血圧は動かさない抗利尿薬―ホルモン製剤の「使いどころ」を受容体から読み解く
第109回医師国家試験 I問題 第25問
国試問題にチャレンジ
治療薬と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.GnRHアゴニスト ―― 子宮筋腫
- b.カルシトニン製剤 ―― 高カルシウム血症
- c.副甲状腺ホルモン〈PTH〉製剤 ―― 骨粗鬆症
- d.デスモプレシン〈DDAVP〉製剤 ―― 高血圧症
- e.グルカゴン類似ペプチド1〈GLP-1〉製剤 ―― 糖尿病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ホルモン関連薬は、受容体と投与パターンによる作用の違いを押さえると適応が整理できます。GnRHアゴニストは持続投与によるダウンレギュレーションで性ホルモンを低下させて子宮筋腫などに、PTH製剤は間欠投与で骨形成を優位にして骨粗鬆症に用いられ、カルシトニンは即効性はあるもののエスケープ現象があるため高カルシウム血症では補助的に併用し、GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促して糖尿病に使います。デスモプレシンはV2受容体選択的な抗利尿薬で、中枢性尿崩症・夜尿症・夜間多尿や軽症血友病A・von Willebrand病に使われ、昇圧・降圧作用はほとんどなく高血圧症の治療薬ではありません。副作用の低ナトリウム血症や、拮抗薬トルバプタンの適応もあわせて理解しておくと、バソプレシン系の薬を臨床で安全に扱う土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
ホルモンやその誘導体を薬として使う場合、目的は大きく二つある。一つは欠乏したホルモンを補う補充療法、もう一つはホルモンの作用(ときに本来の生理作用とは逆向きに見える作用)を薬理学的に利用する治療である。本問は後者の知識を中心に、各薬剤と適応疾患の組合せの誤りを選ぶ問題である。
考え方
各薬剤について「どの受容体に働き、どんな作用が出るか」を押さえれば判断できる。 ・GnRHアゴニストは持続投与で下垂体のGnRH受容体を減らし(ダウンレギュレーション)、性ホルモンを低下させる。 ・カルシトニンは破骨細胞を抑えて血清Caを下げる。 ・PTH製剤は1日1回など間欠的に投与すると骨形成が優位となり骨量が増える。 ・GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促す。 ・デスモプレシンはバソプレシンV2受容体に選択的に働く抗利尿薬で、尿崩症や夜尿症などに使い、降圧作用はない。 したがって「デスモプレシン―高血圧症」の組合せが誤りである。
選択肢考察
- ×a. GnRHアゴニスト ―― 子宮筋腫
正しい組合せである。生理的なGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)は視床下部から律動的(パルス状)に分泌され、下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)分泌を促す。作用の強いGnRHアゴニストを持続的に投与すると、初回投与直後は一過性にLH・FSHが増える(フレアアップ)が、その後は下垂体のGnRH受容体がダウンレギュレーションを起こして反応しなくなり、LH・FSHが低下する。その結果、卵巣からのエストロゲン分泌が閉経後と同程度まで低下する(偽閉経療法)。子宮筋腫はエストロゲン依存性に増大するため、GnRHアゴニストで縮小し、過多月経などの症状が改善する。ただし低エストロゲンによる骨量減少や更年期様症状があるため、投与期間は原則6か月程度に制限され、主に術前の筋腫縮小や閉経までの逃げ込み療法として用いる。
- ×b. カルシトニン製剤 ―― 高カルシウム血症
正しい組合せである。カルシトニンは甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から分泌されるホルモンで、破骨細胞のカルシトニン受容体に作用して骨吸収を抑え、血清カルシウム濃度を下げる。作用発現が数時間以内と速い一方、効果は比較的弱く、連用すると数日で効きにくくなる(エスケープ現象)。このため高カルシウム血症の治療では、生理食塩水の大量輸液とビスホスホネート製剤(効果発現に数日かかる)を主体とし、カルシトニンは即効性を補う目的で併用する。わが国ではエルカトニンなどが用いられ、骨粗鬆症に伴う疼痛にも使われる。
- ×c. 副甲状腺ホルモン〈PTH〉製剤 ―― 骨粗鬆症
正しい組合せである。PTH(副甲状腺ホルモン)は骨芽細胞に作用し、骨芽細胞を介して破骨細胞を活性化させ、骨吸収と骨形成の両方を促す。原発性副甲状腺機能亢進症のようにPTHが持続的に高いと骨吸収が上回り骨量は減る。一方、1日1回(または週1〜2回)の皮下注射のように間欠的にPTHが一過性に上昇すると、骨芽細胞の増加・分化促進やアポトーシス(細胞死)抑制などを通じて骨形成が骨吸収を上回り、骨量が増加する。この性質を利用した骨形成促進薬がテリパラチド(PTHの1-34断片)であり、骨折の危険性が高い重症骨粗鬆症に用いられる。投与期間には上限がある(生涯で24か月まで等、製剤ごとに規定)。
- ○d. デスモプレシン〈DDAVP〉製剤 ―― 高血圧症
誤った組合せであり、本問の正解である。デスモプレシンはバソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)の合成誘導体で、腎集合管のV2受容体に選択的に作用し、アクアポリン2を介して水の再吸収を増やす(抗利尿作用)。血管平滑筋のV1受容体への作用はごく弱く、昇圧作用はほとんどない。適応は中枢性尿崩症、夜尿症(夜間の尿量を減らす)、男性の夜間多尿による夜間頻尿、さらに血管内皮からのvon Willebrand因子・第Ⅷ因子の放出を促すことによる軽症血友病Aや von Willebrand病の止血管理などである。降圧作用はなく、高血圧症の治療薬ではない。不適切に使うと水分貯留による希釈性低ナトリウム血症(水中毒)をきたす危険がある。
- ×e. グルカゴン類似ペプチド1〈GLP-1〉製剤 ―― 糖尿病
正しい組合せである。GLP-1は食事摂取に応じて小腸下部のL細胞から分泌されるインクレチン(消化管ホルモンのうちインスリン分泌を促すもの)である。GLP-1受容体作動薬(リラグルチド、セマグルチド、デュラグルチドなど)は、血糖が高いときにだけ膵β細胞からのインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑える。加えて胃内容排出を遅らせ、中枢に作用して食欲を抑えるため、体重減少も期待できる。血糖依存性に作用するので単独では低血糖を起こしにくく、2型糖尿病の治療に用いられる。注射薬が中心だが、経口セマグルチドもある。主な副作用は悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状である。なお一部の製剤は肥満症にも適応がある。
ホルモン関連薬の「意外な」使い方の整理
・GnRHアゴニスト(リュープロレリンなど):持続投与で性腺機能を抑える(化学的去勢)。適応は子宮筋腫、子宮内膜症、閉経前乳癌、前立腺癌、中枢性思春期早発症など。投与初期のフレアアップに注意(前立腺癌では一時的な症状悪化を防ぐため抗アンドロゲン薬を先行・併用することがある)。なお、初期の一過性上昇がないGnRHアンタゴニスト(レルゴリクス、デガレリクスなど)も同様の目的で使われる。 ・PTH製剤:間欠投与で骨形成促進(テリパラチド)。PTH関連蛋白(PTHrP)のアナログであるアバロパラチドも同様の骨形成促進薬である。 ・副腎皮質ステロイド:本来は糖代謝・ストレス応答に関わるホルモンだが、大量では抗炎症・免疫抑制薬として用いる。 ・ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど):先端巨大症や消化管神経内分泌腫瘍によるホルモン過剰症状の抑制。
バソプレシン受容体のサブタイプ
・V1a受容体:血管平滑筋(血管収縮・昇圧)。バソプレシン自体は敗血症性ショックなどで昇圧薬として使われる。 ・V1b(V3)受容体:下垂体前葉(ACTH分泌促進)。 ・V2受容体:腎集合管(抗利尿)、血管内皮(von Willebrand因子・第Ⅷ因子放出)。デスモプレシンはこれに選択的に作用する。 ・V2受容体拮抗薬トルバプタンは、逆に水利尿を起こし、心不全・肝硬変の体液貯留、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)による低ナトリウム血症、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎などに用いられる。
高カルシウム血症の治療の流れ
①生理食塩水の大量輸液で脱水を補正し尿中Ca排泄を促す(体液量が十分になった後にループ利尿薬を併用することがある)。②ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)の点滴静注。③即効性を期待してカルシトニン併用。④必要に応じてデノスマブ、ビタミンD過剰や肉芽腫性疾患などでは副腎皮質ステロイド、重症で腎不全を伴えば透析。
POINT
・デスモプレシンはV2受容体選択的な抗利尿薬で、適応は中枢性尿崩症・夜尿症・夜間多尿、軽症血友病A・von Willebrand病。昇圧作用はほとんどなく、副作用は低ナトリウム血症。 ・GnRHアゴニストは持続投与でダウンレギュレーション→性ホルモン低下。子宮筋腫・子宮内膜症・前立腺癌・乳癌・思春期早発症に使う。 ・PTH製剤(テリパラチド)は間欠投与で骨形成を促進する骨粗鬆症治療薬。 ・カルシトニンは即効性だが作用が弱く、エスケープ現象があるため高カルシウム血症では補助的に併用。 ・GLP-1受容体作動薬は血糖依存性にインスリン分泌を促進し、単独では低血糖を起こしにくく、体重減少作用もある。
