治らない乳頭の「湿疹」に要注意―乳房Paget病と乳腺疾患の主訴の見分け方
第100回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
乳頭のびらんをきたすのはどれか。
- a.Paget病
- b.乳腺線維腺腫
- c.乳管内乳頭腫
- d.乳腺症
- e.女性化乳房症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
乳頭・乳輪のびらんや湿疹様変化をきたす代表的疾患は乳房Paget病で、乳管内の癌細胞が乳頭・乳輪の表皮内へ進展した乳癌の特殊型です。片側性で、ステロイド外用などの湿疹治療に反応しないことが特徴で、擦過細胞診や皮膚生検で大型・淡明なPaget細胞を確認して診断します。ほかの乳腺疾患は主訴で整理でき、可動性良好な無痛性腫瘤は線維腺腫、血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫(非浸潤性乳管癌との鑑別が必要)、月経周期に関連した痛みや硬結は乳腺症、男性の乳房腫大は女性化乳房症が典型です。「治らない片側の乳頭湿疹」を見逃さずPaget病を疑う姿勢は、乳癌の早期発見につながる重要な臨床判断です。
解答・解説
正解はaです
乳頭・乳輪の表面がただれて赤くなり、滲出液やかさぶたを伴う状態を乳頭のびらんという。見た目は湿疹に似るが、ステロイド外用などの湿疹治療で治らない片側性の乳頭びらんをみたら、乳癌の特殊型である乳房Paget病(パジェット病)を必ず疑う必要がある。 本問の選択肢はいずれも乳房に生じる代表的な疾患であり、それぞれの典型的な臨床像(主訴)を対応づけて覚えておくことが解答の鍵となる。 ・乳頭のびらん・湿疹様変化 → Paget病 ・境界明瞭で可動性のよい無痛性腫瘤(若年女性) → 線維腺腫 ・血性乳頭分泌 → 乳管内乳頭腫(乳癌との鑑別が必要) ・月経周期に関連した乳房の痛み・硬結 → 乳腺症 ・男性の乳腺組織の腫大 → 女性化乳房症 このうち乳頭のびらんを特徴とするのはPaget病である。
選択肢考察
- ○a. Paget病
正しい。乳房Paget病は、乳管内の癌細胞が乳管に沿って乳頭へ進み、乳頭・乳輪の表皮内に広がった乳癌の特殊型である。表皮内に大型で明るい細胞質をもつPaget細胞が散在し、臨床的には片側の乳頭・乳輪の発赤、びらん、痂皮(かさぶた)、滲出を伴う湿疹様の病変として現れる。湿疹治療に反応せず持続するのが特徴で、進行すると乳頭が破壊・消失することもある。診断は病変部の擦過細胞診や皮膚生検でPaget細胞を確認して行う。腫瘤を触れないことが多く、乳管内にとどまる非浸潤癌の成分が主体であれば予後は比較的良好であるが、深部に浸潤癌を伴う場合もある。
- ×b. 乳腺線維腺腫
誤り。線維腺腫は乳管上皮成分と間質(線維性結合組織)成分がともに増殖する良性腫瘍で、10〜30歳代の若年女性に多い。境界明瞭で表面平滑、弾性硬、可動性が良好な無痛性の腫瘤として触れるのが典型である。乳頭の皮膚に変化を起こすことはなく、乳頭びらんの原因にはならない。
- ×c. 乳管内乳頭腫
誤り。乳管内乳頭腫は乳管上皮が乳管内で乳頭状に増殖する良性腫瘍で、乳頭に近い太い乳管(主乳管)に好発し、30〜50歳代に多い。主な症状は片側の単一乳管口からの血性(または漿液性)の乳頭分泌であり、腫瘤を触れないことも多い。乳頭表面にびらんを生じる疾患ではない。血性乳頭分泌は非浸潤性乳管癌などでもみられるため、分泌物の細胞診、乳管造影、乳管内視鏡、超音波検査などで癌との鑑別を行う。
- ×d. 乳腺症
誤り。乳腺症は、卵巣ホルモン(主にエストロゲン)の不均衡を背景に乳腺組織に増殖性・退行性の変化が混在する状態で、30〜40歳代に多い。月経前に増強する乳房の張り(緊満感)や自発痛・圧痛、境界不明瞭な硬結(しこり)を主な症状とし、両側性のことが多い。漿液性の乳頭分泌を伴うことはあるが、乳頭のびらんは起こさない。
- ×e. 女性化乳房症
誤り。女性化乳房症は、男性の乳腺組織が増生して乳房が腫大する状態である。エストロゲン作用がアンドロゲン作用に比べて相対的に強くなることで起こり、思春期や高齢者の生理的なもののほか、肝硬変、精巣腫瘍、Klinefelter症候群、薬剤(スピロノラクトン、ジギタリス製剤など)が原因となる。乳輪下に円盤状の硬結として触れ、圧痛を伴うことがあるが、乳頭のびらんは生じない。
乳房Paget病
・乳管内に発生した癌が乳頭・乳輪の表皮内へ進展したもの。乳癌の特殊型の一つで、頻度は乳癌全体の1%前後とまれ。 ・病理: 表皮内に大型で淡明な細胞質をもつPaget細胞が孤立散在〜胞巣状に分布する。 ・臨床: 片側性の乳頭・乳輪の湿疹様変化(発赤、びらん、痂皮、滲出)。痒みを伴うこともある。腫瘤は触れないことが多い。 ・鑑別: 乳頭湿疹(両側性が多く、ステロイド外用で改善する)、乳頭部腺腫(乳頭内に生じる良性腫瘍で、乳頭のびらんを呈しうる)。 ・診断: 擦過細胞診、皮膚生検。マンモグラフィやMRIで乳房内の病変の広がりを評価する。 ・治療: 乳癌に準じた外科治療(乳頭・乳輪を含む切除)。 ・乳房外Paget病: 外陰部、肛門周囲、腋窩などアポクリン腺の多い部位に生じる皮膚癌で、乳房Paget病とは別の疾患である。
乳房疾患と主な症状の対応
・乳頭のびらん: Paget病 ・血性乳頭分泌: 乳管内乳頭腫、非浸潤性乳管癌 ・可動性良好な無痛性腫瘤: 線維腺腫 ・月経周期に関連する疼痛・硬結: 乳腺症 ・男性の乳房腫大: 女性化乳房症 ・発赤・腫脹・熱感(橙皮状皮膚): 炎症性乳癌(乳腺炎との鑑別が重要)
POINT
・乳頭のびらん(治りにくい湿疹様変化)→ Paget病を疑う。 ・Paget病は乳癌が乳頭・乳輪の表皮内に進展したもので、Paget細胞の証明で診断する。 ・血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫、可動性良好な無痛性腫瘤は線維腺腫、周期的な乳房痛は乳腺症、男性の乳房腫大は女性化乳房症。
