StudyMed医師国家試験

琥珀色に透ける鼓膜―5枚の写真で身につける鼓膜診察の「見る順番」

第111回医師国家試験 I問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第7問

右鼓膜写真(①~⑤)と疾患の組合せで正しいのはどれか。

第111回 I問題 第7問の問題画像
  1. a.① ―― 真珠腫性中耳炎
  2. b.② ―― 耳硬化症
  3. c.③ ―― 滲出性中耳炎
  4. d.④ ―― 慢性鼓膜炎
  5. e.⑤ ―― 慢性化膿性中耳炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は5枚の右鼓膜写真を見比べて、それぞれに合う疾患を選ぶ問題だ。鼓膜は耳鼻科診察の入口で、所見を決まった順番で読めるかどうかが勝負になる。穿孔はあるか、色はどうか、膨らんでいるか凹んでいるか、白い石灰化はあるか、そして上の方の弛緩部に変化はないか。この5つを意識して見ていこう。
医学生医学生
正直、鼓膜写真はどれも同じに見えてしまいます。まず何を基準にすればいいですか。
ドクタードクター
まずは正常を知ることだね。正常な鼓膜は灰白色で半透明、上から中央に向かう白い線状のツチ骨柄と、上方の小さな白い出っ張りであるツチ骨短突起が透けて見える。右耳なら鼓膜の中心から前下方、写真では右下に向かって光錐という光の反射が出る。4枚目の写真はこの条件がそろっていて、表面の発赤やびらんもない、きれいな正常鼓膜だ。
医学生医学生
臨床実習で耳鼻科を回ったとき、最初に「光錐を探せ」と言われたのを思い出しました。じゃあ4枚目を慢性鼓膜炎とする組合せは違うんですね。
ドクタードクター
その通り。慢性鼓膜炎は鼓膜の表面にびらんや肉芽ができて耳漏を繰り返す病気だから、表面が赤く湿っていたり、ざらついて見えたりするはず。正常鼓膜とは結びつかない。では1枚目はどうだろう。
医学生医学生
下の方に大きな穴が開いていて、奥の粘膜が見えています。残っている鼓膜が白っぽいのが気になりますが、真珠腫ですか。
ドクタードクター
白いものを見るとつい真珠腫を考えたくなるよね。でも、その白さは鼓膜自体が肥厚・石灰化したもので、鼓室硬化と呼ばれる変化だ。緊張部に大きな穿孔が残り、穴を通して鼓室粘膜が見える、というのは慢性化膿性中耳炎の典型像なんだ。真珠腫は、凹んだ部分の奥に白い角化物の塊がたまって骨を壊していく病気で、見え方が違う。
医学生医学生
なるほど、白いのは「鼓膜が硬くなった跡」で、「角化物の塊」ではないんですね。
ドクタードクター
そう。逆に5枚目を見てほしい。緊張部に穿孔はないけれど、上の弛緩部が深く凹み、周囲の骨が欠けて痂皮やデブリが付いている。これは弛緩部型の真珠腫性中耳炎を疑わせる所見だ。つまり1枚目と5枚目は、選択肢の疾患名がちょうど入れ替わった形になっている。
医学生医学生
穿孔なら慢性化膿性中耳炎、上の方の陥凹と骨の欠損なら真珠腫、と分けて覚えればよさそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。次に2枚目。鼓膜も外耳道の皮膚も真っ赤で、血管が拡張している。これは急性の炎症所見で、急性中耳炎の初期などが考えられる。選択肢では耳硬化症と組み合わされているけれど、どうかな。
医学生医学生
耳硬化症はアブミ骨が固まって伝音難聴になる病気だと講義で習いました。鼓膜まで赤くなるものなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。耳硬化症では鼓膜は原則として正常なんだ。活動期に岬角の粘膜の充血が鼓膜越しにうっすら赤く透けて見えることがあって、これをSchwartze徴候と呼ぶけれど、2枚目のように鼓膜や外耳道全体が赤くなるわけではない。だからこの組合せも誤りだ。
医学生医学生
残る3枚目は、穴も赤みもないのに、鼓膜の奥が黄色っぽく透けていて、線や泡のようなものが見えます。
ドクタードクター
そこが正解のポイントだ。半透明の鼓膜を通して、中耳腔にたまった黄色から琥珀色の液体が見えている。線は液面、丸いのは気泡だね。耳痛や発熱を伴わずに中耳に滲出液がたまる滲出性中耳炎の典型所見で、この組合せが正しい。
医学生医学生
急性中耳炎は赤くて痛い、滲出性中耳炎は赤くないけれど液体が透けて聞こえにくい、という違いですね。
ドクタードクター
そうだね。滲出性中耳炎は耳管の働きが悪くなって中耳の換気がうまくいかないことが背景にある。ティンパノグラムは平坦なB型になることが多く、伝音難聴や耳閉感を訴える。小児ではアデノイド増殖症が原因として大事だ。
医学生医学生
成人で片側だけの滲出性中耳炎を見たら、上咽頭を確認しなさいと教わった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。成人の片側性の滲出性中耳炎では、上咽頭癌が耳管を圧迫している可能性を必ず除外する。それから真珠腫性中耳炎は、骨を壊しながら大きくなるので、顔面神経麻痺やめまい・感音難聴、さらには頭蓋内合併症まで起こしうる。治療は手術が基本だから、弛緩部の陥凹を見逃さないことが臨床ではとても重要なんだ。耳硬化症のほうは鼓膜所見に頼れないので、オージオグラムの2000Hz付近の骨導閾値低下であるCarhartのnotch、As型のティンパノグラム、アブミ骨筋反射の消失といった検査で詰めていく。
医学生医学生
鼓膜で分かる病気と、鼓膜では分からない病気を区別して考えることも大事なんですね。

まとめ

鼓膜写真は、穿孔の有無、色調、膨隆か陥凹か、石灰化、弛緩部の変化の順に観察すると整理しやすく、まずはツチ骨柄・ツチ骨短突起・光錐がそろう正常鼓膜を基準として押さえることが出発点です。半透明の鼓膜越しに黄色〜琥珀色の液体や液面・気泡が見えれば滲出性中耳炎であり、成人の片側例では上咽頭癌の除外が欠かせません。緊張部の持続する穿孔と鼓室硬化による白色化は慢性化膿性中耳炎、弛緩部の深い陥凹と骨欠損は真珠腫性中耳炎を示唆し、後者は骨破壊による重い合併症を起こしうるため手術が基本です。発赤が強ければ急性中耳炎などの急性炎症を考え、耳硬化症では鼓膜は原則正常で聴力検査が診断の決め手になります。所見を決まった順番で言語化する習慣は、国家試験の画像問題だけでなく、外来での見逃し防止にも直結します。

解答・解説

正解はcです

問われていること

5枚の右鼓膜の内視鏡写真を読み、それぞれに対応する疾患を判断する問題である。鼓膜所見は、①穿孔の有無、②色調(発赤・混濁・透見される液体の色)、③膨隆か陥凹か、④石灰化(白色斑)の有無、⑤弛緩部(上鼓室側)の変化、という順に観察すると整理しやすい。

正常鼓膜の見え方(④を基準に)

正常鼓膜は灰白色で半透明であり、ツチ骨柄(上方から中央の鼓膜臍に向かう白い線状構造)とツチ骨短突起(上方の白い小隆起)が透けて見える。右耳では鼓膜臍から前下方(写真では右下)に向かって光錐(光の反射)がみられる。④はこの所見がそろっており、表面に発赤やびらんもない正常鼓膜である。

各写真の所見

①:鼓膜の後下方に大きな穿孔があり、穴を通して鼓室内の粘膜が直接見える。残った鼓膜には白色の肥厚・石灰化が目立つ。慢性(化膿性)中耳炎の所見である。 ②:鼓膜とその周囲の外耳道皮膚に強い発赤と血管の拡張がみられる。急性の炎症所見で、急性中耳炎の初期などが考えられる。 ③:鼓膜は穿孔も発赤もないが、半透明の鼓膜を通して鼓室内に黄色〜琥珀色の液体が透見され、液面や気泡が観察される。中耳腔に滲出液がたまった滲出性中耳炎の所見である。 ④:正常鼓膜。 ⑤:上鼓室側(弛緩部)が深く陥凹し、周囲の骨の欠損や痂皮・デブリの付着がみられ、真珠腫性中耳炎(弛緩部型)を疑わせる所見である。 したがって、写真と疾患名の組合せが一致しているのは③の滲出性中耳炎のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  ① ―― 真珠腫性中耳炎

    ①は鼓膜緊張部の大きな穿孔と、残存鼓膜の白色の石灰化・肥厚が特徴で、穿孔を通して鼓室粘膜が見えている。これは慢性化膿性中耳炎(鼓膜に穿孔が残り、耳漏を繰り返す病態)の典型像である。真珠腫性中耳炎では弛緩部などの陥凹の奥に白色の角化物(真珠腫塊)や骨破壊がみられるのが特徴であり、①の所見とは異なる。

  2. ×b.  ② ―― 耳硬化症

    ②は鼓膜と外耳道皮膚がびまん性に発赤し、血管が拡張している急性炎症の所見で、急性中耳炎の初期などが考えられる。耳硬化症はアブミ骨底板の周囲に異常な骨増生が起こり、アブミ骨が固着して伝音難聴をきたす疾患で、鼓膜は原則として正常である。活動期には岬角粘膜の充血が鼓膜越しに淡い赤色として透見されること(Schwartze徴候)があるが、②のように鼓膜や外耳道全体が赤くなるわけではない。

  3. ○c.  ③ ―― 滲出性中耳炎

    ③では鼓膜に穿孔や強い発赤はないが、鼓膜を通して鼓室内に黄色〜琥珀色の液体が透けて見え、液面や気泡も確認できる。急性の炎症症状(耳痛・発熱)を伴わずに中耳腔に滲出液が貯留した状態であり、滲出性中耳炎の典型的な鼓膜所見である。耳管機能の障害(小児ではアデノイド増殖症、成人では上咽頭癌の除外が重要)が背景にあることが多く、伝音難聴や耳閉感をきたす。

  4. ×d.  ④ ―― 慢性鼓膜炎

    ④は灰白色・半透明の鼓膜で、ツチ骨短突起とツチ骨柄が透見され、前下方に光錐がみられる正常鼓膜である。慢性鼓膜炎は鼓膜表面にびらんや肉芽が生じて耳漏を繰り返す疾患で、鼓膜表面の発赤・湿潤・肉芽などがみられるはずだが、④にはそのような変化はない。

  5. ×e.  ⑤ ―― 慢性化膿性中耳炎

    ⑤では鼓膜緊張部に穿孔はなく、上鼓室側(弛緩部)が深く陥凹してその周囲に骨欠損や痂皮・デブリがみられる。鼓膜の陥凹と上鼓室の変化が主体であり、真珠腫性中耳炎(弛緩部型)を疑わせる所見である。慢性化膿性中耳炎は緊張部の持続的な穿孔が特徴であり(①がその例)、⑤とは一致しない。

鼓膜所見と代表的な疾患

・急性中耳炎:鼓膜の発赤から始まり、進行すると膿の貯留で鼓膜が膨隆する。耳痛・発熱を伴い、小児に多い。 ・滲出性中耳炎:鼓膜の陥凹、黄色〜琥珀色の透見、液面形成や気泡。耳痛や発熱はなく、伝音難聴・耳閉感を訴える。ティンパノグラムはB型(平坦型)となることが多い。小児ではアデノイド増殖症、成人で片側性の場合は上咽頭癌の除外が必要。 ・慢性化膿性中耳炎:鼓膜緊張部の穿孔が持続し、耳漏を反復する。鼓膜の石灰化(鼓室硬化)を伴うことがある。 ・真珠腫性中耳炎:重層扁平上皮が中耳腔に入り込み、角化物がたまって周囲の骨を破壊しながら増大する。弛緩部型(上鼓室の陥凹)が多い。顔面神経麻痺、内耳障害(めまい・感音難聴)、頭蓋内合併症の原因となり、手術が基本である。 ・耳硬化症:鼓膜は正常。アブミ骨固着による進行性の伝音難聴で、中年女性に多い。オージオグラムで2,000Hz付近の骨導閾値の低下(Carhartのnotch)、ティンパノグラムはAs型、アブミ骨筋反射の消失が特徴。 ・鼓膜炎:鼓膜表面の炎症で、急性型(水疱性鼓膜炎など)と、びらん・肉芽を伴う慢性型がある。

POINT

・鼓膜所見は穿孔、色調、膨隆/陥凹、石灰化、弛緩部の変化の順に確認する。 ・黄色〜琥珀色の透見、液面・気泡は滲出性中耳炎。 ・緊張部の穿孔は慢性化膿性中耳炎、弛緩部の陥凹と骨破壊は真珠腫性中耳炎。 ・耳硬化症では鼓膜は正常(Schwartze徴候がみられることがある)。 ・正常鼓膜の指標はツチ骨短突起・ツチ骨柄・光錐。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。