StudyMed医師国家試験

肛門から出てきた暗赤色の塊―「形」で見抜く痔核脱出と直腸脱

第106回医師国家試験 I問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第9問

肛門部の写真を別に示す。  診断として最も考えられるのはどれか。

第106回 I問題 第9問の問題画像
  1. a.痔瘻
  2. b.裂肛
  3. c.痔核脱出
  4. d.完全直腸脱
  5. e.肛門周囲膿瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肛門部の写真1枚から診断する問題だ。肛門疾患は視診がとても大事で、「何が、どこから、どんな形で出ているか」を見分けるのがカギになる。写真を見て、まず何が目に入るかな。
医学生医学生
肛門から暗赤色の塊が飛び出しています。表面がつやつやしていて、湿っているように見えます。
ドクタードクター
いい観察だ。光沢があって湿っているということは、皮膚ではなく粘膜に覆われた組織だと考えられる。しかも分葉状で、肛門の全周ではなく一部から塊として出ているね。ここで真っ先に区別したいのが痔核脱出と直腸脱だ。
医学生医学生
どちらも何かが肛門から出てくる病気なので、写真だと区別がつきにくそうです。
ドクタードクター
見分けのポイントは形なんだ。直腸脱は直腸壁の全層が裏返って出てくるので、中心に内腔があって、粘膜のひだが同心円状に並ぶ円筒状の腫瘤になる。一方、痔核脱出は肛門クッションと呼ばれる静脈叢を含む粘膜下組織が腫れて出てくるので、肛門の一部から結節状・分葉状の塊として出る。
医学生医学生
今回の写真には同心円状のひだも中心の穴もないので、痔核脱出ということですね。
ドクタードクター
その通り、正解は痔核脱出だ。痔核の主な好発部位は砕石位で3時・7時・11時方向。それから、今回のように色が暗紫色で張りつめた感じの場合は、脱出した痔核が括約筋に締め付けられて血流が滞り、血栓ができて戻らなくなった嵌頓痔核も考えられる。強い痛みを伴うことが多いよ。
医学生医学生
内痔核は痛くないと習った気がしますが、嵌頓すると痛いんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。内痔核は歯状線より口側にあって内臓神経支配なので、普段は痛みが少なく、排便時の無痛性出血と脱出が主症状だ。ただ嵌頓して血流障害や炎症が起こると強く痛む。逆に外痔核は歯状線より肛門側、体性神経支配の肛門上皮に覆われるので、急に血栓ができると痛みの強い硬いしこりになる。
医学生医学生
解剖の講義で、歯状線を境に神経支配も静脈還流も変わると習ったのがここで効いてくるんですね。
ドクタードクター
まさにそう。では残りの疾患が写真とどう違うかを確認しよう。完全直腸脱はさっき話した円筒状の脱出で、骨盤底筋や括約筋の弱った高齢女性、多産婦、慢性便秘でいきむ人に多い。10cm以上出ることもあり、子宮脱など他の骨盤臓器脱を合併することもある。
医学生医学生
裂肛は、排便時に切れて痛いものですよね。消化器外科の実習で、後ろの正中に多いと教わりました。
ドクタードクター
そう、硬便などで肛門上皮が裂けたもので、排便時の鋭い痛みと少量の鮮血が特徴だ。好発は後方正中、次いで前方正中。慢性化すると外側に見張りいぼと呼ばれる皮膚垂、内側に肥大乳頭ができる。今回の写真のような腫瘤の脱出とは見た目が違うね。
医学生医学生
肛門周囲膿瘍と痔瘻はつながった病気だと聞いたことがあります。
ドクタードクター
その理解でいい。肛門周囲膿瘍は、歯状線の肛門小窩から肛門腺に細菌が入って化膿したもので、肛門周囲の皮膚に発赤・腫脹・熱感・圧痛があり、発熱やズキズキする強い痛みを伴うことが多い。治療は切開排膿だ。その後、肛門管内の原発口と皮膚の二次口をつなぐトンネルが残ったものが痔瘻で、皮膚に小さな開口部や硬結があって膿が出続ける。
医学生医学生
今回は皮膚の赤い腫れも開口部もなく、粘膜の塊が出ているだけなので、どちらも合わないということですね。
ドクタードクター
その通り。瘻孔の開口部なら痔瘻、皮膚の発赤・腫脹・熱感なら膿瘍、後方正中の亀裂と見張りいぼなら裂肛、同心円状ひだの円筒状脱出なら直腸脱、分葉状の暗赤色腫瘤なら痔核、と特徴的な外観に照らして絞り込むのが基本だ。
医学生医学生
内痔核の重症度分類も試験に出そうです。
ドクタードクター
Goligher分類だね。I度は脱出なしで出血が主、II度は排便時に脱出するが自然に戻る、III度は指で押し込まないと戻らない、IV度は常に脱出している。治療は便秘やいきみを避ける排便習慣の改善と坐剤・軟膏などの保存療法が基本で、出血や脱出が続けばゴム輪結紮術、ALTA療法と呼ばれる硬化療法、結紮切除術などを程度に応じて選ぶ。嵌頓痔核では、まず鎮痛と浮腫の軽減を図りながら用手的に還納を試み、状況によっては手術を考える。
医学生医学生
痔瘻を見たらクローン病も考える、というのも国試対策で覚えました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。多発したり複雑な走行をしたりする痔瘻はクローン病を疑うきっかけになる。肛門は患者さんが恥ずかしがって受診や診察をためらいやすい部位だからこそ、限られた視診の機会で正確に見分けられることが臨床ではとても大切なんだ。

まとめ

肛門から突出する腫瘤では、まず形を見ることが診断の出発点です。光沢のある暗赤色の分葉状腫瘤が肛門の一部から出ていれば痔核脱出であり、中心に内腔をもち同心円状のひだが並ぶ円筒状の脱出であれば直腸脱と考えます。内痔核は歯状線より口側に生じて痛みが少なく、無痛性出血と脱出が主症状ですが、嵌頓して血流障害を起こすと強い痛みを伴い、程度はGoligher分類(I〜IV度)で評価します。裂肛は後方正中の裂創と見張りいぼ、肛門周囲膿瘍は皮膚の発赤・腫脹・熱感、痔瘻は皮膚の二次口が手がかりです。歯状線を境にした解剖の違いと各疾患の特徴的な外観を結びつけて理解することで、視診中心の肛門疾患を的確に鑑別できるようになります。

解答・解説

正解はcです

写真所見の整理

肛門部の写真で、肛門管から暗赤色〜紫色の腫瘤が外へ突出している。表面は光沢があって湿っており、粘膜に覆われた組織と考えられる。腫瘤は分葉状で、肛門の一部から塊として出ている。直腸全体が同心円状に脱出した像ではない。肛門周囲の皮膚には、発赤を伴う広い腫脹、瘻孔の開口部(二次口)、瘢痕、皮膚垂(見張りいぼ)などはみられない。

診断へのプロセス

肛門から突出する腫瘤をみたら、まず「何が出ているのか」を形で見分ける。 ・痔核脱出:肛門管内の静脈叢を含む粘膜下組織(肛門クッション)が腫大して脱出したもの。肛門の一部から暗赤色、分葉状〜結節状の塊として出る。典型的には砕石位で3時・7時・11時方向(主痔核の好発部位)に生じる。 ・直腸脱:直腸壁の全層が肛門外に反転して出るもので、中心に内腔があり、粘膜のひだが同心円状に並ぶ円筒状の腫瘤となる。 本例は光沢のある暗赤色の分葉状腫瘤が肛門の一部から出ており、同心円状のひだや中心の内腔はない。したがって内痔核の脱出と考えるのが最も妥当である。色調が暗く、緊満している印象からは、脱出した痔核がうっ血・血栓形成をきたし肛門括約筋で締め付けられて戻らなくなった状態(嵌頓痔核)も想定される。

設問への考え方

肛門疾患は視診所見が診断の中心となる。瘻孔の開口部があれば痔瘻、肛門周囲の発赤・腫脹・熱感があれば肛門周囲膿瘍、後方正中の亀裂や見張りいぼがあれば裂肛、同心円状のひだを伴う円筒状の脱出なら直腸脱、というように、各疾患の特徴的な外観と照らし合わせて絞り込む。

選択肢考察

  1. ×a.  痔瘻

    痔瘻は、肛門腺の感染から生じた肛門周囲膿瘍が自壊・切開された後に、肛門管内の原発口(一次口)と肛門周囲皮膚の開口部(二次口)をつなぐ瘻管が残ったものである。視診では肛門周囲の皮膚に小さな開口部や硬結、瘢痕がみられ、膿性の分泌が続く。本例では肛門周囲の皮膚に開口部や瘢痕はなく、主な所見は突出した腫瘤であるため合わない。

  2. ×b.  裂肛

    裂肛は、硬便の通過などで肛門上皮(歯状線より外側の知覚の鋭い部分)に生じる裂創で、排便時の鋭い痛みと少量の鮮血が特徴である。好発部位は後方正中(6時方向)で、次いで前方正中である。慢性化すると、裂創の外側に皮膚垂(見張りいぼ、sentinel tag)、内側に肥大乳頭を生じ、潰瘍化する。本例ではこれらの所見はなく、腫瘤の脱出が主体であるため合わない。

  3. ○c.  痔核脱出

    肛門の一部から、光沢のある暗赤色〜紫色の分葉状腫瘤が突出しており、脱出した内痔核の所見に合致する。内痔核は歯状線より口側の静脈叢を含む肛門クッションが腫大したもので、進行すると排便時に脱出し、さらに進むと用手的に戻す必要がある、あるいは常に脱出した状態となる。直腸脱のような同心円状のひだや中心の内腔はない。本例のように暗紫色で緊満した外観の場合は、脱出した痔核が括約筋に締め付けられて血流障害・血栓形成をきたした嵌頓痔核も考えられ、強い疼痛を伴う。

  4. ×d.  完全直腸脱

    完全直腸脱は、直腸壁の全層が肛門外へ反転して脱出する病態で、骨盤底筋や肛門括約筋が弱くなった高齢女性、多産婦、慢性の便秘でいきむ人に多い。脱出部は中心に内腔をもつ円筒状で、表面に同心円状の粘膜ひだが並ぶのが特徴であり、10cm以上脱出することもある。子宮脱や膀胱瘤など他の骨盤臓器脱を合併することもある。本例の腫瘤は分葉状で一部から出ており、同心円状のひだや内腔がないため合わない。

  5. ×e.  肛門周囲膿瘍

    肛門周囲膿瘍は、歯状線にある肛門小窩から肛門腺に細菌が入り込んで化膿し、肛門周囲の組織に膿がたまった状態である。肛門周囲の皮膚に発赤、腫脹、熱感、圧痛を伴う硬結や波動を認め、発熱や拍動性の強い疼痛を伴うことが多い。治療は切開排膿で、その後に痔瘻へ移行することが多い。本例の病変は皮膚の炎症性腫脹ではなく、肛門内から突出した粘膜性腫瘤であるため合わない。

痔核の分類

・内痔核:歯状線より口側(上直腸静脈叢)に生じる。この部位は内臓神経支配のため痛みを感じにくく、主症状は排便時の無痛性出血と脱出である。 ・外痔核:歯状線より肛門側(下直腸静脈叢)に生じる。体性神経支配の肛門上皮に覆われるため痛みに敏感で、急に血栓ができると疼痛の強い暗紫色の硬いしこりとなる(血栓性外痔核)。

内痔核の程度分類(Goligher分類)

・I度:脱出はなく、出血が主。 ・II度:排便時に脱出するが、自然に戻る。 ・III度:排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない。 ・IV度:常に脱出しており、戻らない。

治療の概略

排便習慣の改善(便秘・いきみの回避)、坐剤や軟膏などの保存療法が基本である。出血や脱出が続く場合は、ゴム輪結紮術、硬化療法(ALTA療法:硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸注射)、結紮切除術などを程度に応じて選ぶ。嵌頓痔核では、まず鎮痛と浮腫の軽減を図って用手的に還納を試み、状況により手術を行う。

主な肛門疾患の見分け方

・痔核:暗赤色の分葉状腫瘤、出血・脱出。 ・裂肛:後方正中の裂創、排便時痛、見張りいぼ。 ・肛門周囲膿瘍:発赤・腫脹・熱感・発熱。 ・痔瘻:肛門周囲皮膚の二次口、持続する排膿。クローン病では多発・複雑な痔瘻が多い。 ・直腸脱:同心円状のひだを伴う円筒状の脱出。高齢女性に多い。

POINT

・肛門の一部から出る暗赤色の分葉状腫瘤は痔核脱出。同心円状のひだと中心の内腔を伴う円筒状の脱出は直腸脱。 ・内痔核は歯状線より口側で痛みが少なく、無痛性出血と脱出が主症状。外痔核は歯状線より肛門側で痛みが強い。 ・内痔核の程度はGoligher分類(I〜IV度)で評価する。 ・裂肛は後方正中と見張りいぼ、痔瘻は二次口、肛門周囲膿瘍は発赤・腫脹・熱感が手がかり。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。