穴のない鼓膜の奥に白い塊―先天性真珠腫は「切って取る」が鉄則
第108回医師国家試験 A問題 第8問
国試問題にチャレンジ
5歳女児の左鼓膜の写真を別に示す。 治療として適切なのはどれか。

- a.抗菌薬投与
- b.鼓膜切開術
- c.鼓膜チューブ留置術
- d.鼓膜形成術
- e.鼓室形成術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
小児で、穿孔や陥凹のない鼓膜の奥に境界明瞭な白色塊を透見した場合は、胎生期の上皮遺残から生じる先天性真珠腫を考えます。真珠腫は角化上皮とケラチンが貯留した増殖性病変であり、骨を破壊しながら増大して伝音難聴、迷路瘻孔、顔面神経麻痺、頭蓋内合併症などを起こしうるため、抗菌薬や鼓膜切開、換気チューブでは治らず、手術で摘出し伝音機構を再建する鼓室形成術が治療の原則です。鼓膜切開は急性中耳炎、チューブ留置は滲出性中耳炎、鼓膜形成術は鼓膜穿孔の閉鎖と、中耳手術の適応を対比して覚えておくと混同を防げます。病変が小さいうちに見つけて手術するほど予後がよいため、鼓膜の奥まで意識して観察する習慣が早期発見につながります。
解答・解説
正解はeです
画像所見の整理
左鼓膜の写真では、鼓膜に穿孔はなく、鼓膜の奥(鼓室内)に境界のはっきりした白色の塊状物が透けて見え、鼓膜を内側から押し上げるように膨隆している。鼓膜の他の部分はやや暗い色調を呈している。外耳道には耳漏(膿性の分泌物)の貯留はみられない。
診断へのプロセス
5歳という小児で、穿孔のない正常構造の鼓膜の奥に白色塊を透見する所見は、先天性真珠腫に典型的である。真珠腫とは、角化した扁平上皮とその落屑(ケラチン)が袋状に増殖・貯留した病変で、白く光沢のある塊として見える。先天性真珠腫は胎生期の上皮の遺残が鼓室内で増大したものと考えられており、鼓膜穿孔や中耳炎の既往を伴わないのが特徴である。好発部位は鼓室の前上部で、男児に多いとされるが女児にもみられる。 鑑別として以下が重要である。 ・急性中耳炎:鼓膜の発赤・膨隆と、鼓室内の黄白色の膿の透見を示す。発熱や強い耳痛を伴うことが多い。白色塊を膿と見誤らないことが大切である。 ・滲出性中耳炎:鼓膜の陥凹、琥珀色〜暗い色調、液面形成や気泡がみられる。鼓膜の暗い色調だけで判断すると誤る。 ・後天性真珠腫:鼓膜の弛緩部や緊張部の陥凹・穿孔から上皮が侵入してできるもので、陥凹ポケットや穿孔、耳漏を伴う。
治療の考え方
真珠腫は薬物で消失することはなく、放置すると増大して耳小骨や周囲の骨を破壊し、伝音難聴、顔面神経麻痺、迷路瘻孔(めまい)、頭蓋内合併症などを起こしうる。したがって手術による完全摘出が原則であり、真珠腫を摘出したうえで中耳の伝音機構を再建する鼓室形成術が選択される。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬投与
抗菌薬は急性中耳炎や、真珠腫に細菌感染が加わって耳漏が出ている場合の消炎には用いられる。しかし真珠腫は上皮の増殖性病変であり感染症そのものではないため、抗菌薬で縮小・消失することはない。根本的な治療にはならない。
- ×b. 鼓膜切開術
鼓膜切開術は、鼓室内に貯留した膿や滲出液を排出させる処置で、主に高度の急性中耳炎(強い耳痛・鼓膜の著明な膨隆がある場合など)や滲出性中耳炎の診断・治療に用いる。先天性真珠腫は固形の上皮塊であり、切開して排出できるものではないため適応とならない。
- ×c. 鼓膜チューブ留置術
鼓膜チューブ(換気チューブ)留置術は、鼓膜に小さな管を留置して中耳の換気と排液を持続的に行う治療で、保存的治療で改善しない遷延性の滲出性中耳炎や反復性中耳炎が適応である。真珠腫を除去する効果はなく、本症の治療にはならない。
- ×d. 鼓膜形成術
鼓膜形成術は、慢性穿孔性中耳炎などで生じた鼓膜の穿孔を、筋膜や軟骨膜などの移植片で閉鎖する手術である。本症例の鼓膜には穿孔がなく、病変の本体は鼓膜の奥の鼓室内にあるため、鼓膜を閉鎖するだけの手術は適応とならない。
- ○e. 鼓室形成術
鼓室形成術は、中耳の病変(真珠腫や炎症性肉芽など)を除去し、耳小骨連鎖を含む伝音機構を再建して聴力の保存・改善を図る手術である。先天性真珠腫は放置すれば増大して耳小骨などを破壊するため、早期に手術で摘出する必要がある。病変が小さく限局している段階で手術すれば、再発が少なく聴力も保たれやすい。取り残しによる再発(遺残性再発)を確認するため、症例によっては二期的に再手術(段階手術)を行うこともある。
真珠腫性中耳炎の分類
・先天性真珠腫:胎生期の上皮遺残(epidermoid formation)から生じると考えられる。鼓膜は正常で穿孔や中耳炎既往がなく、小児の鼓膜の奥に白色塊を透見することで偶然発見されることが多い。好発部位は鼓室前上部(鼓膜の前上象限の奥)である。進行すると伝音難聴で気付かれる。 ・後天性真珠腫: 弛緩部型:耳管機能不全などによる鼓室内の陰圧で鼓膜弛緩部が陥凹し、その奥に角化上皮が貯留したもの。最も頻度が高い。 緊張部型:鼓膜緊張部の陥凹から生じるもの。 二次性:鼓膜穿孔の縁から上皮が鼓室内へ侵入したもの。
真珠腫の危険性
真珠腫は周囲の骨を破壊(骨吸収)しながら増大する。耳小骨破壊による伝音難聴、外側半規管の骨破壊による迷路瘻孔(めまい・瘻孔症状)、顔面神経管の破壊による顔面神経麻痺、内耳障害による感音難聴、さらに髄膜炎・脳膿瘍・S状静脈洞血栓症などの頭蓋内合併症の原因となる。このため手術による摘出が原則である。
中耳の主な手術と適応
・鼓膜切開術:急性中耳炎(重症例)、滲出性中耳炎 ・鼓膜換気チューブ留置術:遷延性・難治性の滲出性中耳炎、反復性中耳炎 ・鼓膜形成術:鼓膜穿孔のみで耳小骨連鎖が保たれている慢性中耳炎 ・鼓室形成術:真珠腫性中耳炎、耳小骨連鎖の障害を伴う慢性中耳炎など(病変除去と伝音機構の再建)
POINT
・小児で、穿孔のない鼓膜の奥に白色塊を透見したら先天性真珠腫を考える ・真珠腫は骨を破壊しながら増大するため、薬物ではなく手術(真珠腫摘出+鼓室形成術)で治療する ・白色塊を急性中耳炎の膿と、暗い鼓膜色調を滲出性中耳炎と誤認しない ・鼓膜切開は急性中耳炎、チューブ留置は滲出性中耳炎、鼓膜形成術は鼓膜穿孔の閉鎖が主な適応
