StudyMed医師国家試験

鉱山30年の肺に潜むもう一つの敵―珪肺と結核の深い関係

第100回医師国家試験 F問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第100回 F問題 第18問

73歳の男性。1か月前からの咳嗽と粘液性痰とを主訴に来院した。30年間,鉱山で働いていた。呼吸困難はHugh-Jones分類のⅢ度である。胸部エックス線写真を示す。 この疾患で頻度の高い合併症はどれか。

第100回 F問題 第18問の問題画像
  1. a.肺結核
  2. b.リポイド肺炎
  3. c.好酸球性肺炎
  4. d.びまん性汎細気管支炎
  5. e.ニューモシスチス肺炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、長年の職業歴と胸部エックス線像から背景の疾患を見抜き、さらにその疾患で起こりやすい合併症を問う問題だ。注目してほしいのは「鉱山で30年」という職業歴と、陰影が肺のどこに目立つか、という2点だよ。
医学生医学生
鉱山で長く働いていたとなると、じん肺でしょうか。公衆衛生の講義で職業性疾患として習いました。
ドクタードクター
その通り。じん肺は粉塵を長期間吸い込んで肺に線維化が起こる病気の総称で、鉱山やトンネル工事、採石、鋳物などで遊離ケイ酸、つまり結晶質シリカを吸い込んで起こるものを珪肺という。胸部エックス線では両側の上肺野を中心に小さな粒状影が多数散らばり、一部は融合して塊状影になっている。これが珪肺の典型像なんだ。
医学生医学生
上肺野優位なんですね。石綿肺は下肺野優位だった気がするので、対比して覚えるとよさそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。珪肺は上肺野・背側優位、石綿肺は下肺野優位で胸膜プラークを伴う、というのが基本の対比だ。珪肺は進行すると結節同士が融合して大陰影、いわゆる進行性塊状線維化をつくる。肺門リンパ節の卵殻状石灰化も特徴的な所見だよ。
医学生医学生
咳や痰が続いて、平地でも同年代の人と同じ速さでは歩けないというのは、肺の線維化が進んでいるからですか。
ドクタードクター
そう考えていい。珪肺の肺機能は拘束性障害に気道病変による閉塞性障害が加わった混合性障害になりやすい。では本題の合併症だ。珪肺で特に頻度が高く、重要なのは何だと思う?
医学生医学生
線維化した肺は弱っていそうなので、肺炎全般が起こりやすいのかなと思いました。でも選択肢に肺結核があるのが気になります。
ドクタードクター
鋭いね。正解は肺結核だ。シリカ粒子を肺胞マクロファージが貪食すると、マクロファージ自身が傷害されてしまう。結核菌はまさにこのマクロファージが封じ込める相手だから、その防御が崩れると結核を発症しやすくなるんだ。
医学生医学生
病理学で、シリカを食べたマクロファージからサイトカインが出て線維芽細胞が増え、同心円状の珪肺結節ができると習いました。その同じマクロファージが結核への防御役でもあるわけですね。
ドクタードクター
まさにそこがつながるポイントだ。じん肺法でも肺結核と結核性胸膜炎は合併症として定められている。しかも珪肺結節や塊状影に重なって画像で見つけにくく、治療にも抵抗しやすいから、喀痰の抗酸菌検査で積極的に探す必要がある。
医学生医学生
では、ニューモシスチス肺炎も免疫低下で起こるので、同じように増えそうに思えますが。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。ニューモシスチス肺炎はHIV感染でCD4陽性T細胞が大きく減った場合や、ステロイド・免疫抑制薬、化学療法中など、全身の細胞性免疫が高度に落ちたときの日和見感染だ。珪肺の防御能低下は主に肺局所のマクロファージ機能の問題だから、ニューモシスチス肺炎が増えるわけではないんだよ。
医学生医学生
リポイド肺炎は、名前からして吸入で起こる病気ですよね。粉塵とは関係ないんでしょうか。
ドクタードクター
吸入や誤嚥で起こる点は似ているけれど、原因は流動パラフィンなどの鉱物油や脂質で、シリカとは別物だ。好酸球性肺炎は薬剤や寄生虫、喫煙開始などを契機に好酸球が浸潤する病気で、珪肺との因果関係は知られていない。びまん性汎細気管支炎は東アジアに多くHLA-B54と関連し、慢性副鼻腔炎を高率に合併してマクロライド少量長期療法が効く疾患で、これも粉塵曝露とは関係しない。
医学生医学生
整理すると、粉塵でマクロファージがやられる、だから細胞内寄生菌の結核に弱くなる、という因果で覚えればいいですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。発展として、じん肺法が定める合併症は肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌の6つ。さらに珪肺は関節リウマチや全身性強皮症などの自己免疫疾患の合併も知られていて、関節リウマチにじん肺の多発結節が合併したものをCaplan症候群という。
医学生医学生
治療で肺を元に戻すことはできないんですか。
ドクタードクター
残念ながら確立した根治療法はない。だからこそ粉塵曝露からの離脱と、結核をはじめとする合併症の早期発見・対策が中心になる。臨床では、職業歴を聞き漏らさないこと、そして珪肺の患者で咳や痰、発熱、体重減少、陰影の変化があれば、まず結核を疑って抗酸菌検査を出すことが大切だよ。院内感染対策の観点からも重要だね。
医学生医学生
問診で職業歴を必ず聞く意味が、今回の問題でよく分かりました。

まとめ

鉱山やトンネル工事などで遊離ケイ酸を含む粉塵を長期に吸入し、胸部エックス線で上肺野優位の小粒状影や融合した塊状影を認める場合は珪肺を考えます。珪肺ではシリカを貪食した肺胞マクロファージが傷害されて局所の防御能が落ちるため、肺結核の合併が多く、じん肺法でも肺結核・結核性胸膜炎は法定合併症とされています。一方、ニューモシスチス肺炎は全身の細胞性免疫が高度に低下した状態で起こる日和見感染であり、リポイド肺炎、好酸球性肺炎、びまん性汎細気管支炎も珪肺とは因果関係がありません。珪肺には根治療法がないため、曝露からの離脱と合併症対策が中心となり、肺門リンパ節の卵殻状石灰化やCaplan症候群、石綿肺との分布の違いもあわせて押さえておくと理解が深まります。職業歴から病態を推定し、病態から合併症を予測する考え方は、職業性肺疾患の診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・73歳の男性で、1か月前から咳嗽と粘液性の痰が続いている。 ・30年間にわたる鉱山での就労歴がある。鉱山では遊離ケイ酸(結晶質シリカ)を含む粉塵を長期間吸入する機会が多い。 ・呼吸困難は Hugh-Jones 分類Ⅲ度で、平地でも健康な同年代の人と同じ速さでは歩けないが、自分のペースなら約1.6 km(1マイル)以上歩ける程度の労作時呼吸困難である。 ・胸部エックス線写真では、両側の上肺野を中心に多数の小粒状影が散布し、融合した塊状影や含気の低下を伴っている。

診断へのプロセス

長期の粉塵曝露歴があり、上肺野優位の小粒状影から塊状影へ進展する像は、じん肺、なかでも遊離ケイ酸の吸入による珪肺に典型的である。珪肺結節は上肺野・背側に多く、進行すると結節が融合して大陰影(進行性塊状線維化)を形成し、肺門リンパ節の卵殻状石灰化を伴うこともある。慢性の咳・痰と労作時呼吸困難は、じん肺に伴う気道病変や肺機能低下を反映している。

設問の考え方

珪肺では、肺胞マクロファージがシリカ粒子を貪食して障害され、細胞性免疫を中心とした局所の防御機能が低下する。このため結核菌に対する抵抗力が落ち、肺結核の合併が多い。じん肺法でも肺結核はじん肺の合併症として定められており、頻度の高い合併症として最も重要である。

選択肢考察

  1. ○a.  肺結核

    珪肺ではシリカを貪食した肺胞マクロファージが傷害され、結核菌を処理する能力が低下するため、一般人口より肺結核の発症率が明らかに高い。じん肺法でも肺結核と結核性胸膜炎は法定合併症とされている。珪肺結節や塊状影に重なるため画像で見つけにくく、治療にも抵抗性を示しやすいので、喀痰の抗酸菌検査などで積極的に検索する必要がある。

  2. ×b.  リポイド肺炎

    リポイド肺炎は、流動パラフィン(下剤)や油性の点鼻薬などの鉱物油・脂質を誤嚥・吸入して起こる外因性のものと、気道閉塞より末梢に脂質が蓄積する内因性のものがある。シリカ粉塵の吸入によって起こる病態ではなく、珪肺の合併症ではない。

  3. ×c.  好酸球性肺炎

    好酸球性肺炎は、薬剤、寄生虫、喫煙開始などを契機に肺へ好酸球が浸潤する疾患で、急性型と慢性型がある。慢性型では上肺野外側優位の浸潤影を呈することが多い。珪肺との因果関係は知られておらず、頻度の高い合併症ではない。

  4. ×d.  びまん性汎細気管支炎

    びまん性汎細気管支炎(DPB)は、呼吸細気管支を中心とした慢性炎症で、東アジアに多く、HLA-B54との関連が知られる。高率に慢性副鼻腔炎を合併し、寒冷凝集素価の上昇がみられ、マクロライド少量長期療法が有効である。粉塵曝露による疾患ではなく、珪肺の合併症ではない。

  5. ×e.  ニューモシスチス肺炎

    ニューモシスチス肺炎は Pneumocystis jirovecii による日和見感染症で、HIV感染症(CD4陽性T細胞が200/μL未満)や、ステロイド・免疫抑制薬の使用、悪性腫瘍の化学療法など、全身の細胞性免疫が高度に低下した状態で起こる。珪肺でみられる防御能低下は主に肺局所のマクロファージ機能の障害であり、ニューモシスチス肺炎が起こりやすくなるわけではない。

珪肺

・原因:遊離ケイ酸(結晶質シリカ)を含む粉塵の長期吸入。鉱山、トンネル工事、採石、窯業、鋳物、研磨作業などでみられる。多くは10年以上の曝露を経て発症する。 ・病態:肺胞マクロファージがシリカを貪食して傷害され、放出されたサイトカインにより線維芽細胞が増殖し、同心円状の膠原線維からなる珪肺結節を形成する。 ・画像:上肺野・背側優位の小粒状影。進行すると融合して大陰影(進行性塊状線維化)となる。肺門・縦隔リンパ節の卵殻状石灰化が特徴的である。 ・症状:初期は無症状のことが多く、進行すると咳・痰、労作時呼吸困難が出る。肺機能は拘束性障害に閉塞性障害が加わる混合性障害を示すことが多い。 ・治療:確立した根治療法はなく、粉塵曝露からの離脱と合併症対策が中心となる。

じん肺法で定める合併症

肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌の6つである。

その他の関連事項

・珪肺には関節リウマチ、全身性強皮症などの自己免疫疾患の合併が知られている。関節リウマチにじん肺の多発結節が合併したものを Caplan 症候群という。 ・石綿肺(アスベストーシス)は下肺野優位の線維化で、胸膜プラーク、悪性中皮腫、肺癌との関連が重要であり、珪肺(上肺野優位)と対比して覚える。 ・Hugh-Jones 分類:Ⅰ度 同年齢の健康者と同様に動ける/Ⅱ度 平地は健康者なみに歩けるが坂・階段は無理/Ⅲ度 平地も健康者なみには歩けないが自分のペースなら1マイル以上歩ける/Ⅳ度 休みながらでないと50 m以上歩けない/Ⅴ度 会話や着替えでも息切れがする。

POINT

・鉱山などでの長期粉塵曝露+上肺野優位の小粒状影・塊状影→珪肺。 ・珪肺で頻度が高く重要な合併症は肺結核である(マクロファージ機能の低下が背景)。 ・じん肺法の合併症:肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺癌。 ・肺門リンパ節の卵殻状石灰化、Caplan 症候群も珪肺の関連事項として押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。