筋症では手術をするけれど、時期を選んで行う待機手術になる。
医学生医学生
なるほど、手術の対象になりうることと緊急性は分けて考えるんですね。ほかに婦人科で緊急手術になる病気も知っておきたいです。
ドクタードクター
代表的なのは三つの系統。腹腔内出血でショックに陥りうるものとして、異所性妊娠の破裂と大量の卵巣出血。血流が途絶えて臓器が壊死しうるものとして、卵巣腫瘍茎捻転。そして保存的治療で制御できない感染として、破裂した卵管卵巣膿瘍や汎発性腹膜炎だ。
医学生医学生
異所性妊娠はどうやって早めに見つければいいんでしょうか。破裂してからでは遅い気がします。
ドクタードクター
大事な問いだね。妊娠反応が陽性なのに経腟超音波で子宮内に胎囊が見えないときは要注意。血中hCGがおおむね1,000〜2,000 IU/L程度を超えても子宮内に胎囊がなければ、異所性妊娠を強く疑う。破裂するとダグラス窩にエコーフリースペースとして血液がたまって見える。未破裂で全身状態が安定し、hCGが低い場合には、卵管を温存する手術やメトトレキサート、待機療法も選択肢になるんだ。
医学生医学生
危険因子はクラミジア感染の既往でしたよね。付属器炎ともつながってくるんですね。
ドクタードクター
その通り。骨盤内炎症性疾患で卵管が傷つくと、受精卵がうまく運ばれず卵管に着床しやすくなる。異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療も危険因子だ。そして臨床で一番大切なのは、妊娠可能年齢の女性が急な腹痛で来たら、まず妊娠反応を確認すること。虫垂炎などの消化器疾患と思い込むと見逃してしまうからね。

まとめ

婦人科疾患の多くは薬物療法や経過観察で対応でき、手術が必要でも待機的に行えますが、時間単位で生命や臓器が失われる病態は緊急手術の適応となります。卵管妊娠破裂は腹腔内の急速な大量出血から出血性ショックに至りうるため、循環を支えつつただちに卵管切除などで止血します。付属器炎は抗菌薬、卵胞囊胞は経過観察、子宮内膜症・子宮腺筋症は薬物療法が初期治療であり、手術をするとしても待機手術です。婦人科の緊急手術にはほかに卵巣腫瘍茎捻転、大量の卵巣出血、破裂した卵管卵巣膿瘍などがあり、「出血・血流障害・制御できない感染」という軸で整理すると判断しやすくなります。妊娠可能年齢の女性の急性腹症では必ず妊娠反応を確認するという原則は、救急の現場で異所性妊娠を見逃さないための基本です。

解答・解説

正解はeです

婦人科疾患の多くは、薬物療法や経過観察で対応でき、手術が必要でも時期を選んで行う(待機手術)ことができる。一方、放置すると短時間で生命にかかわる、あるいは臓器を失う病態では緊急手術が必要となる。婦人科領域で緊急手術の適応となる代表例は次のとおりである。 ・腹腔内出血によりショックに陥りうるもの:異所性妊娠(子宮外妊娠)の破裂、卵巣出血(大量の場合) ・血流障害で臓器が壊死しうるもの:卵巣腫瘍茎捻転 ・保存的治療で制御できない感染:卵管卵巣膿瘍の破裂、汎発性腹膜炎 選択肢のうち、卵管妊娠破裂は卵管壁が破れて腹腔内へ急速に大量出血をきたす病態で、出血性ショックに至る危険が高く、ただちに開腹または腹腔鏡下での止血・病巣除去が必要である。その他の選択肢は、いずれも初期治療として薬物療法または経過観察が選ばれる疾患である。 考え方としては「その病態で時間単位に何が失われるか(循環血液量・臓器の血流・感染制御)」を基準に、緊急性を判断するとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  付属器炎

    卵管・卵巣の炎症(骨盤内炎症性疾患の一部)で、クラミジア・トラコマティスや淋菌、腸内細菌、嫌気性菌などが原因となる。治療の基本は起因菌を想定した抗菌薬の全身投与であり、まずは保存的に治療する。ただし、卵管卵巣膿瘍を形成して抗菌薬に反応しない場合や、膿瘍が破裂して汎発性腹膜炎となった場合には、ドレナージや手術が必要となる。

  2. ×b.  卵胞囊胞

    排卵されなかった卵胞に液体が貯留した機能性(非腫瘍性)の囊胞である。多くは数か月以内に自然に消退するため、無症状であれば経過観察とする。茎捻転や囊胞破裂を起こせば手術が必要になることもあるが、疾患そのものは緊急手術の対象ではない。

  3. ×c.  子宮内膜症

    子宮内膜に似た組織が子宮外(卵巣、ダグラス窩、腹膜など)で増殖する疾患で、月経痛や不妊の原因となる。治療は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)、GnRHアゴニスト・アンタゴニストなどの薬物療法が中心である。卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)が大きい場合などは手術を行うが、時期を選んで行う待機手術である。

  4. ×d.  子宮腺筋症

    子宮内膜様組織が子宮筋層内に入り込んで増殖し、子宮がびまん性に腫大する疾患である。強い月経痛や過多月経を呈するが、治療はまず子宮内膜症と同様の薬物療法で行う。薬物療法で効果が不十分な場合や挙児希望がない場合には子宮全摘などの手術を行うが、これも待機的に行うものであり緊急手術の対象ではない。

  5. ○e.  卵管妊娠破裂

    異所性妊娠の大部分は卵管に着床し、特に膨大部に多い。絨毛が卵管壁に侵入して卵管が破裂すると、腹腔内に急速かつ大量の出血が起こる。急激な下腹部痛、腹膜刺激症状、ダグラス窩への血液貯留、頻脈・血圧低下などのショック症状を呈し、放置すれば致死的となる。輸液・輸血で循環を支えつつ、ただちに卵管切除などの手術で止血する必要があり、緊急手術の代表的な適応である。

異所性妊娠の概要

・受精卵が子宮体部内腔以外に着床した状態で、全妊娠の約1〜2%にみられる。着床部位は卵管が大部分を占め、卵管内では膨大部が最も多い。 ・危険因子:骨盤内炎症性疾患(特にクラミジア感染)の既往、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療、子宮内避妊具使用中の妊娠など。 ・診断:妊娠反応陽性にもかかわらず、経腟超音波で子宮内に胎囊を認めない。血中hCGが一定値(おおむね1,000〜2,000 IU/L程度)を超えても子宮内に胎囊がなければ異所性妊娠を強く疑う。破裂例ではダグラス窩のエコーフリースペース(血液貯留)を認め、ダグラス窩穿刺で非凝固性の血液が吸引される。

治療の選択

・破裂例・循環動態不安定例:緊急手術(卵管切除術が基本。腹腔鏡下または開腹)。 ・未破裂で全身状態が安定し、hCGが低値の場合:卵管線状切開による温存手術、メトトレキサート投与、あるいは待機療法が選択肢となる。

婦人科の急性腹症で鑑別すべき疾患

異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転、卵巣出血(黄体出血)、骨盤内炎症性疾患、卵巣腫瘍破裂、さらに虫垂炎などの消化器疾患。妊娠可能年齢の女性の急性腹症では、まず妊娠反応を確認することが原則である。

POINT

・卵管妊娠破裂は腹腔内大量出血から出血性ショックに至るため、緊急手術の適応である。 ・婦人科の緊急手術:異所性妊娠破裂、卵巣腫瘍茎捻転、大量の卵巣出血、破裂した卵管卵巣膿瘍など。 ・付属器炎は抗菌薬、卵胞囊胞は経過観察、子宮内膜症・子宮腺筋症は薬物療法がまず行われる。 ・妊娠可能年齢女性の急性腹症では、必ず妊娠反応を確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。