StudyMed医師国家試験

γ-GTP高値=お酒のせい?―夜食と体重増加が語る脂肪肝の本当の原因

第104回医師国家試験 F問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第104回 F問題 第16問

45歳の男性。人間ドックで γ-GTPが105 IU/L(基準8~50)と異常を指摘されたため来院した。その他の肝機能検査に異常を認めなかった。腹部超音波検査では脂肪肝を認めた。B型とC型肝炎ウイルスは陰性であった。身長165 cm,体重72 kg。缶ビール(350 mL)1本を10年間毎日飲んでいる。最近は仕事が忙しくて深夜帰宅し,夜食もとっている。ここ3か月で体重が5 kg増えている。  指導事項として最も適切なのはどれか。

  1. a.禁酒
  2. b.経過観察
  3. c.食生活の改善
  4. d.睡眠時間の確保
  5. e.勤務時間の短縮

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健診で見つかった脂肪肝に対して、どんな生活指導をするかを考える問題だ。ポイントは「脂肪肝の原因は何か」を見極めること。原因がわかれば、指導すべきことも自然に決まってくるよ。まず、γ-GTPが上がっていると聞いて、何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
真っ先にお酒です。毎日ビールを飲んでいるので、禁酒を指導するのかなと思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるところだね。でも、ここに落とし穴がある。γ-GTPは確かに飲酒で上がりやすい酵素だけど、肥満による脂肪肝でも上昇するんだ。γ-GTPが高いというだけで、アルコールが原因と決めつけてはいけない。
医学生医学生
では、飲酒量を実際に計算してみる必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。純アルコール量は「飲酒量×度数×0.8(アルコールの比重)」で求める。缶ビール350 mL、度数5%なら、350×0.05×0.8で約14 gだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、健康日本21の「節度ある適度な飲酒」が1日平均約20 gと習いました。それより少ないですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。さらに、非アルコール性とみなす飲酒量の目安は男性で1日30 g未満、女性で20 g未満。アルコール性肝障害の原因になる常習飲酒の目安は1日60 g以上だから、14 gではとても主因とは言えない。では、ほかに脂肪肝の原因になりそうなものは?
医学生医学生
身長と体重からBMIを出すと、72÷1.65²で約26です。肥満ですね。しかも3か月で5 kgも増えています。
ドクタードクター
そう、そこが核心だ。深夜帰宅後の夜食が続き、短期間で体重が増えている。ウイルス性肝炎も否定されているから、肥満・過栄養を背景にした非アルコール性脂肪性肝疾患、いわゆるNAFLDと考えるのが自然だね。ALTが正常なので、今のところ炎症や線維化の乏しい単純性脂肪肝の段階が考えやすい。ただし、脂肪性肝炎かどうかの確定には肝生検による組織診断が必要だ。
医学生医学生
原因が過食なら、指導の中心は食生活の改善ということですね。
ドクタードクター
正解。肥満に伴う脂肪肝の治療の基本は、食事療法と運動療法による減量だ。具体的には、総エネルギー摂取量を適正にすること、夜遅い食事や夜食を控えること、果糖を多く含む清涼飲料や脂質の摂りすぎを避けること。体重の約7%以上の減量で肝の炎症が、約10%以上で線維化の改善も期待できるとされているよ。
医学生医学生
でも、何も症状がないなら経過観察でもいいのでは、と少し思ってしまいます。
ドクタードクター
その感覚は危ないんだ。急速な体重増加が続けば、脂肪肝の悪化に加えて糖尿病や脂質異常症、高血圧といった代謝異常も出てくる。NAFLDの一部は脂肪性肝炎、つまりNASHへ進み、肝硬変や肝細胞癌に至ることもある。原因がはっきりしていて、介入すれば改善が見込める状態を放置する理由はないよ。
医学生医学生
睡眠時間の確保や勤務時間の短縮も、生活改善としては悪くない気がしますが。
ドクタードクター
いい疑問だね。睡眠不足は食欲に関わるホルモンのバランスを乱して肥満の一因になりうるから、望ましいことではある。ただ、脂肪肝への影響は間接的だ。勤務時間については、多忙が夜食の背景にあるのは確かでも、脂肪肝と直接の因果関係はないし、本人の努力だけでは変えにくい。医療者の指導としては、今の勤務状況でも実行できる食生活の改善を優先すべきなんだ。
医学生医学生
禁酒も、飲酒を控えること自体は悪くないけれど、優先順位は低いということですね。
ドクタードクター
そういうこと。「何が原因か」と「本人が実行できるか」の両方を考えて、最も効果的な一手を選ぶのが生活指導の要だよ。最後に発展知識を。2023年にNAFLDは代謝異常を重視したMASLD、NASHはMASHへと名称と定義が改められた。脂肪肝に加えて、肥満、耐糖能異常、高血圧、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症のうち1つ以上を満たすものをMASLDと呼ぶ。この患者さんは肥満の項目で該当するね。
医学生医学生
臨床実習で消化器内科を回ったとき、脂肪肝の外来患者さんにFIB-4 indexを計算していました。
ドクタードクター
それも大事なポイントだ。脂肪肝で予後を最も左右するのは線維化の程度なので、年齢・AST・ALT・血小板数から出すFIB-4 indexや、エラストグラフィによる肝硬度測定で非侵襲的に評価する。脂肪肝を「よくある軽い病気」と片づけず、原因を見極め、線維化をチェックし、減量につなげる。この流れを覚えておこう。

まとめ

脂肪肝をみたら、飲酒量、肥満・代謝異常、ウイルス性肝炎、薬剤などから原因を考えます。缶ビール350 mL 1本は純アルコール約14 gで、非アルコール性とみなす目安(男性1日30 g未満)を下回るため、γ-GTP高値があってもアルコールが主因とは限りません。夜食による短期間の体重増加と肥満が背景にある場合は、肥満関連の脂肪性肝疾患(現在のMASLD)として、食事・運動療法による減量、とりわけ原因となっている食生活の是正を最優先に指導します。一部は脂肪性肝炎から肝硬変・肝細胞癌へ進展しうるため単なる経過観察は不適切で、FIB-4 indexなどで線維化を評価することも重要です。検査値の印象に引きずられず原因を定量的に見極め、実行可能な指導を選ぶ姿勢は、生活習慣病診療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・45歳男性、人間ドックでγ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)105 IU/Lと軽度上昇。そのほかの肝機能検査(AST・ALTなど)は正常。 ・腹部超音波検査で脂肪肝。 ・HBV・HCVは陰性で、ウイルス性肝炎は否定的。 ・身長165 cm、体重72 kg → BMI=72÷(1.65×1.65)≒26.4 kg/m²で、日本の基準(BMI 25以上)で肥満に該当する。 ・飲酒は缶ビール350 mLを1日1本。純アルコール量はおよそ350 mL×0.05(アルコール度数5%)×0.8(アルコールの比重)≒14 g/日である。 ・多忙による深夜帰宅と夜食の習慣があり、最近3か月で体重が5 kg増加している。

診断へのプロセス

脂肪肝の主な原因は、過量飲酒、肥満・過栄養(メタボリックシンドロームに伴うもの)、ウイルス性肝炎、薬剤などである。本例はウイルス性肝炎が否定され、飲酒量も1日約14 gと少ない。非アルコール性とみなされる飲酒量の目安(男性で1日30 g未満、女性で1日20 g未満)を大きく下回っており、アルコールが主因とは考えにくい。一方で、夜食を含む過食による短期間の体重増加と肥満が明らかであり、肥満(過栄養)を背景とした非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と考えられる。ALTが正常であることから、現時点では炎症や線維化の乏しい単純性脂肪肝の段階が考えやすい(非アルコール性脂肪性肝炎〈NASH〉かどうかの確定には肝生検による組織診断が必要である)。

指導の考え方

肥満を基盤とする脂肪肝の治療の中心は、食事療法と運動療法による体重減少である。本例では夜食を含む食生活の乱れが体重増加の直接の原因であるため、エネルギー摂取量を適正化し、夜間の摂食を避けるといった食生活の改善を指導するのが最も適切である。

選択肢考察

  1. ×a.  禁酒

    1日缶ビール350 mL 1本は純アルコール約14 gで、節度ある適度な飲酒量の目安とされる1日平均約20 g程度にも収まっている。アルコール性肝障害の原因となる常習飲酒家の量(1日60 g以上が目安)には遠く及ばず、本例の脂肪肝の主な原因とは考えにくい。飲酒を控えることが悪いわけではないが、優先すべき指導ではない。なお、γ-GTPは飲酒で上昇しやすい酵素であるが、肥満による脂肪肝でも上昇するため、γ-GTP上昇だけでアルコールが原因と判断してはならない。

  2. ×b.  経過観察

    3か月で5 kgという急速な体重増加が続いており、放置すれば脂肪肝の悪化や、糖尿病・脂質異常症・高血圧などの代謝異常の出現につながる。また、非アルコール性脂肪性肝疾患の一部はNASHへ進展し、肝硬変や肝細胞癌に至りうる。原因が明らかで介入により改善が期待できる状態であり、何もせずに様子をみるのは不適切である。

  3. ○c.  食生活の改善

    本例の脂肪肝は、夜食を含む過食による体重増加と肥満が主因と考えられる。肥満に伴う脂肪肝の治療の基本は、食事療法と運動療法による減量であり、最初に行うべきは原因である食生活の是正である。具体的には、総エネルギー摂取量を適正化し、夜遅い時間の食事や夜食を控え、糖質(特に果糖を多く含む清涼飲料など)や脂質の過剰摂取を避けるよう指導する。体重を減らすと肝臓の脂肪は減少し、体重の約7%以上の減量で肝の炎症、約10%以上で線維化の改善も期待できるとされる。

  4. ×d.  睡眠時間の確保

    睡眠不足は食欲に関わるホルモンのバランスを乱し、肥満や代謝異常の一因となりうるため、生活全体の改善としては望ましい。しかし、脂肪肝の直接の原因である過食に比べると影響は間接的であり、多忙な本例に最も優先して指導すべき事項ではない。

  5. ×e.  勤務時間の短縮

    多忙な勤務が夜食や生活リズムの乱れの背景にあるのは確かであるが、脂肪肝と勤務時間そのものに直接の因果関係はない。また、勤務時間は本人の努力だけで変えにくく、医療者の指導事項として現実性に乏しい。勤務状況を前提としても実行できる食生活の改善を優先すべきである。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

・定義:画像や組織で脂肪肝を認め、過量飲酒(男性1日30 g以上、女性1日20 g以上が目安)やウイルス性肝炎などほかの肝疾患を除外したもの。 ・分類:病態がほとんど進行しない単純性脂肪肝(NAFL)と、炎症と肝細胞障害を伴い肝硬変・肝細胞癌へ進展しうる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に分けられる。両者の区別には肝生検による組織診断が必要である。 ・背景:肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧などのメタボリックシンドロームと密接に関連し、「肝臓におけるメタボリックシンドロームの表現型」とも呼ばれる。

名称の変更

2023年に国際的な学会合同で、NAFLDは代謝異常の存在を重視したMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)へ、NASHはMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)へと名称・定義が改められた。MASLDは脂肪肝に加え、肥満(BMIなど)、耐糖能異常、高血圧、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症のうち少なくとも1つを満たすものと定義され、本例は肥満の項目で該当する。中等量の飲酒を伴う場合はMetALDとして区別される。

線維化の評価

肝生検のほか、FIB-4 index(年齢・AST・ALT・血小板数から算出)、エラストグラフィによる肝硬度測定などで、非侵襲的に線維化の程度を推定する。線維化の進行は肝関連の予後を左右する最大の因子である。

治療

・基本は食事療法と運動療法による減量。 ・合併する糖尿病・脂質異常症・高血圧の治療。 ・高度肥満では減量手術が考慮されることもある。

アルコール量の計算

純アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8 例:ビール500 mL(5%)→ 約20 g、日本酒1合180 mL(15%)→ 約22 g。

POINT

・脂肪肝をみたら、飲酒量・肥満/代謝異常・ウイルス性肝炎・薬剤などから原因を考える。 ・非アルコール性とみなす飲酒量の目安は男性1日30 g未満、女性1日20 g未満。缶ビール350 mL 1本は純アルコール約14 g。 ・γ-GTPは飲酒以外に肥満による脂肪肝でも上昇する。 ・肥満に伴う脂肪肝の治療の基本は食事・運動療法による減量。原因となっている生活習慣(本例では夜食・過食)の是正を優先する。 ・NAFLDの一部はNASH→肝硬変→肝細胞癌へ進展しうるため、放置(単なる経過観察)は不適切。 ・NAFLD/NASHは2023年にMASLD/MASHへ名称変更された。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。