StudyMed医師国家試験

治らない乳頭の「湿疹」に要注意―乳房Paget病と乳腺疾患の主訴の見分け方

第100回医師国家試験 B問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第100回 B問題 第24問

乳頭のびらんをきたすのはどれか。

  1. a.Paget病
  2. b.乳腺線維腺腫
  3. c.乳管内乳頭腫
  4. d.乳腺症
  5. e.女性化乳房症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳房に起こる代表的な疾患を、それぞれの典型的な症状と結びつけられるかを問う問題だ。テーマは乳頭のびらん。乳腺疾患は「どんな訴えで受診するか」で整理すると、一気に覚えやすくなるよ。
医学生医学生
乳頭のびらんというと、皮膚科的な湿疹のイメージが浮かびます。乳腺の病気でも起こるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。乳頭・乳輪がただれて赤くなり、滲出液やかさぶたを伴う状態がびらんだ。見た目はたしかに湿疹そっくり。でも、湿疹の治療をしても治らない片側の乳頭びらんを見たら、必ず疑うべき疾患がある。それが乳房Paget病なんだ。
医学生医学生
Paget病って骨の病気の名前でもありますよね。混乱しそうです。
ドクタードクター
そこは要注意だね。骨Paget病とは全く別物だ。乳房Paget病は乳癌の特殊型で、乳管内にできた癌細胞が乳管に沿って乳頭まで進み、乳頭・乳輪の表皮の中に広がったものなんだ。表皮の中に癌細胞がいるから、皮膚がただれてびらんになる。
医学生医学生
病理の講義で、表皮内に大きくて細胞質の明るい細胞が散らばっている写真を見ました。あれがPaget細胞ですか。
ドクタードクター
その通り。大型で淡明な細胞質をもつPaget細胞が表皮内に散在するのが特徴だ。診断は、病変部の擦過細胞診や皮膚生検でこの細胞を確認して行う。腫瘤を触れないことが多いので、触診だけで「しこりがないから大丈夫」と判断しないことが大切だよ。
医学生医学生
だから正解はPaget病ですね。ほかの選択肢も、それぞれ代表的な症状で整理したいです。
ドクタードクター
いいね。まず乳腺線維腺腫。これはどんな症状で来ると思う?
医学生医学生
若い女性で、よく動くしこりでしたよね。乳腺外科の外来で、20代の方がコロコロ動くしこりで来ていました。
ドクタードクター
まさにそれ。線維腺腫は乳管上皮と間質がともに増える良性腫瘍で、10〜30歳代に多く、境界明瞭で表面平滑、弾性硬、可動性良好な無痛性腫瘤として触れる。乳頭の皮膚には変化を起こさない。
医学生医学生
乳管内乳頭腫は、乳頭に近い乳管にできるので、乳頭がただれることもありそうな気がします。
ドクタードクター
場所は近いけれど、症状は違うんだ。乳管内乳頭腫は乳管の中で上皮が乳頭状に増える良性腫瘍で、主訴は片側の単一乳管口からの血性乳頭分泌。表面のびらんではなく「分泌」がキーワードだ。ただ、血性乳頭分泌は非浸潤性乳管癌でも起こるから、細胞診や超音波、乳管造影、乳管内視鏡などで癌と鑑別する必要がある。
医学生医学生
分泌なら乳頭腫、ただれならPaget病、と分けて覚えます。乳腺症はどうでしょう。
ドクタードクター
乳腺症は卵巣ホルモンの不均衡を背景に、乳腺に増殖と退行の変化が混ざった状態で、30〜40歳代に多い。月経前に強くなる乳房の張りや痛み、境界不明瞭な硬結が主な症状で、両側性のことが多い。漿液性の分泌を伴うことはあるけれど、びらんは起こさない。
医学生医学生
女性化乳房症は男性の病気なので、乳頭のびらんとは関係なさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。男性の乳腺組織が増えて乳房が腫れる状態で、エストロゲン作用が相対的に強くなると起こる。思春期や高齢者の生理的なもののほか、肝硬変、精巣腫瘍、Klinefelter症候群、スピロノラクトンなどの薬剤が原因になる。乳輪下に円盤状の硬結を触れ、圧痛を伴うこともあるが、びらんは生じない。
医学生医学生
主訴と疾患を対応させると、選択肢がきれいに切れますね。
ドクタードクター
最後に臨床での注意点。乳頭湿疹は両側性が多くステロイド外用で改善するのに対し、Paget病は片側性で治療に反応しない。だから「片側」「治らない」は危険信号だ。治療は乳癌に準じて、乳頭・乳輪を含めて切除する。非浸潤癌が主体なら予後は比較的よいけれど、深部に浸潤癌を伴うこともあるので、マンモグラフィやMRIで乳房内の広がりを評価する。それから、外陰部や肛門周囲にできる乳房外Paget病は、別の疾患だということも覚えておこう。
医学生医学生
皮膚科で湿疹として長く治療されていた、というケースが一番怖いですね。

まとめ

乳頭・乳輪のびらんや湿疹様変化をきたす代表的疾患は乳房Paget病で、乳管内の癌細胞が乳頭・乳輪の表皮内へ進展した乳癌の特殊型です。片側性で、ステロイド外用などの湿疹治療に反応しないことが特徴で、擦過細胞診や皮膚生検で大型・淡明なPaget細胞を確認して診断します。ほかの乳腺疾患は主訴で整理でき、可動性良好な無痛性腫瘤は線維腺腫、血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫(非浸潤性乳管癌との鑑別が必要)、月経周期に関連した痛みや硬結は乳腺症、男性の乳房腫大は女性化乳房症が典型です。「治らない片側の乳頭湿疹」を見逃さずPaget病を疑う姿勢は、乳癌の早期発見につながる重要な臨床判断です。

解答・解説

正解はaです

乳頭・乳輪の表面がただれて赤くなり、滲出液やかさぶたを伴う状態を乳頭のびらんという。見た目は湿疹に似るが、ステロイド外用などの湿疹治療で治らない片側性の乳頭びらんをみたら、乳癌の特殊型である乳房Paget病(パジェット病)を必ず疑う必要がある。 本問の選択肢はいずれも乳房に生じる代表的な疾患であり、それぞれの典型的な臨床像(主訴)を対応づけて覚えておくことが解答の鍵となる。 ・乳頭のびらん・湿疹様変化 → Paget病 ・境界明瞭で可動性のよい無痛性腫瘤(若年女性) → 線維腺腫 ・血性乳頭分泌 → 乳管内乳頭腫(乳癌との鑑別が必要) ・月経周期に関連した乳房の痛み・硬結 → 乳腺症 ・男性の乳腺組織の腫大 → 女性化乳房症 このうち乳頭のびらんを特徴とするのはPaget病である。

選択肢考察

  1. ○a.  Paget病

    正しい。乳房Paget病は、乳管内の癌細胞が乳管に沿って乳頭へ進み、乳頭・乳輪の表皮内に広がった乳癌の特殊型である。表皮内に大型で明るい細胞質をもつPaget細胞が散在し、臨床的には片側の乳頭・乳輪の発赤、びらん、痂皮(かさぶた)、滲出を伴う湿疹様の病変として現れる。湿疹治療に反応せず持続するのが特徴で、進行すると乳頭が破壊・消失することもある。診断は病変部の擦過細胞診や皮膚生検でPaget細胞を確認して行う。腫瘤を触れないことが多く、乳管内にとどまる非浸潤癌の成分が主体であれば予後は比較的良好であるが、深部に浸潤癌を伴う場合もある。

  2. ×b.  乳腺線維腺腫

    誤り。線維腺腫は乳管上皮成分と間質(線維性結合組織)成分がともに増殖する良性腫瘍で、10〜30歳代の若年女性に多い。境界明瞭で表面平滑、弾性硬、可動性が良好な無痛性の腫瘤として触れるのが典型である。乳頭の皮膚に変化を起こすことはなく、乳頭びらんの原因にはならない。

  3. ×c.  乳管内乳頭腫

    誤り。乳管内乳頭腫は乳管上皮が乳管内で乳頭状に増殖する良性腫瘍で、乳頭に近い太い乳管(主乳管)に好発し、30〜50歳代に多い。主な症状は片側の単一乳管口からの血性(または漿液性)の乳頭分泌であり、腫瘤を触れないことも多い。乳頭表面にびらんを生じる疾患ではない。血性乳頭分泌は非浸潤性乳管癌などでもみられるため、分泌物の細胞診、乳管造影、乳管内視鏡、超音波検査などで癌との鑑別を行う。

  4. ×d.  乳腺症

    誤り。乳腺症は、卵巣ホルモン(主にエストロゲン)の不均衡を背景に乳腺組織に増殖性・退行性の変化が混在する状態で、30〜40歳代に多い。月経前に増強する乳房の張り(緊満感)や自発痛・圧痛、境界不明瞭な硬結(しこり)を主な症状とし、両側性のことが多い。漿液性の乳頭分泌を伴うことはあるが、乳頭のびらんは起こさない。

  5. ×e.  女性化乳房症

    誤り。女性化乳房症は、男性の乳腺組織が増生して乳房が腫大する状態である。エストロゲン作用がアンドロゲン作用に比べて相対的に強くなることで起こり、思春期や高齢者の生理的なもののほか、肝硬変、精巣腫瘍、Klinefelter症候群、薬剤(スピロノラクトン、ジギタリス製剤など)が原因となる。乳輪下に円盤状の硬結として触れ、圧痛を伴うことがあるが、乳頭のびらんは生じない。

乳房Paget病

・乳管内に発生した癌が乳頭・乳輪の表皮内へ進展したもの。乳癌の特殊型の一つで、頻度は乳癌全体の1%前後とまれ。 ・病理: 表皮内に大型で淡明な細胞質をもつPaget細胞が孤立散在〜胞巣状に分布する。 ・臨床: 片側性の乳頭・乳輪の湿疹様変化(発赤、びらん、痂皮、滲出)。痒みを伴うこともある。腫瘤は触れないことが多い。 ・鑑別: 乳頭湿疹(両側性が多く、ステロイド外用で改善する)、乳頭部腺腫(乳頭内に生じる良性腫瘍で、乳頭のびらんを呈しうる)。 ・診断: 擦過細胞診、皮膚生検。マンモグラフィやMRIで乳房内の病変の広がりを評価する。 ・治療: 乳癌に準じた外科治療(乳頭・乳輪を含む切除)。 ・乳房外Paget病: 外陰部、肛門周囲、腋窩などアポクリン腺の多い部位に生じる皮膚癌で、乳房Paget病とは別の疾患である。

乳房疾患と主な症状の対応

・乳頭のびらん: Paget病 ・血性乳頭分泌: 乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌 ・可動性良好な無痛性腫瘤: 線維腺腫 ・月経周期に関連する疼痛・硬結: 乳腺症 ・男性の乳房腫大: 女性化乳房症 ・発赤・腫脹・熱感(橙皮状皮膚): 炎症性乳癌(乳腺炎との鑑別が重要)

POINT

・乳頭のびらん(治りにくい湿疹様変化)→ Paget病を疑う。 ・Paget病は乳癌が乳頭・乳輪の表皮内に進展したもので、Paget細胞の証明で診断する。 ・血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫、可動性良好な無痛性腫瘤は線維腺腫、周期的な乳房痛は乳腺症、男性の乳房腫大は女性化乳房症。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。