StudyMed医師国家試験

15年続く咳と痰の行き着く先―気管支拡張症の「感染」と「呼吸不全」に挑む

第100回医師国家試験 H問題 第39問

国試問題にチャレンジ

第100回 H問題 第39問

48歳の男性。労作時の息切れを主訴に来院した。15年前から咳と痰とが持続している。数か月前から黄色痰を伴う咳が増悪し,1週前から血痰が出現した。両肺野にcoarse cracklesを聴取する。ばち指を認める。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.34,PaO2 53Torr,PaCO2 50Torr。胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを示す。 治療法として適切なのはどれか。2つ選べ。

第100回 H問題 第39問の問題画像
  1. a.抗菌薬投与
  2. b.抗血栓薬投与
  3. c.在宅酸素療法
  4. d.胸腔穿刺
  5. e.両側肺下葉切除

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長年の慢性気道症状を背景に増悪した患者で、診断をつけたうえで「いま何を治療すべきか」を考える問題だ。ポイントは、病歴・身体所見・画像から疾患を決めることと、血液ガスから呼吸不全の型を読むこと。まず、ばち指とcoarse cracklesの組み合わせから何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
ばち指は肺癌や間質性肺炎で習いましたが、coarse cracklesならfineではないので、間質性肺炎とは違いそうです。
ドクタードクター
いい切り分けだね。coarse crackles、つまり水泡音は気道内の分泌物を空気が通過するときの音だ。ばち指は長く続く低酸素や慢性化膿性肺疾患でもみられる。そこに15年来の咳と痰、膿性痰の増加、血痰が加わり、CTでは両側下葉、特に右下葉で気管支が袋状に拡張して壁の厚い嚢胞が集まっている。これは嚢胞状の気管支拡張症だ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、CTで伴走する肺動脈より気管支が太いsignet ring signを教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。気管支拡張症では、拡張した気管支に分泌物がたまって細菌が繁殖し、感染と炎症がさらに気道を壊すという悪循環が起こる。拡張部では気管支動脈が増生しているから、炎症で破綻すると血痰や喀血になるんだ。次に血液ガスはどう読む?
医学生医学生
PaO2が60Torr以下なので呼吸不全で、PaCO2が45Torrを超えているからII型呼吸不全です。pHも少し低いので呼吸性アシドーシスですね。
ドクタードクター
完璧だ。つまりこの患者さんには、膿性痰と血痰で示される「気道感染の増悪」と、低酸素血症による「慢性呼吸不全」という2つの問題がある。それぞれに対応する治療が正解になる。
医学生医学生
感染の増悪には抗菌薬投与ですね。起炎菌は何を考えればいいですか。
ドクタードクター
インフルエンザ菌、肺炎球菌、緑膿菌などが多い。喀痰培養を提出して結果を参考に抗菌薬を選ぶ。感染が落ち着けば痰も減り、血痰の改善も期待できる。安定期には抗炎症作用を狙った少量マクロライド長期療法も使われるよ。
医学生医学生
もう一つは在宅酸素療法ですね。でもII型呼吸不全に酸素を投与すると、CO2ナルコーシスが心配です。
ドクタードクター
その懸念はとても大切。在宅酸素療法は、安定期にPaO2 55Torr以下、あるいは60Torr以下で睡眠時や運動時に著しい低酸素血症をきたす場合に保険適用となり、生命予後や生活の質を改善する。CO2が貯留している人では、低流量から始めてPaCO2の上昇に注意しながら流量を調整するのが原則だ。だから酸素は「使わない」のではなく「慎重に使う」んだ。
医学生医学生
血痰があるので、もしかして肺塞栓も考えて抗血栓薬を、と一瞬迷いました。
ドクタードクター
突然の呼吸困難や胸痛、下肢の腫脹など血栓塞栓症を疑う所見はないね。むしろ血痰がある状態で抗血栓薬を使えば出血を助長し、喀血を悪化させかねない。不適切だよ。胸腔穿刺も、胸水や気胸がないので適応がない。
医学生医学生
病変が下葉に集中しているなら、両側の下葉切除で病巣を取り除くのは理にかなっているように思えますが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。気管支拡張症の手術は、病変が一側の肺葉や区域に限局していて、内科治療に抵抗して感染や喀血を繰り返す場合に検討するものだ。今回は両側に広範に及び、すでにII型呼吸不全に陥っている。両側下葉を切除すれば残る肺機能がさらに失われ、呼吸不全が致命的に悪化してしまう。
医学生医学生
限局していれば手術もあり得るけれど、両側広範で呼吸機能が落ちている人には内科的治療が中心、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、気管支拡張症の原因も押さえておこう。小児期の重症肺炎や百日咳、結核や非結核性抗酸菌症の後遺症、副鼻腔気管支症候群、Kartagener症候群などがある。治療では体位ドレナージや去痰薬で痰を出しやすくすること、インフルエンザや肺炎球菌のワクチンで増悪を予防することも重要だ。喀血がコントロールできない場合は気管支動脈塞栓術も選択肢になる。
医学生医学生
CO2貯留が強い場合には、酸素だけでなくNPPVを併用することもあると聞きました。
ドクタードクター
そうだね、高二酸化炭素血症が高度な例ではNPPVを併用することもある。目の前の増悪を抑えるだけでなく、長期的に呼吸不全と付き合っていく視点を持つことが、この病気の診療では大切なんだ。

まとめ

長年の咳・膿性痰に血痰、coarse crackles、ばち指を伴い、CTで気管支の嚢胞状拡張がみられれば気管支拡張症と診断でき、拡張気管支での感染と炎症の悪循環が病態の中心です。本例では膿性痰増加と血痰による「気道感染の増悪」に抗菌薬、PaO2 53TorrのII型呼吸不全による「慢性呼吸不全」に在宅酸素療法で対応し、CO2貯留があるため低流量から慎重に開始してCO2ナルコーシスに注意します。血痰のある患者への抗血栓薬は喀血を悪化させるおそれがあり、胸水や気胸がなければ胸腔穿刺の適応もありません。外科切除は病変が限局した例に限られ、両側広範病変で呼吸不全がある例では適応外です。病態から「何を治療すべきか」を分解して考える姿勢は、慢性呼吸器疾患の増悪を診る際の基本となります。

解答・解説

正解はa, cです

所見の整理

・48歳の男性。15年前から咳と痰が続いており、慢性の気道疾患が背景にある。 ・数か月前から黄色痰(膿性痰)を伴う咳が悪化し、1週前から血痰が出ている。慢性気道感染の増悪を示す経過である。 ・身体所見: 両肺でcoarse crackles(水泡音。気道内の分泌物を空気が通過するときの断続性ラ音)を聴取し、ばち指がある。ばち指は長期にわたる慢性の低酸素状態や慢性化膿性肺疾患を示唆する。 ・動脈血ガス(室内気): pH 7.34、PaO2 53Torr、PaCO2 50Torr。PaO2 60Torr以下の呼吸不全で、PaCO2が45Torrを超えるためII型呼吸不全(高二酸化炭素血症を伴う呼吸不全)である。pHが軽度低下しており、呼吸性アシドーシスを伴う。 ・胸部エックス線写真(A): 両側の中下肺野を中心に、網状・輪状の陰影が広がっている。 ・胸部CT(B): 両側下葉に拡張した気管支がみられ、特に右下葉では気管支が袋状(嚢胞状)に拡張し、壁の厚い大小の嚢胞が集まっている。左下葉にも壁肥厚を伴う拡張気管支がある。

診断へのプロセス

長年の慢性咳嗽・喀痰、膿性痰、血痰、coarse crackles、ばち指、そしてCTでの気管支の不可逆的な拡張から、気管支拡張症(嚢胞状気管支拡張症)と診断できる。気管支拡張症では拡張した気管支に分泌物がたまって細菌が繁殖し、感染と炎症がさらに気道を壊すという悪循環が生じる。拡張部の気管支動脈は増生・拡張しており、炎症で破綻すると血痰・喀血を起こす。病変が両肺に広がると閉塞性(あるいは混合性)換気障害が進行し、慢性呼吸不全に至る。

設問の考え方

本例で治療すべき問題は二つある。一つは膿性痰の増加と血痰で示される「気道感染の増悪」であり、もう一つはPaO2 53Torrという「慢性呼吸不全(低酸素血症)」である。前者には抗菌薬、後者には酸素療法(在宅酸素療法)で対応する。病変は両側に広範に及んでおり、外科切除の対象にはならない。

選択肢考察

  1. ○a.  抗菌薬投与

    黄色の膿性痰が増え、血痰も出現していることは、拡張した気管支での細菌感染の増悪を示している。気管支拡張症の増悪ではインフルエンザ菌、肺炎球菌、緑膿菌などが原因となることが多く、喀痰培養の結果を参考に抗菌薬を投与する。感染を抑えることで痰の量が減り、血痰の改善も期待できる。なお安定期には、抗炎症作用を期待した少量マクロライド長期療法(エリスロマイシンなど)が用いられる。

  2. ×b.  抗血栓薬投与

    抗血栓薬は肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症などの治療に用いるが、本例には突然の呼吸困難や胸痛、下肢の腫脹といった血栓塞栓症を疑う所見はない。むしろ血痰がある状態で抗血栓薬を使えば出血を助長し、喀血を悪化させるおそれがあるため不適切である。

  3. ○c.  在宅酸素療法

    室内気でPaO2 53Torrと慢性の低酸素血症があり、ばち指からも長期間続く低酸素状態がうかがえる。日本では、安定期にPaO2 55Torr以下、あるいはPaO2 60Torr以下で睡眠時や運動時に著しい低酸素血症をきたす高度慢性呼吸不全が在宅酸素療法(HOT)の保険適用となり、本例はこれを満たす。在宅酸素療法は慢性呼吸不全患者の生命予後や生活の質を改善する。ただしPaCO2 50Torrと二酸化炭素の貯留があるため、高濃度の酸素を投与すると呼吸抑制が起こりCO2ナルコーシスを招く危険がある。低流量から開始し、PaCO2の上昇に注意して流量を調整する。

  4. ×d.  胸腔穿刺

    胸腔穿刺は胸水の診断・排液や気胸の脱気に行う処置である。本例の画像には胸水の貯留や気胸はみられず、病変は気管支・肺実質にあるため適応がない。

  5. ×e.  両側肺下葉切除

    気管支拡張症の外科治療は、病変が一側の肺葉や区域に限られ、内科治療に抵抗して感染を繰り返す場合や、喀血を繰り返す場合に検討される。本例は病変が両側に広範に及び、すでにII型呼吸不全に陥っている。両側の下葉を切除すれば残る肺機能がさらに失われ、呼吸不全が致命的に悪化するため適応とならない。なお喀血のコントロールには、手術のほかに気管支動脈塞栓術も用いられる。

気管支拡張症の概要

・気管支が不可逆的に拡張した状態で、形態により円柱状、静脈瘤状、嚢状(嚢胞状)に分けられる。嚢状が最も高度な拡張である。 ・原因: 小児期の重症肺炎・百日咳・麻疹、結核や非結核性抗酸菌症の後遺症、副鼻腔気管支症候群、びまん性汎細気管支炎、原発性線毛機能不全症(Kartagener症候群: 内臓逆位+副鼻腔炎+気管支拡張症)、嚢胞性線維症(日本ではまれ)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(中枢性の気管支拡張)、免疫不全など。 ・症状: 慢性の咳と大量の膿性痰、血痰・喀血、反復する気道感染。進行すると労作時呼吸困難、ばち指、慢性呼吸不全、肺性心をきたす。 ・聴診: coarse crackles(水泡音)。 ・画像: 胸部エックス線で輪状影・線状影(tram line)、CTで伴走する肺動脈より太い気管支(signet ring sign)、末梢まで細くならない気管支、嚢胞状に拡張した気管支。CT(特に高分解能CT)が診断の中心となる。

治療

・気道のクリアランス: 体位ドレナージ、去痰薬、呼吸リハビリテーション。 ・感染対策: 増悪時の抗菌薬。安定期の少量マクロライド長期療法。インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチン。 ・呼吸不全: 在宅酸素療法。CO2貯留が高度な例では非侵襲的陽圧換気(NPPV)を併用することもある。 ・喀血: 止血薬、気管支動脈塞栓術、限局性病変なら外科的切除。 ・手術適応: 病変が限局し、内科治療抵抗性の感染反復や喀血反復がある場合。

呼吸不全の定義

・室内気でPaO2 60Torr以下を呼吸不全とし、PaCO2 45Torr以下をI型、45Torrを超えるものをII型とする。呼吸不全の状態が1か月以上続くものを慢性呼吸不全という。 ・II型呼吸不全では換気量自体が低下しているため、高濃度酸素でCO2ナルコーシスを起こしやすい。

POINT

・慢性の咳・膿性痰+血痰+coarse crackles+ばち指+CTで気管支の嚢状拡張 → 気管支拡張症 ・増悪(膿性痰の増加)には抗菌薬、安定期には少量マクロライド長期療法 ・在宅酸素療法の適応: 安定期にPaO2 55Torr以下、または60Torr以下で睡眠時・運動時に著しい低酸素血症をきたすもの ・PaCO2上昇例(II型呼吸不全)では低流量酸素から開始し、CO2ナルコーシスに注意 ・外科切除は限局性病変のみが対象。両側広範な病変・呼吸不全例では禁忌的 ・喀血には気管支動脈塞栓術も選択肢

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。